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第十二章 ヘタレ情操教育
第七話 卵の正体
しおりを挟む卵を家に持ち帰ってから、ミコトとエマはずっと一生懸命に卵を温めている。
急遽、畜産部門の担当官を家に呼び、温める温度や湿度、六時間毎の転卵など色々教わった。
卵の種類に関しては、見たことは無いが鶏に近い野生種ではないかということと、週に何回か卵に光を当てて行う検卵のときにある程度分かるだろうということだったので、すぐに検卵してもらうことに。
畜産部門の担当官ってどこかで見たことあると思ったら、領主会議の時にいつも恐妻アピールしている三人目じゃないか。
「閣下、よろしいですかの」
「おう」
ミコトとエマに卵を返すときは「凄く元気な卵だの。大事に育てるんじゃぞ」とか言ってたんだが……。
返してもらった卵を再び温めだしたミコトとエマから少し離れた場所で、三人目から話を聞く。
「卵はまだ生きておりましたが……二黄卵でしたのじゃ」
「えっと双子ってことか?」
「はいですじゃ。二黄卵は中の栄養が足りず孵りませんでのう」
「なるほど……。似たようなサイズ、見た目の鶏卵を用意できるか?」
卵を割った時にお得感のあった双子の卵って孵らないのか……。なら残念だけどこっそり入れ替えるしかないな。
でも賢いふたりにはすぐにバレそうなんだよな。ずっと手で温めてるし、微妙な形とかサイズ感とかで違和感を訴えてきそう。
どうしようか。魔法で何とかならんかな。
布でぐるぐる巻きにしたほうが良いぞとか言って布で包んだりすればいいかな?
「鶏卵の準備は問題ないですじゃ。ただしあの卵は一般的な鶏卵とは違いますでの、すこし時間をくだされ」
「それは構わないんだが、鶏ではないかもってことは魔物の卵の可能性もあるんだろ? 危険じゃないのか?」
「もし魔物化していた場合には孵化の可能性も出てきますがの。それでも魔鶏自体がほぼ人畜無害な魔物なので問題ないですぞ」
「魔鶏って」
「たまーに魔力の影響を受けて家畜が魔物化するんですじゃ」
「ああ、そういえば家畜が魔物化して極小の魔石が入手できるって聞いたことあったな」
「魔物化で生命力が上がるので、ひょっとしたら二黄卵でも孵化までするかもしれませんの」
「なるほど、人畜無害な上に魔物化してた方が死にづらくなるならそっちのほうが良いな」
「安定するまでの間、朝に検卵しに来ますでの」
「すまんな」
「いえいえ。いざというときの鶏卵も用意しておきますじゃ」
そういって三人目が仕事に戻る。
昼過ぎに卵を拾ってからまっすぐ家に帰ってきて、畜産関係の人間を寄越してくれといって仕事中に呼び出す形になって申し訳ないことをした。
明日の検温の時か、領主会議の時にでも何かお礼でも渡すかな。
とりあえずエリナとクリスに、先ほど聞いた卵の温め方や注意点などをこっそり教えておく。
湿度調節魔法や温度調節魔法でミコトとエマのフォローをこっそりしてもらうためだ。
運良く? 魔物化していれば細かい調整も必要なく生まれそうなんだろうけど、まだエカテリーナが帰って来ていないから、魔素や魔力反応の有無を調べられないんだよな。
クレアに見て貰ったが、卵の生命力自体が小さすぎて、その生命力に魔力が宿ってるかどうかが良くわからないとのこと。
まだ卵の状態だしな。
それでも、料理に魔力が籠っているのを判定できるエカテリーナならばわかるんじゃないかとのことだった。
◇
翌日、検卵に来た畜産部門の担当官というか例の三人目に、昨晩エカテリーナに魔物化判定されたと伝える。
「ということで、調べて貰ったら魔物化してるか、魔物化した親から生まれた卵だって言われたんだよ」
「わかりましたじゃ。なら二黄卵でも無事に生まれると思いますでの」
そういうと、ミコトとエマから卵を受け取り、ペンライトのようなもので卵を照らして検査を始める。
心配そうにのぞき込むミコトとエマに、にっこりと微笑みながら「今日も問題なく健康じゃの」と言いながら卵を返す。
「「ありがとーございます!」」
「いい子じゃの。頑張って温めるんじゃぞ」
「「はい!」」
卵を受け取ったふたりは、また大事そうに両手で抱えて温め始める。
それを優しく見守っていた畜産担当官というか三人目が、俺の元に来る。
「どうだった?」
「今のところ問題なく育っておりますじゃ、孵化までは一ヶ月弱というところですかの」
「結構かかるのな」
「普通の鶏卵なら三週ほどですがの、少し成長に時間がかかりそうですじゃ」
「すまんが安定するまで卵の様子を見てやって貰えるか?」
「構いませんぞい。ワシが責任を持って孵化までサポートしますぞい」
「助かる。もし孵化しないで卵が死んだろしたら娘たちが悲しむしな」
「大事に温めてますからの」
「朝早くからすまなかった。この後の領主会議まで、朝飯を食ってゆっくりしていってくれ」
「おお! クレア様の食事!」
「たしかにクレアが作ってるけども」
「毎日検卵しますじゃ!」
「まあ朝飯くらいでいいならいくらでも食って行ってくれ」
「はいですじゃ!」
「クレア、朝食を用意してやってくれ」
「はい兄さま」
クレアから「どうぞこちらの席へ」と案内され、朝食をがっつき始める三人目。
泣きながら食べるその姿を見て、ガキんちょどもがおかずが盛られている大皿をそっと三人目の側に寄せてやっている。
家でどんな扱いされてるんだあいつは……。
「クレア、今日の領主会議の弁当だけどな」
「多めに用意しておきますので、余ったら皆さんにお渡ししてくださいね。マジックボックスに入れておかなくても当日中に食べて貰えれば傷みませんから」
「流石だなクレア」
「てへへ」
あいつに余った弁当を持たせてやるか。
家に持ち帰って、飯マズ嫁と食べるでもよし、ひとりでこっそり夜に食べてもいいしな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
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