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第十二章 ヘタレ情操教育
第二十五話 再生
しおりを挟む「パパ……ヤマトとムサシはほんとうにだいじょうぶ?」
「ぱぱ……」
ミコトとエマはぎゅっと俺にしがみついてヤマトとムサシを心配する。
「ああ、大丈夫だ心配するな」
娘たちを安心させるように優しく頭をなでながら言葉をかけるが、正直こんな状況は俺にも未経験だ。
冬眠するには早いし、そもそも繭に籠って越冬する鳥なんかいないし、いったいどういう状況なんだこれ。
先ほど繭を触った時は温かかったし、微妙に動いてる感じはしてたから死んだりはしてないとの確信は持てるんだがな。
鳥カゴの中いっぱいに張られた繭の中には、ヤマトとムサシが一緒に入っている。
真っ白なその美しい繭は、前の世界でも見たことが無いような光沢を持ち、リビングに設置されている魔導ランプの光を受けてキラキラと輝いている。
そんな神秘的な雰囲気の繭を、ミコトとエマが心配そうにずっと眺めていた。
ふたりを安心させるためにと、そっともう一度、籠の中の繭に近づき、耳を寄せて様子をうかがってみる。
<グー>
<スピー>
………………。
「パパ?」
「こいつら繭の中でいびきかいてやがる……」
「やまととむさしはいつもねてるときにぐーぐーいってるよ!」
「ヤマトとムサシはたまにおなかをうえにむけてねてるよねエマちゃん!」
「おっさんじゃん」
「パパ! ヤマトとムサシはおっさんじゃないよ!」
「やまととむさしはおんなのこだもん!」
ミコトとエマの抗議を無視した俺は、さっきよりもぞもぞ動き出した繭に興味をなくす。
もう完全に大丈夫だろこれ。
変態して繭の中から危険な魔物が出てきたらと警戒もしていたが、どうやらヤマトとムサシはアホっぽいし心配はないだろう。
「旦那様、バルトロ卿をお連れしましたわ」
「閣下、お待たせしてすみませんですじゃ」
「センセ! 魔物に詳しい人を連れてきましたよ!」
リビングに続々と助っ人たちがやってくる。
ヤマトとムサシの命の危険はもう無いが、どんな生き物なのかを判断する必要はあるからな。
こんな繭を作って中でいびきをかくみたいな珍しい行動を取る動物や魔物なら一発でわかるだろう。
「……これはもしや」
早速マリアが連れてきた、『ベアトリーチェ』と名乗るエルフ族の女性が、繭を見て小さな声でつぶやく。
「エルフ殿、これはひょっとして『アレ』なのかの?」
「ですね、二百年ほど前に東北地方……今の亜人国家連合が出来る前に訪れた、小さな集落で一度だけ見たことがあります」
「ほう、まさか実在したとは」
「飼い主と思われる方と随分ケンカをしてましたね」
「じゃろうのう……」
「バルトロ卿、ベアトリーチェ殿、ではやはり……」
ケンカってなんだよ……。とツッコミを入れようとしたところ、繭が先ほどより大きく動き出した。
「パパ!」
「ぱぱ!」
「念のためだ。クリス」
「はい旦那様」
ミコトとエマをぎゅっと抱き寄せると、クリスが防御魔法を展開する。
警戒しながら、もう切れ目が入っていつ中からヤマトとムサシが出てきそうな繭を凝視する。
「「ピー!」」
切れ目の入った繭から、ピンク色に羽毛の色を変えたヤマトとムサシが鳴きながら飛びだしてくる。
もちろんトレードマークのアホ毛はそのままついてるし、色も変わっていない。
「ヤマト!」
「むさし!」
スズメサイズからツバメサイズと微妙に大きくなったヤマトとムサシは、扉を開けたままの鳥カゴから飛び出してミコトとエマの頭に飛び移る。
「ヤマト! よかった!」
「ちょっとおおきくなったねむさし!」
「やはり、フェニックスでしたわね……」
「ですね。私が以前に見たフェニックスと似ています」
「文献では知っておったが、初めて見るのう」
ヤマトとムサシの正体を看破していたらしい三人が、そのの生まれ変わった姿を見て、やはりと確信したようだ。
たしかに繭化する前は、茶色のヒヨコかスズメみたいな見た目だったし、今とかなり見た目が変わってるからな。
アホっぽい顔とアホ毛はそのままだが。
「ヤマト!」
「ピッピ!」
「むさし!」
「ピッピッ!」
ミコトとエマが、きゃっきゃと繭から出て来たばかりのヤマトとムサシに構いまくっている。
ベアトリーチェという名のエルフが、過去、フェニックスが飼われていたと言っていたし、そもそもあれだけミコトとエマに懐いているんだ、危険は無いだろうな。
ヤマトとムサシを警戒する必要は無いと判断した俺は、クリスに目で合図をして防御魔法を解除させる。
ヤマトとムサシに危険は無いが、フェニックスという魔物がどういう生き物なのかを調べる必要はあるだろうな。
とりあえずは無事にヤマトとムサシが繭から出てきてくれてほっと一安心だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
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