ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

文字の大きさ
上 下
273 / 317
第十二章 ヘタレ情操教育

第二十二話 魔素収集パネル

しおりを挟む

 あの三人が騒ぎまくった昼食が終わり、会議の続きを始める。


「では、魔導士協会会長のロイド卿からの報告になります」


 アイリーンの言葉に無言で頷くと、「はっ。ではロイド卿、どうぞ」と爺さんに発言の許可を与える。


「うむ。ではこの書類をトーマにの」


 爺さんは座ったまま、用意してきた書類を女官経由で俺に渡してくる。
 爺さんは俺の部下ではないし、そもそも爵位は侯爵で俺より上なのだ。
 ファルケンブルク領で行われる領主会議では俺とアイリーンに次ぐ席に座っているが、対外的には協力者というか対等な関係ではあるので、発言の許可をアイリーンが出すというのは越権行為とも取られるかもしれない。
 だが、アイリーンというかファルケンブルクは魔導士協会の最大の債権者なのだ。
 完全に力関係では俺たちの方が上である。爵位的に敬意を持って接してはいるが。


「おお、魔素を魔力に変換するのに成功したのか。そういや前に研究に目途が立ったって言ってたっけ」

「試作品は問題なく出来た。が、変換効率が悪すぎての。しかし新技術じゃしこれから効率化を図るつもりじゃ」


 爺さんの作成した書類に目を通してみる。
 魔素を使った推力装置の概要なのだが……。


「魔素収集パネル?」

「そうじゃ。マリアの嬢ちゃんとエカテリーナの嬢ちゃんの協力のおかげでの、魔素に反応する素子ができたんじゃ」


 そう言って爺さんはA4サイズの折りたたまれた板を展開して、一畳くらいのサイズまで広げる。
 書類の図面を見ると、その板をヨットのように立てた魔導駆動バギーの絵図が描かれていた。


「ソーラーセイルを使った宇宙ヨットみたいだな。宇宙工学っぽい」

「異世界の百科事典などに記載されていたソーラーセイルやイオンエンジンなんかの技術もほんの少しじゃが使っておるぞい」

「この世界って異世界本のおかげでやたらと文化レベルや技術レベルが高いんだけど、それならもう電気を作ったほうが色々早くないか?」

「コストじゃな。電力より魔力の方が安全じゃし、低コストじゃ。それにぶっちゃけて言うと利権化しておっての。なかなかに反発も多い」

「たしかに魔石に魔力を充填する事業だけでもかなりの利益だしな。極小魔石なんか百均の乾電池並みの値段で安く流通してるから薄利多売状態だけど」

「安く魔石が出回ることで魔導具も市場で売れるようになったしの。今から電化製品に変えますと言っても難しいじゃろう。とはいえ魔導士協会内では発電機を試作しておるぞい」

「マジか、スマホとモバイルバッテリーを研究用に貸してくれとか言ってたときはまだ何も作ってなかったろ」


 エリナとの結婚式なんかのイベントの時や、ここ最近はミコトとエマを、時折思い出したようにスマホで撮影しているのだが、以前爺さんに見つかった時に、「絶対に壊さないから貸してくれ! 分解はするがちょっとだけじゃから! 痛くしないから!」と何度も言われていたがすべて断っていた。魔導具で写真や動画も撮影しているが、俺の格安スマホ以下の画質だし、スマホとモバイルバッテリーどちらが欠けても二度と見られなくなるしな。
 とは言え電力か。
 この世界には<転移者>が様々な時代から持ち込んだ本や知識が溢れている。
 レアメタルなんかの問題はあるが、電力の実用化は不可能じゃないだろう。


「魔素を魔力に変換する研究の副産物じゃの。魔素を電力に変換できれば早かったんじゃが」

「色々やってるのな」

「まあの。でじゃ、このパネルで空気中に漂う魔素を集めてマリアの嬢ちゃんのセグAを動かそうとしたんじゃが、ちっと動く程度で浮きすらしなかったのじゃ」

「人間を乗せて浮くなんて相当な魔素が必要そうだしな」

「で、今度は魔力に変換する素子を使って魔力を生成できるようになったんじゃが、出力が足りんのじゃ。魔導駆動バギーにこの倍のサイズのパネルを乗せて、集めた魔素を魔力に変換して魔導エンジンを動かしても大人ひとりを乗せて動かせる程度じゃしの」

「たしかにそれじゃ実用には向かないよな。パネルそのもので外郭を覆ってもまだ足りなさそうだ」

「うむ。なので今後の研究としては、魔素収集パネルの高効率化と、魔導バッテリーの開発じゃな」

「ああ、まさに太陽光発電と充電システムのイメージだな。出力効率が悪くても、一旦コンデンサやバッテリーに充填すれば高出力化も簡単か」

「とはいえ機器が増えるのは美しくないのでの」

「まあわからんでもない。結局コストが高くなるし」

「そういうわけで魔素収集パネルの高効率化を主軸に研究を進めていく予定じゃ。現状レアメタルが無いからソーラーパネルよりは高効率じゃし」

「現状の技術で試作した二畳サイズの魔素収集パネルでも大人ひとりを乗せた魔導駆動バギーを動かせるわけだしな。でも周囲の反発があったとしても電動モーターなんかの電力系統の研究も続けるんだろ?」

「もちろんじゃ」

「なら俺の個人資産から寄付金を出すから研究の足しにしてくれ」

「おお! すまんのトーマ!」

「債務の返済に回すなよ爺さん」

「もちろんじゃ!」

「あと、発電機で俺のスマホが充電できるようになったら、太陽光発電機能付きモバイルバッテリーを研究用に提供しても良い」

「太っ腹じゃの」

「スマホの充電ができるようになれば必要なくなるからな。モバイルバッテリーは太陽光発電パネルとリチウムイオン電池の実物だし、爺さんの研究の役には立つだろ」

「わかったぞい、すぐに充電できるようにしてやるからな」

「とはいえ電圧とか電流を測る機器は絶対に先に作れよ、スマホを壊すわけにはいかないからな」

「無論じゃ。そうと決まったらこうしてはいられん。戻って研究を続けるからお先に失礼するぞい」


 そう言うと爺さんはパタパタと魔素収集パネルを畳んで懐に入れ、「じゃあの」と会議室を退出する。
 自由だな。まあこの後に続く領地の政策の話を聞いてても爺さんには退屈だろうし別に良いんだけど。

 研究が進めば、万が一スマホが壊れたとしても修理できるようになるかもな。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。

また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を余裕で超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...