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第十二章 ヘタレ情操教育
第十五話 はじめてのお散歩
しおりを挟む一号が作ったタンドール窯を屋根のある勝手口の脇に設置して数日、「兄ちゃん、これで料理作ってくれよ」とうるさいので、今日はカレーにタンドリーチキン、ナンを晩飯に出すことになった。
ヤマトとムサシがいるのにチキン料理はどうかと思ったが、どうやら鶏じゃないようだしそろそろ良いかな。
ヤマトとムサシを飼っているあいだはずっとチキン料理を食べられないというのは問題だし、ミコトとエマの一番好きな食べ物はチキンの入ったクリームシチューなのだ。
朝食後、クレアとタンドリーチキンとナンの下拵えをする。
「兄さま、チキンを漬け込むヨーグルトには唐辛子は入れないんですね?」
「カレーも少し辛目に作るからな。タンドリーチキンまで辛いとガキんちょには合わないかもだし、タンドリーチキンにはヨーグルトとナッツペースト、塩とコショウくらいでいいだろ」
「わかりました」
「ナンにはふくらし粉に塩、ヨーグルト、バター、鶏卵に砂糖とシナモンを少し入れて甘めにしようと思う」
「いいですね、ナンだけでも美味しそうです」
「砂糖とシナモンが入ると一気におやつ感が増すよなー」
「それでもカレーと合わせればちゃんと食事になりますしね」
「不思議だよな」
クレアと話をしながらちゃっちゃと晩飯の下拵えを進める。
今日の昼食は、魔導公園に散歩に行くついでに軽食販売所で済まそうということになったので、晩飯の準備だけでいいのだ。
「パパ! はやくはやく!」
「ピー! ピー!」
「ぱぱ! はやくいこー!」
「ピーピッピ!」
下拵えを終えてリビングに戻ると、ミコトとエマ、それとミコトとエマの頭に乗っている二羽から早く散歩に行こうと催促される。
うるさいのが増えたな……。
最近のヤマトとムサシはリビングの端から端の距離なら飛べるようになり、フンはきちんと決められた場所でするようになった。
かなり賢いよなこれって。
今も早く散歩に連れて行けと催促するように俺に向かって鳴いてるし。まあこれはミコトとエマの真似をしてるだけかもしれないが。
「お兄ちゃん、準備はできてるよ!」
「兄さま私も大丈夫ですよ」
「じゃあ行くか」
「「「はーい!」」」
エリナとクレア、ミコトとエマ、ヤマトとムサシを伴って家を出る。
というかヤマトとムサシを外に連れ出すのって初めてだな。
そのまま逃げちゃったりしないんだろうか。
「「ピー! ピー!」」
逃げないよ! とでも言っているのだろうか。
こいつらの種類を確認しようとマリアやエカテリーナに、エルフ族で鳥類に詳しい人を紹介してもらい、見て貰ったが良くわからないと言われた。
サクラの伝手で亜人国家連合で鳥類に詳しい人物はいないかと聞いてみたが、長寿で自然と共生しているエルフ族でわからないのなら難しいと言っていたんだよな。
「お兄ちゃん今日は天気が良いね!」
「そうだな。ちょっと風が強いけど……ってヤマトとムサシは大丈夫なのか? 頭から落ちたりしないかな?」
「「ピッピ」」
「パパ大丈夫だって」
「ほんとかよ」
「「ピー! ピー!」」
「ほんとうにだいじょうぶみたいだよ? ぱぱ」
「なんで意思疎通してるんだお前ら……」
ぽてぽてと魔導公園に向かって歩いていく。
道中、少し強い風が吹きつけるたびにヤマトとムサシは頭から落ちそうになるが、上手いこと羽ばたいてリカバリーしている。
家の裏口から直接魔導公園に繋がるルートを通ってるので通行人は皆無だが、頭に小鳥を乗せている娘たちを見られないでよかったなと少しだけ思ってしまった。
だってアホっぽいじゃん?
「「ピー! ピー!」」
「はいはい。そんなことより魔導公園に到着したけど、ミコトとエマはどうする? 魔導コースターに乗るか?」
「ヤマトとムサシがとばされちゃうからのらない!」
「あぶないもんね!」
「「ピッピ! ピッピ!」」
「じゃあ少し公園内を歩くか。疲れたら魔導観覧車かな」
「「うん!」」
ミコトとエマは手をつなぎ、それぞれ頭にヤマトとムサシを乗せ、俺たちを先導するようにぽてぽてと植樹された公園内を歩いていく。
そろそろ秋の気配を感じる過ごしやすい時期になってきた。
「「ピッピ」」
「あれはねー、『さくら』っていう木なんだよ!」
「さくねーとおなじなまえなんだよ!」
「「ピーピー」」
ミコトとエマが、初めて外の景色を見たヤマトとムサシに、目に映るものすべてを一生懸命に説明する。
そういやエマを初めて公園に連れ出した時もこんなことしたっけ。
ふとエリナとクレアを見ると、ふたりともニコニコ顔でミコトとエマを見守っている。
平和だなー。
やっぱり動物を育てるのは子どもの教育に良さそうだな。
ただ学園では鶏を育てるようになったけど、食事にチキンを出すのは大丈夫なのだろうか。
晩飯の時に一波乱ありそうだな。
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