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第十二章 ヘタレ情操教育
第十六話 おにぎり
しおりを挟む公園内をひとまわりしたあとに魔導観覧車に乗る。
平日にも関わらずそこそこの人出があり、乗るのに少し並んだが、この公園に設置されている魔導観覧車は、魔導遊園地のものより小規模だが、城や現在工事中の学園の新校舎などが近くに見えるので意外と人気があったりするのだ。
「ほらヤマト、あそこがおうちだよ! ヤマトはここからおうちまでとべるかなあ?」
「ピュイピュイ」
「まだそこまでとべないんだね!」
「むさしはー?」
「ピュイ」
「むさしもまだなんだねー」
「なあ、普通に会話してないかお前ら?」
「なんとなくわかるよ!」
「えまも!」
「あっそ。でもヤマトとムサシの鳴き方や音程の高低でなんとなく『イエス』か『ノー』程度はわかる気がする」
「私もそれならなんとなくわかるかな?」
「兄さま、姉さま、私もなんとなく理解できますね」
「ヤマトとムサシが凄いのか、魔力持ちだと理解しやすいとかそんなのがあるのかね」
でも魔力持ちの魔物相手に意思疎通なんか一切できなかったしな。
ヤマトとムサシが、犬や猫みたいに人間の言葉をある程度理解してるってのが普通にありえそうだ。
よくわからん生き物について考えていると、俺たちを乗せたゴンドラが地上に到着する。
「そこの軽食販売所で昼飯にするか」
「「「はーい!」」」
軽食販売所に並ぶ食べ物を見ると、以前より種類が色々増えているようだ。
特に米類を使った弁当などが豊富に揃っている。
「好きなのを頼んでいいぞ」
「んとね、おにぎりせっとください! のみものはオレンジジュースで!」
「えまも!」
ミコトたちの頼んだおにぎりセットは、銅貨三十五枚と日本円で三百五十円ほどで、おにぎり三個にから揚げ、玉子焼き、ウインナーとおにぎりにおかずが付き、ドリンクもついたお得なセットだ。
好景気に沸いているファルケンブルクだが、食べ物に関しての物価は安いままだ。米や小麦、麺類などが安く流通してるからな。
所得の低い家庭でも、物価高の中、生活必需品だけは従来の値段で買えるように価格調整をしているアイリーンの手柄でもあるんだが。
あとは官営商店が物価調整をしているおかげで不当に値上げする商店がほぼ皆無ということもあるか。
ミコトとエマがおにぎりセットを店員から受け取り、エリナとクレア、俺も昼飯を買って、近くのベンチに座って食べることにする。
あと、昼食の乗ったトレーを受け取るときに、店員から「良かったですね」と言われたんだがよくわからん。
限定販売のおにぎりセットを買えてよかったですねってことなのかな?
特におにぎりセットは限定とか書いてなかったんだが。
「はいヤマト! ごはんだよ!」
「むさしもどうぞ!」
ミコトとエマが、おにぎりを自分の頭に乗るヤマトとムサシの前に差し出すと、ヤマトとムサシが海苔の部分を避け、米の部分だけを器用につつき始める。
海苔は亜人国家連合からの輸入品で少しお高いのだが、この値段でも提供できるようになるほど普及し始めた。
といっても、ミコトたちが買ったおにぎりセットのおにぎりの海苔は、手で持つ部分だけに海苔が使われてるのでそれほど大きいサイズではないのだが。
高級おにぎりになると、米が見えないほど海苔が巻かれていて、値段も少し高くなるのだが、それでも市場では人気なのだ。
米がかなり領民に受け入れられ始めたのは喜ばしいことだ。
サクラがガンガン開拓して生産量を増やしてくれているからな。
「さて俺も食うかっていうか、そういやおにぎりの具って説明されてなかったな」
「そうだね、なんだろう? 楽しみ!」
「このお値段ですからね、魚介系は無いと思いますよ」
ミコトたちと同じくおにぎりセットを買ったエリナとクレアの反応がキャラ設定そのままだ。
「まあ食ってみよう」
「「はーい」」
おにぎりの具は、それぞれ、揚げ玉プラスねぎの「悪魔のおにぎり」と定番の「高菜」、そしてファルケンブルクに住む人に大人気だという「ベーコンチーズ」だった。
悪魔のおにぎりって日本でも最近じゃなかったっけ? まあ美味いから良いんだけど。
「この値段でこれはお得ですね!」
「おいしーねお兄ちゃん!」
「この揚げ玉とネギのおにぎりはコストパフォーマンス最高だと思うぞクレア」
「ですね! 早速うちでも定番の具にしたいと思います!」
「ヤマトおいしい?」
「ピッピ!」
「むさしおいしい?」
「ピッピ! ピッピ!」
ヤマトとムサシは、結局一羽でおにぎりひとつ分を食べる。
ほんとすげえ食うな小鳥の癖に。
しかも滅茶苦茶食べるのに体のサイズが一向に変わらん。
これで成鳥なのかな?
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