ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

文字の大きさ
上 下
262 / 317
第十二章 ヘタレ情操教育

第十一話 孵化

しおりを挟む
 卵を温めて一ヶ月弱。
 三人目も毎朝検卵ついでに朝食を取っていくが、検卵でも順調に双子が育っている。
 とはいえ、念には念を入れて、孵らなかった場合に備えて、すり替え用として孵化寸前の鶏卵をいくつか用意して貰ってあるので、ミコトとエマには卵が双子だということは秘密だ。
 三人目いわく、あと数日で孵化するとのことなので無事に生れてくれればいいんだが。
 
 朝の騒がしい時間帯が過ぎ、仕事や学園に登校する連中を送り出した後、先月の領主会議での施策の経過報告書をリビングでチェックしながら、時折ふたりで手をつなぐように卵を温めている娘たちを眺める。またイチャイチャしてるな……。
 そろそろまた領主会議の時期なので、頭に入れておかなければならないことが多いのだ。
 元々王都や亜人国家連合からの留学生を各百人ずつ受け入れる予定だったところに、六歳以上、十五歳未満の領民は義務教育とか俺が言い出したおかげで、予算のやりくりや新校舎や学園の施設やらの設計図に大幅の変更が加わったせいなんだけど。

 交易は物産展を開催してからは更に順調に伸びてるし、領民も増えて税収も伸びてるんだけど、その利益を軽く吹っ飛ばす程の予算を教育に突っ込む俺ってやはりアホなのかもしれない。
 あとそんな俺の提案に全力で応えてくれようとしてる幹部連中には頭が上がらないな。

 頭を悩ませながら書類と格闘していると、イチャついてた娘ふたりがこちらに顔を向けて声をかけてくる。


「パパ!」

「ぱぱ!」

「どうした?」

「あのね! たまごのなかからコツコツおとがなるってるの!」

「うごいてるんだよぱぱ!」

「ああ、三人目が言ってた嘴打ちはしうちだな。雛が卵から出てこようとして、内側から卵の殻をつついているんだぞ」

「ほんと⁉ いつでてくるの⁉」

「いつうまれるの⁉」

「二十四時間程度って言ってたから明日くらいかな。普通の鶏より成長に時間がかかってるから明後日かもしれないけど」

「そっかー!」

「たのしみだね! みこねー!」

「うんエマちゃん!」

「もうそろそろ出てくるから、巣箱に移さないとな」

「「はーい!」」

 そしてまたイチャイチャしだす娘たち。
 保温の魔法石が仕込んである巣箱とオガクズは用意してあるから卵をそこに置かないと。
 魔法石の仕込まれた巣箱といっても、実際は保温機能付きの弁当箱をそのまま流用したものなので、中に卵を入れるのは少しどうかなって思うんだが。

 餌に関しても『魔物だからなんでも食いますじゃ。むしろしばらく何も食わないでも平気ですじゃ』とか言ってて頼りにならん。
 一応米をメインに雑穀をすりつぶして煮たものを、体温程までに冷まして食べさせれば問題無いらしいが。
 あとたまに青菜とかの野菜も刻んで与えると良いらしい。
 これは野菜売りのおばちゃんに聞けばわかるだろうから今度聞いてみるか。





「ミコトちゃん、エマちゃん。そろそろ寝ないと。生まれそうになったら起こしてあげるから」

「「やだ!」」


 いつもは素直に言うことを聞くミコトとエマが頑なに巣箱に置かれた卵から離れない。
 食事中も巣箱を側に置き、風呂に入るときもミコトとエマで交代しながら風呂に入り、ずっと離れないのだ。


「エリナ、好きにさせてやろう」

「うーん。でも我慢できなくなって寝ちゃったときに生まれちゃっうかもだよ?」

「クレア、眠気を飛ばすような魔法ってあるのか?」

「ありますけど子どもに使うのは……。あれは睡眠時間を削って働く人のための魔法ですし」

「何その社畜魔法、怖いんだけど」


 しかしミコトとエマの気持ちもわかるんだよな。
 朝からずっとコツコツ殻を内側からつついてる音がしているのだ。
 雛が一生懸命に孵化しようとしているのを、ふたりはずっと応援してる。寝てる場合じゃないんだよな。
 締め切りや納期に終われて仕事をするわけじゃないから、いざというときは社畜魔法を使ってでも、生まれる瞬間に立ち会わせてやりたい。


