上 下
235 / 317
第十章 ヘタレ異文化交流

第二十三話 即席麺の販売開始

しおりを挟む
 物産展も残り約一週間となった。
 評判を聞いた周辺領地の民衆も、巡回送迎馬車を使ったり徒歩でファルケンブルクへとやってくる。
 亜人国家連合やエルフ王国の出店している商店はとても好評で、連日の売り上げも右肩上がりとのことだ。
 塩対応なエルフ王国の個人商店も、なぜかその塩対応がファルケンブルク領民に好意的に受け入れられ、飛ぶように品物が売れていくという状況らしい。
 品物自体は高品質な上に安いからな。塩対応もファルケンブルクでは珍しいし、こういう店も有りみたいな感じなのかね。アホだな。

 ただしその代わり、隣接しているファルケンブルクの商業区画の客足が少し寂しいという相談も受けた。
 売上自体は観光客が増えたため増えてはいるのだが、亜人国家連合やエルフ王国の商店の方に多く客が流れ、増えた観光客数に比例した売り上げが出ていないらしい。
 亜人国家連合やエルフ王国の店で使える割引クーポンを発行したけど、ファルケンブルクの商店には適用できないからな。
 ちょっと優遇し過ぎた。
 というかまずは異国の商品を受け入れられるためにとテコ入れをしたけど必要なかったな。

 というわけで残りの期間はファルケンブルクの商業区域でも割引クーポンを使えるようにした。
 更にテコ入れとして、量産を開始したばかりの即席麵を特設した官営商店で販売することにした。


「兄さま、売れますかねー」

「売れると思うけどな。一応店の前にイスとテーブルを用意してその場で食べられるようにしたし」


 即席麺は、プレーンで味付けの無いものが一つ銅貨七枚。チキン〇ーメンのようにすでに味が付いているものは一つ銅貨十枚。
 味の付いていない麺は、別売りの粉末スープと簡単な具の入った、スープの素の詰まった瓶を販売している。
 約十から十五食分のスープの素が入って銅貨百枚、約千円と少し高めだが、空になった瓶を持ってくれば銅貨三十枚で中身を補充するシステムだ。
 店頭では一食分を銅貨三枚で量り売りしており、袋に入れて持ち帰りしたり、無料で提供しているお湯でその場で戻して食べることも可能な上、店頭販売限定で焼きそば風ソース味も売っていたりする。お湯を捨てたあとにソースをかけないと、とんでもないことになるので、店員にもしっかり注意して提供するように言い含めてある。

 カップがどうしてもコスト的に解決できなかったので、麺単体の販売となったのでこのようなスタイルになった。
 まあゴミも出ないしひとまずは良いとしよう。いずれはプラスチックや耐熱、耐水の紙かなにかでカップ入り即席麺を作りたい。
 現状では一食百円程度で食べられるし、麺だけ購入して、スープを自作すれば一食七十円程度と格安だし、あとは保管に適した形で作れればヒットしそうだ。
 店の前で食べる場合はどんぶりに入れて提供しているので容器代は無料だ。



「具がちょっと寂しいですよね」

「流石にな。でも普通のラーメン店みたいにちゃんとした具を乗せたら値段が普通のラーメンと変わらなくなるから難しいな」

「競合しちゃいますしね」

「というか即席麺のプロモーション販売みたいなものだからな。家庭で即席麺を食べてもらうための宣伝だし」

「そうですね、そもそも商品のコンセプトが違いますしね」

「そういうことだ。と言ってもいきなりお湯で戻す麺と言ってもピンとこないだろうから、ミコトとエマが実際に食べる所を客に見せないとな」


 とりあえず四分の一に割った味付き即席麺をマグカップに入れて食べさせてみる。


「おいしいねエマちゃん!」

「うん! すごくおいしー!」


 アイドルのような天使の娘ふたりが美味しそうに食べるその即席麺を見て、客がぞろぞろと集まってくる。
 集客効果はばっちりだ。
 開店時に娘ふたりに食べさせただけで、あとは客がひっきりなしに買って行くようになる。


「おお! この銅貨十枚でこんなに美味いものが食べられるとは!」

「スープの素を入れるタイプは味の種類も多くて飽きないなこれ!」

「銅貨十枚の食事が婆さんの料理より美味いとは……」


 客の中に領主会議でよく見る連中まで来ていた。そろそろ昼だから外食に来たのか。
 あと三人目ェ……。

 スープの素はとりあえず、醤油、味噌、しお、豚骨、カレーの五種類の展開だ。
 まずはここで味をみて貰って、リターナブルの瓶入りのスープの素を買ってもらう方式だ。

 店の様子をうかがっている俺とクレアの元に、ミコトとエマを連れたエリナが来る。


「お兄ちゃん、ミコトちゃんとエマちゃんがお腹空いたみたいだけど、朝みたいにまた即席麺を食べてもらう?」

「ふたりのデモンストレーションはもう必要ないくらい売れ出してきたからもう必要ないかな」

「クーポンのおかげか、平日でもファルケンブルクの商業区域に人が多く来てるよね!」

「だな。あとは職員に任せて俺たちもどこかで昼飯にするか」

「そうだね!」

「クーポンも使えますしね兄さま!」


 財布のひもが固いクレアもクーポンのおかげでノリノリである。クーポン様々だな、一割引き程度だけど。


「ミコトとエマは何を食べたい?」

「エマちゃんは何を食べたい?」

「うーんとね、うーんとね」


 ミコトとエマに食べたいものを聞くと、いつものようにミコトはエマに食べたいものを聞く。
 完璧なお姉さんだなミコトは。


「何でもいいんだぞエマ」

「うーんと、やきそば!」

「えっと、ちゃんと焼いてる方か? それともそこで売ってる即席麺を使った焼きそば風の方か?」

「やきそばふー!」

「もっと高いのでも良いんだぞ?」

「やきそばふー!」

「パパ! ミコトもやきそばふうを食べたい!」

「わかったわかった。じゃあ並んで買うか」

「「うん!」」


 早速全員で即席麺販売所の列に並ぶ。
 焼きそば風はまだそれほど売れてないから、アピールに丁度いいかもしれないな。
 お湯で戻した後にお湯をわざわざ捨ててタレをかけるだけなので、どんぶりにスープとともに提供される即席ラーメンと比較して、ボリューム感が無い。
 その上、値段は銅貨十枚と即席麺と比べても特に安く無いし、キャベツなんかの具も開発が間に合わずに具無し状態だし。

 順番が来たので、人数分の焼きそば風即席麺を注文する。
 器に即席めんとお湯を入れてもらったあとに、ジェット湯切りが出来るふたを被せて貰う。借りた砂時計と一緒にトレーに載せてテーブルに運ぶ。


「おいしー! おいしーねエマちゃん!」

「うん! みこねー!」


 三分ほど待ち、湯切りをしてからソースを混ぜ、ミコトとエマに渡すと、待ちきれなかったと言わんばかりにすぐに食べだす。


「うん、この香ばしいソースを再現するのに手間取ったけど美味いな」

「ですね兄さま」

「あとは具だねお兄ちゃん!」

「できれば容器も何とかしたいけどな」


 具材はもう開発完了段階まで来てるが、問題は容器なんだよな。
 なんとか低コストな容器を開発しないと。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。

また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...