ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第十章 ヘタレ異文化交流

第二十七話 スライム

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 エルフの連中が引き続きキャッサバの枝を雨のように降り注がせていく。
 引きこもりでもやるときはやるのな。

 ――バシュッ!

 エルフ族総出で過去例がない規模で精霊魔法を行使しているためか、今、七発目の改良ドラゴンキラーが発射された。
 今は車外でエルフの作業風景を見守っているので、頭のおかしい音声案内が聞こえないのは助かる。


『うおーー! 天竜じゃぞい! ワイバーンよりもこっちじゃ!』


 爺さんが魔法で声を拡声させてはしゃぎまくっている。
 魔導士協会の連中も、イージスシステムに捕捉、迎撃される前に数匹の竜種や亜竜種を狩っていたので相当なフィーバーぶりだ。目の色が違う。
 搭載されているミサイルは残りあと一発だから早く終わらないかな。
 南部宿場町にも改良前のドラゴンキラー搭載車両が十台ほど配備されているし、レーダーが設置されてデータリンクしているので、現在イージスシステム効果範囲内で一番南にいる俺たちが迎撃不能に陥った場合でも迎撃は可能なのだが。


『地竜が出たぞい! ミサイルで倒される前に儂らで倒すぞい! ワイバーンの回収は後じゃ!』


 爺さんがうるさいな。
 あとさっきからワイバーンのディスが酷い。素材価値としては竜種の一割も無いからなんだけど。
 スルーしないでちゃんと倒してるから、回収さえしてくれれば文句はないけどさ。


「閣下、護衛ありがとうございました! 無事に終了しました!」


 はしゃぐ爺さんの声を聞いていると、エカテリーナが作業の終了を伝えに来た。
 キャッサバを植えるときに毎回こんな事態に陥るのかな。
 初夏のドラゴン祭りみたいに風物詩になったりして。


「そうか、じゃあ引き上げるか」

「いえ、その前に、先日の大雨であちこちに出来た水溜まりにスライムが大量発生してしまいましたので、その駆除をしなければならないのです。精霊魔法を使用しますので、引き続き護衛をお願いしたいのですが」

「スライム? スライムってあのスライム?」

「旦那様、この世界のスライムは旦那様の知っているスライムとは違って植物の魔物なのです」


 探査魔法を行使したまま、異世界本オタクのクリスが補足説明をする。
 というか俺の知ってるスライムって色々あるんだけど。


「ほう」

「植物なので肥料に使われたりもするのですが、高性能な肥料が開発された今は利用価値が無く、枝から切り離して土中に埋めて処分していますね」

「めんどくさいんだな。植物なら焼却処分すればいいのに」

「硬化してしまうんですよね。加熱すれば硬化するという作用を利用してエルフ族は民芸品を作ったりしていますが」

「ん? 有効活用できそうなのに何故ファルケンブルクでは見ないんだ?」

「安定供給と保存が出来ないからです。スライム状態のままですと、一応これでも魔物ですので一般人には危険ですし」

「酸で溶かしたり?」

「いえ、噛みつくくらいですけれどね。毒を持つ個体も稀にいるので注意が必要です」

「さっさと加工しちゃえばいいわけだろ?」


 ――バシュッ!

『ちっ! ハズレワイバーンじゃ! 先に地竜の素材を回収するぞい!』


 とうとう固有名詞で呼ばれなくなった。もうワイバーンさんをディスるのはやめてあげて。
 あと全弾打ち尽くしたから、これ以降に竜種を発見したらクリスのメギドフレアで落とすしかないな。
 魔導士協会の連中が先に落としそうだけど。


「ですね。ただし安定供給が前提ですが」

「加工品を見てみるか。もし有効に使えるならスライムを育てても良いし」

「センセ! ちょうど持ってますよ!」


 マリアが鞄の中から出したソレは、気色のわる、じゃなく、エルフ王国の国王のミニチュア人形だった。まんまビリ〇ンさん人形だな。


「ちょっといいか?」

「もちろん! 幸運のお守りなんですよ! 特に金運!」

「さよか」


 マリアからその半透明な人形を受け取ると、感触的にはプラスチックに近い。
 これ使えるんじゃないか?


「スライムは捕獲したら二日以内に加工して加熱しないとゲル状になっちゃうので、使い道が肥料くらいしかないんですよセンセ!」


 金運のお守りという人形をマリアに返す。金運の効果が無いから闇金に手を出したんだろ? ならご利益ないじゃん。
 あれ? 結局闇金業者は捕まって借金返済してないなこいつ。俺も一個作ってもらうかな。


「スライムを見てみたいな」

「すぐそこにありますよ閣下」


 エカテリーナにスライムがいるという水溜まりまで案内してもらうと、水溜まりというよりは大人が十人は入って遊べるプールみたいなサイズだった。


「センセ! これです!」


 ざばっとマリアが水溜まりの中に手を入れると、全長一メートル以上はありそうな巨大な海ぶどうのような物体を取り出す。


「へ? 海ぶどう?」

「うみぶどう? ちゃいますよセンセ! このひとつひとつがスライムなんです!」

「へー、スライムが枝に生るって珍しいな」

「で、どうしますか? 細々とスライム工芸品を作っているエルフを何人か知っていますが」

「そうだな、その職人を町へ招くついでにスライムのサンプルを少し持っていくか。生態なんかが詳しいやつはいるか?」

「生態も何も水の中にこれ一本入れて魔素を流したらあっという間に増えますよ。今日はキャッサバを植えるのに魔素が集まり過ぎたので水溜まりに異常発生しちゃったんです」

「なるほど。ならマリアかエカテリーナにもスライム加工の研究に参加して欲しいんだが」

「センセ! もちろん特別手当がつきますよね?」

「うちはホワイトだから! 大丈夫だから!」

「お任せください閣下」

「センセ! 頑張ります! あと技術者を連れてきます!」


 そう宣言したマリアは素早く折りたたまれたセグAを組み立て、さっと乗り込むと地面から数十センチ浮いた状態で滑るようにエルフ王国の方に向かう。
 魔素をまき散らしてるんじゃねーよ……。
 まあ魔導士協会の連中がまだ血眼になって探してるから大丈夫かな?
 今の内にスライムのサンプル確保と処分をやっちゃうか。




―――――――――――――――――――――――――――――――――

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