「パパ!」

「ぱぱ! たまごが!」

「おお! 生まれるのか⁉ メイドさーん! 三人目を呼んできて!」

「はっ」


 メイドさんに三人目を呼ぶように指示してすぐに巣箱に置かれた卵を見る。
 小さな穴が開き始め、そこから少しずつゆっくりと、コツコツ、パリパリと音を鳴らしながら穴が大きくなっていく。

 殻が割れ始めてから一時間。
 三人目もとっくに到着し、うちにいる全員で見守っていると、大きな殻が剥がれ落ち、中から二羽の雛が姿を現す。



「ふたごだ‼」

「ふたりいる‼」

「「「かわいい!」」」


 中から出てきた二匹の雛を見てミコトとエマが声を上げる。俺たち大人は知っていたが、知らなかったミコトとエマ、ガキんちょどもは大騒ぎだ。
 卵から孵った雛は、赤茶色をしていて、なぜかトサカっぽいアホ毛の部分だけ青色と黄色に分かれている。
 個体識別するのに便利だけど、鶏の雛ってこんなアホ毛が生えてたっけ?
 あとてっきり黄色いヒヨコみたいなのが出てくると思ったが、意外と汚い色合いなのな。
 自然の中で生きていくためには保護色になってないと駄目だからなんだろうけど、それだとしたらアホ毛の意味が分からん。

 そもそもこいつらはなんの種類の鳥なんだろうと考えていると、ミコトとエマがじっと雛を見て動かない様子だ。

 そっとミコトとエマの顔を覗き込んでみると、雛の孵化に感動して泣いていた。
 そうだよな。この一ヶ月ずっとずっと卵の世話をしてたんだからな。もうふたりはこの雛の母親みたいなもんだ。


「なあ三人目。この雛って結局なんの種類なんだ?」

「うーむ。ワシも見たことが無いですじゃ」

「マジかよ」

「魔法が苦手なワシでも魔物じゃとわかるくらいには魔物化しとりますが、魔鶏とは見た目からして違うので別の鳥類の魔物ですじゃ」

「危険じゃないのか?」

「人に危害を加える鳥型の魔物は存在しませんでの。精神的ダメージを与えてくる魔鳥はいますじゃ」

「なんだ精神的ダメージって」

「人間にいたずらしまくったせいで狩られまくって絶滅した魔鳥がいたんですじゃ」

「人間の顔した悪魔みたいなのとか妖怪みたいなのは見たことあるな。見た目だけでも精神的ダメージを負いそうだけど」

「まあサイズや見た目からして、鶏に近い鳥類だと思いますでの」

「それなら安心か。刷り込んじゃえば敵対行動はとらないだろうし」

「一応、魔鶏向けの育成マニュアルを作ってきましたでの、これを参考にしてくだされ。何かあればいつでも呼んでくださいですじゃ」

「わかった。世話になったな」


 クレアから、「夜分遅く済みませんでした。これお夜食です。良かったら召し上がってください」と言われて、また泣きながら飯を食っている。


「兄ちゃん……」


 三人目と話している間、ガキんちょどもはずっとピッピピッピうるさい、まだ目も開いてない雛を可愛い可愛いと眺めているなか、一号が話しかけてくる。


「なんだ一号。というか明日も仕事だろ? もう寝たほうが良くないか」

「もう少し見てから寝る。それより今度、前にクリス姉ちゃんから貰った本に載ってたタンドリー窯を作ろうと思うんだけど」

「お前さ、雛を見てそういうことを言うんじゃない、食い物じゃないんだから。あと空気読め」

「兄ちゃんわかってるって! ミコトやエマが頑張ってるのを見てるしな。ただなんとなく今思いついたんだよ」

「業が深いな一号」

「美味しいものを食べたいっていう欲求は抑えられないんだぜ兄ちゃん!」


 妙にかっこいいことを言う一号。だがミコトとエマの耳に入ったら嫌われるぞ。
 だがタンドリー窯があれば、タンドリーチキンやちゃんとしたナンも出せるようになるな。
 一号の事だからやたらとでかい窯になりそうだけど。


「パパ!」

「ぱぱ!」


 巣箱から少し離れてた俺に、ぽててーと駆け寄ってきて巣箱の前まで引っ張られる。


「パパ! ヤマトとムサシだよ!」

「ぱぱ! こっちがやまとで、こっちがむさしなんだよ!」

「名前の候補がふたつあってよかったな」

「「うん!」」


 無事家族が増えたのは喜ばしいんだが、よくわからない魔鳥というのが少し引っかかるんだよな。
 専門家の三人目が問題ないと言っていたけど、そもそも種類が特定できないってのが少し不安だ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。

また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を余裕で超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...