ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

文字の大きさ
上 下
261 / 317
第十二章 ヘタレ情操教育

第十話 卵を温めよう

しおりを挟む
 卵がうちに来てからというもの、ミコトとエマがつきっきりで温めるようになった。
 毎朝三人目が検卵をし、泣きながら朝食を食べて帰るのも新たな日課に加わったのだが。


「ママありがとう!」

「くれあままありがとー!」

「どういたしましてミコトちゃんエマちゃん」


 毎日卵を手で持って温めるのは大変だろうと、クレアがふたりのために、卵を入れて温めるためのポケットを備え付けたエプロンを作ったのだ。
 それでも食事などで手を使うときこそポケットにしまっているが、手が空くとすぐに両手で温め始めるほどの熱の入れようだ。


「ぱぱ! あかちゃんどれくらいでうまれるのかなあ?」

「一ヶ月くらいなんじゃないかって言ってたぞ」

「いっかげつかー」

「エマちゃん、こうたいするね!」

「うん! みこねーおねがいね!」

「まかせて!」

「パパも温めたいなー」

「「だめ!」」


 時間を決めているのか、しょっちゅうふたりで交代し合っている。そして俺には卵を預けてくれない。
 エリナやクレアには預けたりするのに……。


「はやくうまれてほしいねみこねー」

「そうだねエマちゃん」


 こうしてふたりはエリナやクレアがふたりにしている勉強の時間などもしっかりこなしつつ、自由時間のほとんどを使って卵を温めている。


「なあミコト、エマ。名前はもう決めてあるのか?」

「えっとね、『ヤマト』か『ムサシ』にしようってエマちゃんときめてあるの!」

「えっ、旧日本海軍の?」

「きゅーにほんかいぐん? よくわかんないけどかわいいなって! ね、エマちゃん!」

「うん、みこねー!」

「可愛いか? かっこいいとは思うけど」

「「かわいいよ!」」

「まあふたりが決めたならいいんだけどな。でもどっちかに決めておかないと」

「ぱぱ! あかちゃんをみてからきめるんだよ!」

「そか」


 まだ小さいのにちゃんと色々考えてるんだなー。
 どこから知識を仕入れてるのかは気になるけどな。


「あー、ミコトちゃんエマちゃん。ただいまー」

「「おかえりみりねー」」


 学園が終わったのか、通学組で最年少のミリィがリビングに入ってくる。


「ただいまーおにーさん」

「お帰りミリィ。おやつは厨房のいつもの場所な」

「ありがとーおにーさん。だいすきー」

「食い物関連以外でも絡んで来いよお前は」

「知らなーい」


 ミリィはぽててーとおやつ(ラスク)を取りに厨房に向かう。相変わらずせわしない。


「ミコトちゃんとエマちゃんもそろそろおやつの時間にしますか?」

「「うん!」」


 ふたりの返事を受けてクレアが微笑むと、ミリィの後を追って厨房に向かう。


「そういえばそいつの餌とかを聞いておかないとな」

「何をたべるのかなー」

「ぱんとかごはんかなー」

「きっとラスクだよー」

「「それはちがうとおもう」」


 いつの間にかラスクが大量に入ったボウルを抱えて、早速何本か口に咥えているミリィが、アホなことを言ってミコトとエマに即座に突っ込まれる。
 いやでもラスクは普通に食べると思うぞ。
 シナモンパウダーや砂糖なんかを使ってないプレーンなラスクを粉上にしたやつだけど。


「エマちゃんあーん」

「あーん」

「エマちゃんおいしい?」

「うん!」


 卵を温めているエマに、ミコトがラスクをあーんさせて食べさせている。
 いままでもイチャイチャしていたが、卵が来て以来もうずっとイチャイチャしてる。
 仲が良いのは微笑ましいんだが、これ将来、姉妹離れとかできるのかな。


「エマちゃん、こうたいね!」

「うん! みこねー!」

「たまごあったかいねー」

「はいみこねー! あーん」

「あーん」


 もうずっとイチャイチャしっぱなしの娘を見ていると、リビングにガキんちょどもが一斉に入ってくる。
 年長組の授業が終わったんだな。


「ミコトちゃんエマちゃん卵みせてー!」

「「うんいいよー」」

「いつ生まれるの?」

「ぱぱがあといっかげつだってー」

「一ヶ月かー。お手伝いできることがあったら言ってね!」

「ありがとー、にこらねー!」


 ニコラも姉のハンナと仲が良いが、自分より年下の女の子がミリィしかいない上に、そのミリィが色々残念なせいか、今はミコトとエマを溺愛している。
 お姉ちゃんできるのが嬉しくて仕方がないようだ。
 ミコトもエマも凄く懐いてるしな。


「兄ちゃん!」


 珍しくこんな早い時間に一号が帰宅してくる。
 一号の職場は官営の鍛冶場なんだけど、ちゃんと出退勤の管理してるんだろうか?


「なんだ一号、今日は早いな」

「師匠がこれを作ったから持って行けって」


 一号から渡された包みを開けると、くぼみが四個ほどついた丸い鉄板のようなものが出てくる。
 たこ焼き器みたいな感じだ。


「なんだこれ」

「今、妹たちが卵を温めてるって言ったら師匠が作ってくれたんだ」

「鉄板で?」

「鍋に水を張ってこれに卵を乗せて煮るんだって」

「ゆで卵じゃねーか! 食いもんじゃねー!」

「あーやっぱり。俺もそうじゃないかなーって思ってた」

「卵を『孵す』ために温めてるんであって食べるためじゃないって伝えておけ。こんなもんふたりに見せたら泣くぞ!」

「うーん。でもまあ普段の料理に使ってくれよ。せっかく師匠が作ったんだし」

「まあそうだな。わかった」


 というかもう飯を作らないと。
 今日はガキんちょどもが早く帰ってきちゃったから、早めに用意しないと騒ぎそうだ。





「お兄ちゃんお兄ちゃん」


 食事も風呂も終えて、ガキんちょどもがリビングでまったり過ごしている中、エリナが囁くような声で話しかけてくる。


「ん? ふたりとも寝ちゃったか?」

「うん。卵を少しの間お願いね。ふたりをベッドに寝かせてきちゃうから」

「わかった」


 エリナから卵をそっと渡される。俺が唯一卵を温められる時間だ。

 エリナがエマを、クレアがミコトを抱きかかえ、部屋まで連れて行く。
 ふたりは眠ってしまう直前まで卵を温めてるからな。
 ここから先は俺とエリナとクレアの番だ。
 明日、ミコトとエマが目覚めるまでしっかり世話しておかないとな。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。

また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を余裕で超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...