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第十三章 ヘタレ教育制度改革
第十話 運動着
しおりを挟む運動着ねー。
たしかに公共事業の時に作業員に無料配布していた安価なシャツとズボンと同じように、汚れたり破れたりしても良いような物を配ってただけだったが、この際もう少しまともな物を用意しても良いかもしれないな。
「トーマお兄さん、運動着の値段も普通のシャツの半額以下で出来るんだよ」
「確かに綿花増産はしてるけど、そこまで安くなるのか?」
「安いスライム材の繊維を混ぜた布だから安いんだって。あとは工場直販だからってロイドおじいさんが言ってたよ」
「なるほど、化繊混じりみたいなもんか。あと直販って……紡績工場も織布工場も官営だろ。中の機械は魔導士協会に作って貰ったし、工場の売り上げから何パーセントかは魔導士協会に流れるけども」
「品質は良いし安いし、こんな凄い布を作っちゃうトーマお兄さんはやっぱりすごいね」
「俺は何もしてないぞ。クリスやアイリーン、爺さんに任せてるだけだからな」
「でもね、クリスお姉さんが『責任は全て俺が取るから、お前たち専門家には領民にとって最良と思うことをどんどん実行して欲しい』って言える領主はほぼいないって言ってたよ」
「実質何もしてないからな俺は」
「それでも『でも一応何かを始めるときは報告書を上げろよ』ってヘタレてるところが素敵って言ってた!」
「うるさいよ。流石に予算もあるし好き勝手させられないだろ」
「予算とかよくわからないけどね。でもお母さんも言ってたけど、トーマお兄さんが領主様になってからどんどん町が良くなってるって」
「アンナの母親は有能なのにその能力を生かす仕事が見つからなかったしな。そういう有能な人材をちゃんと生かしているだけでも生産能力はって……」
アンナと何故か領地経営の話で盛り上がっていると、ミコトとエマが奥の更衣室から出てきた。
後ろには、何かされないか心配でついて行ったエリナとクレア。そしてもはや親衛隊と化した女子部員を引き連れている有様で、ミコトとエマの頭の上に乗っているヤマトとムサシが何故か偉そうだ。
別にお前の親衛隊じゃないだろ。あ、ひとりだけヤマトとムサシの熱狂的なファンがいたか。
「パパ! このおようふく、すごくうごきやすいんだよ!」
「ぱぱ! どう? かわいい?」
半袖の白いシャツに、紺のハーフパンツは俺の知っている物というか実際に使っていた物と見分けがつかないほど同じだ。
よかった。ブルマとかだったら即廃棄させたわ。
は? うるせー。娘のブルマ姿なんぞ他人に見せられるか!
「可愛いぞミコト、エマ!」
「「わーい!」」
「ちょっとその服を良く見せてくれるか?」
「「うん!」」
元気よく返事をすると、ミコトとエマがぽてぽてと俺の側に歩いてくる。
「ふむ」
体操着を少し引っ張って布地を触ってみる。
綿とポリエステルの混紡みたいだな。軽くて通気性も良さそうだし、綿も使われているので吸水性も良さそうだ。
ちなみにミコトとエマも運動着の下にはちゃんとキャミソールを装備済みなので色々安心だ。
「首元と袖の部分の色を学年によって分けようと思うんだけど、トーマお兄さんはどう思う?」
アンナがそう提案してくるが、俺としては当たり前の感覚だったので否やは無い。
「良いんじゃないか?」
「えー! エマちゃんとおなじがいい!」
「えまもみこねーといっしょがいー!」
「んー。学年ごとに分けるのは俺のいた世界じゃ当たり前だったけどな」
「大丈夫ですよミコトちゃんエマちゃん」
クレアがミコトとエマを後ろからそっと優しく抱きしめながら言う。
「そうなのママ?」
「みこねーといっしょのをきられるの?」
「ええ、エマちゃんが来年入学するミコトちゃんと一緒に学園に入ればいいんですよ」
確かに来年度から飛び級制度を導入するけど……。
現在エマは三歳、入学する時には四歳だぞ? 四歳児が六歳児の学力を身に着けるって厳しくないか?
六歳に達していれば、学力が規定に満たなくても義務教育なんで入学は可能なんだが、飛び級制度を利用するなら学力は厳格に精査される。
それに飛び級制度は基本的には十二歳から始まる専門課程を、成績のいい十歳や十一歳の生徒に早めに専門課程を学ばせたいという理由からだ。
建前上入学時にも適用されるけど、狭き門と言っていいだろう。
特に我が子を依怙贔屓してると思われるとせっかく順調に進んでる教育政策に水を差すことになりかねないし。
エマが周囲を納得させるだけの結果を出せるのが一番なんだけど。
「えまがんばってみこねーといっしょにがくえんにいく!」
「ああ、頑張れエマ」
「うん!」
元気いっぱいに返事をするエマを、エリナとクレアが微笑むように見守っている。
ふたりはエマの入学を確信しているようだ。
俺も信じたいんだが、普段の勉強なんかはエリナとクレアが教えてるんだよな。
なんとか入学できればいいんだが。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
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