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第十三章 ヘタレ教育制度改革

第二十九話 輸送力

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「あと問題なのが輸送力なんだよな」

「義兄上が主導してくれたおかげで街道整備は滞りなく進んでいます。王都から周辺都市へはほぼ石畳を敷いた街道が完成していますし」


 引き続き俺とジークの会議が続く。
 もちろんこの場にはクリス、シル、アイリーン、ちわっこ、そしてそれぞれの側近などが控えているのだが、基本的には俺とジークで打ち合わせをして、専門的なことに関しては周囲にいる人間に聞くか、補足してくるという感じだ。
 ファルケンブルクでの領主会議は挙手さえすれば担当以外の幹部でも質問や補足説明が可能だが、ラインブルク王国での朝議と呼ばれる会議では、王とその補佐である宰相、そして各大臣のみに発言が許可され、副大臣以下は下問があった時のみ発言が可能というスタイルなのだ。
 あとお茶を淹れてくれたり書類を配ってくれたりと雑務のための女官が数名控えているが、さっきからコソコソしてて気になる。

 そう言った理由からジークがやりやすいと思われるやりかたで先ほどから打ち合わせを行っているのだが、俺はほぼ概要しか知らないんだよな……。


「馬車だとどうしても輸送力に限界があるんだよな」

「運河建設の計画も王国で一時期議題に上がったこともありましたが、工費と水棲魔獣の駆除のコストが高過ぎて採用されなかったんですよね……」

「魔導駆動車もまだ民間どころか軍にも行き渡ってないからな」

「そうですね、魔石がある限り高速で走り続けられる魔導駆動車が輸送の主力になれば、まさに輸送革命ですね」

「馬車だと一日で輸送できる距離も量も少ないしな。替え馬がいなければ馬に休憩を頻繁に与えないといけないし」

「義兄上に頂いた魔導ハイAのおかげで王都からここまで四時間かかりませんからね、馬車では替え馬を使ったりしても最低一泊は必要でしたが」

「複数頭立ての人員を輸送する馬車で替え馬をしてそれだからな。民間で使われている一頭立ての馬車で物資を輸送しようとすると更に日数がかかるし」

「街道整備でかなり効率は上がったんですけれどね」

「それでも西ガルバニア帝国の鉄道輸送とは比較にならん。アイリーン帝都と前線基地を結ぶ鉄道建設の状況は?」

「はっ。現時点で八割程度が完成していると思われます」


 俺の突然の質問にも関わらず、アイリーンが即答する。


「いつごろ完成予定なんだ? あとは実際にレールの上を走る蒸気機関車が実用レベルなのかどうかだが」

「およそ一ヶ月ほどと予測します」

「一ヶ月か……」

「義兄上、防衛側であれば輸送距離も短くなりますし、輸送力の差はそれほど影響しないのでは」

「殲滅しても次から次へと兵と武器と食料が前線に送られてくるんだぞ。『ローマ軍は兵站で勝つ』と言われたほどだしな」

「ローマ……義兄上の住んでいた世界の話ですね」

「最強チートのハンニバルに同情するほど国家チートだったからな、あの当時のローマは」

「クリス義姉上、そのローマという国家とハンニバルという人物が登場する異世界本はお持ちですか?」


 最強チートとチート国家という単語に興味を持ったのか、異世界本マニアであるクリスに早速質問をするジーク。すでに義理の姉の趣味は把握しているようだ。
 チートという言葉の意味は多分伝わっているだろう。言語変換機能って便利だな。たまに融通が利かないけど。


「ええ、あとでお貸しいたしますわね

「ありがとうございます義姉上」


 ジークはクリスににっこりと笑みを返して礼を言う。クリスも非公式の場ではジークのことは王太子殿下ではなく、ジークと呼んでいるのだ。

 ファルケンブルクも魔法技術のおかげでチートといえるほどに発展しているとは思うが、あくまでも近世欧州レベルの文化度をベースにしている。
 西ガルバニア帝国の産業革命はこの時期では十分チートと言っていいだろう。


「破壊工作……は開戦後ならともかく現時点ではやり過ぎか。工事遅延工作あたりならどうだ?」

「……難しいでしょう。あからさまな妨害工作は向こうに大義名分を与えてしまいますし」


 やや考え込んだあとにアイリーンがそう答えた。


「じゃあそれは実際に開戦したあとに実行できるように準備をしておく程度か」

「はっ」

「いざとなったらマジノ山脈の間道を埋めても良いしな」

「大胆ですね義兄上……」

「敵兵を生き埋めにするつもりはないが、警告の上で間道両脇の岩壁を破壊するのも手だと思うぞ。今は民間交流もあって隊商も行き来してるから無理だけどな」

「敵兵を引き込んだのちに退路を断って士気を下げるというのもいいかもしれませんね義兄上」

「窮鼠と化してしまうかもだしな……。それに侵攻路がマジノ山脈の間道だけというのも考えにくいし」

「そうですね、義兄上の言う通り間道を埋められたら終わりですから」

「山脈越え、トンネル、海上の他に侵攻経路があるか? 空? 航空機? まさかな……」

「旦那様、航空機による侵攻はあり得ませんわ」

「そうだよな、蒸気機関車がやっと完成ってレベルじゃ複葉機ですらまだだろうし」

「いえ、ファルケンブルクには天竜ですら撃ち落とす対空兵器が充実しておりますから、空からの侵入は自殺行為ですわ」


 そういやそうだった。下手したら現代の戦闘機にすら対抗できるんじゃなかろうか。ステルスにどこまで対応できるか知らんけど。


「侵攻経路の予測も頼むぞアイリーン。クリスも異世界本の知識を使って力を貸してやってくれ」

「はっ」

「かしこまりましたわ旦那様」

「王都に隣接する山脈の警戒はお任せください義兄上」

「ああ、頼むぞジーク」

「はい!」


 現時点で対策できるのはこんなもんか。
 トラックタイプの魔導駆動輸送車両の増産もいきなりはできないしな。




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また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
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