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第十二章 ヘタレ情操教育

第二話 ハリネズミ

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 <ピコーン 音声案内を開始します>

 <ピコーン 五キロ以上、直進です>


 魔導キャンピングカーには新しい機能が追加された。
 念願のナビゲーションシステムだ。
 当たり前だが、この世界には人工衛星が存在しないためにGPSは搭載されていないので、各拠点に設置されている魔導通信機からの情報と、車に搭載された車速パルスやジャイロコンパスを用い、ナビ上の地図に自車の位置を表示している最新システムである。
 魔導通信機もまだまだ課題のあるシステムだし、車速パルスやジャイロコンパスも試作品なので精度的には怪しい、何より地図自体も怪しいという大雑把な道案内システムではあるが、各都市や宿場町、水場などの情報は登録済みなので通常使用には問題ないレベルではあるのだ。



 <ピコーン 北西に進路を取ってください>

 <ピコーン 十キロ先 目的地周辺です>


 ナビに誘導され、街道を外れてしばらく揺られていると、目的地の水場に近づいてくる。
 この水場は、街道が整備されるまではファルケンブルクへ向かう隊商の最後の休息場としてよく利用されていたのだが、現在は街道が整備され、約一日の移動距離毎に宿場町や休息所が設けられているのですっかり寂れてしまっていた。
 とはいえある程度人の手も入っているし、湧水で綺麗な水場なので、ここを狩りの拠点にする。
 徒歩だと一日で往復するには厳しい距離なので、馬や馬車を用いずに狩りをする人生の冒険者やハンター、猟師とバッティングしないのでちょうどいいのだ。


 <ピコーン 目的地に到着しました>

 <ピコーン 音声案内を終了します>


 やっと正しい音声案内をしてくれたことに感動しつつ、水場の近くに建てられた避難小屋のような建物の横に魔導キャンピングカーを停車させる。
 ダッシュエミュー対策なのか、建物の周囲を囲むように簡易的な柵が設けられているので、車を駐車する場所にももってこいだ。


「んー! 一時間くらい走ったかな」


 運転席から降りると、キャビンからエリナとクレア、ミコトとエマが降りてくる。


「兄さま、ロイドさんから言われたボタンを押しましたか?」

「家のガレージ以外で駐車する時は押せって言われたあれか。嫌な予感しかしないが一応言われた通りしておくか」


 一旦運転席に戻り、ナビの横に設けられた赤いボタンを押す。


 <ピコーン 自動防衛モードに移行します。脅威レベルA以上で自動迎撃を開始します>


 そう音声案内されたと同時に、魔導キャンピングカーの外装がバタンと開き、魔導高角砲やかなりダウンサイジングされた超音速魔導ミサイルのような物が格納されたミサイルランチャーのようなものが展開され、ファンシーな外見の魔導キャンピングカーがいきなりハリネズミのように武装された戦闘車両に早変わりする。。


「兄さま……」

「脅威レベルAってなんだよ……」

「お兄ちゃん! お爺ちゃんからマニュアルを預かってたのを忘れてた!」


 アホ嫁がそう言って封筒を寄越してくるので、中身を取り出して目を通す。

 脅威レベルAってのが空を飛ぶ竜種と亜流種なのは分かった。
 たしかに空を飛ぶだけで脅威だしな。ちなみに脅威レベルSは天竜と空竜の二種のみ。

 脅威レベルBにすると地竜と火竜、水竜が加わる。
 脅威レベルCでファルケンブルク周辺では聞いたことのないブルムベアー、ケーニクスティーガー、ヤークトパンターなど危険だと言われている陸上の魔物。
 ここまでは良いとして脅威レベルDになると、ブラックバッファローに加えて『盗賊』というのも出てくる。対人攻撃するのかよこれ……。
 ちなみに脅威レベルEでは『敵兵』とか出てくるけどどうやって判断するんだ。ヤバいだろ。


「お兄ちゃんなんて書いてあったの?」

「アホなことしか書いてなかった。さあ狩りを始めるかミコト、エマ」

「「はーい!」」


 運転中でもそこそこダッシュエミューを見かけていたが、街道を離れたときから頻繁に見かけるようになった。
 今現在も視界の届く範囲で結構見かけるのだが水場には近寄ってくる雰囲気はない。
 この水場は避難小屋とは違って柵で囲われていないので時々ダッシュエミューが水を飲みに来るらしいが、俺たちがいるので寄ってこないのだろう。


「兄さま、どうするんです?」

「クレアは狩り自体初めてだったっけ?」

「ミコトちゃんとエマちゃんの魔法科の課外授業でホーンラビット狩りをするときに見学はしましたよ」

「そうか、基本はホーンラビットと変わらないぞ。とにかく身を隠せる場所まで移動したら近づいてくるダッシュエミューを待ち伏せして魔法で仕留める。これだけ」

「ホーンラビットやダッシュエミューは人間を見ると逃げちゃうって聞きましたけど、どうして荷馬車にはぶつかるんですかね」

「よくわからんが荷馬車の無機質な感じが脅威に感じないとか、ゆっくり進む馬を弱い動物と判断して逃げないだけなのかもな。あとは匂いとかか?」


 魔物は魔力を探知するって話だったが、エルフ族の話を総合すると魔力だけじゃなく魔素も探知するみたいだし、魔力や魔素を探知して逃げたり、寄ってきたりするのかもと思ったが、ホーンラビットやダッシュエミューは単に自分より大きい動物には近寄らないだけかもしれない。
 馬車にぶつかってくるのはよくわからんままだが。


「お兄ちゃん、あのあたりはどうかな?」


 エリナが指さす方向を見ると、遠くに低木が生い茂っているの見えた。


「いいな。じゃああそこに移動するぞ」


 俺やエリナはいつもの胸甲をつけているが、クレアとミコトとエマも学校で支給された胸甲をつけしっかり防御を固めている。


「きんちょうしてきた! エマちゃんは?」

「えまもどきどきしてきた!」

「えへへ! ママも最初にダッシュエミューを狩るときはそうだったんだよ!」


 そうだっけ? と思いながら全員でぽてぽてと歩いていく。
 エリナに緊張感が無いのはいつものことだが、後ろではクレアが周囲をきょろきょろしながら警戒している。
 もちろんすでにクレアは防御結界を展開済みだ。
 普通クレアのような対応が当たり前なんだろうけどな。さてさて、どうなることやら。




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また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を余裕で超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
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