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第十章 ヘタレ異文化交流

第二十話 ファルケンブルク温泉物語

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「パパ! はやく!」

「はやくおふろ!」


 すでに到着していたミコトとエマに呼ばれ、俺とエリナは早足でふたりの元へ向かう。
 人力車は全て温泉施設の壁沿いにずらっと並んでいるが、俺たちが温泉から出るまで待機してるのだろうか。
 時間単価考えたらとんでもないコストがかかるなこれ。


「お待たせミコトちゃん! エマちゃん!」

「すまんな。さ、早速中に入るか」

「「「うん!」」」


 ミコトとエマに引っ付かれファルケンブルク温泉物語の中に入ると、広いロビーが目の前に広がる。
 竹製のベンチや観葉植物なども置かれ清潔感にあふれた内装だ。ネーミングセンスと外装はアレだったが、<転移者>もなかなかやるじゃないか。


「パパおふろ!」

「はやくはやく!」

「兄ちゃんはこっちだぞ」


 娘ふたりに引っ張られて更衣室に入る寸前、『漢』と書かれた暖簾をくぐろうとしていた一号に制止される。


「そうだった……。あぶねー。ミコトとエマはエリナとクレアに連れて行って貰うように」

「「はーい」」


 ミコトとエマをエリナたちに預け、『漢』と書かれた暖簾をくぐる。


「兄ちゃん遅いぞ」

「一号が早すぎるんだよ。なんでもう水着姿なんだ」

「家で履いてきたからな!」

「子どもか!」


 周囲を見ると、すでに全員が水着姿になっていた。
 アホなのは一号だけじゃなかった……。


「兄ちゃん早く!」

「俺はまず水着を買わなきゃならんからお前らだけで先に行ってろ。他の客がいないとはいえあまりはしゃいだりするなよ!」

「「「はーい」」」

「一号、こいつらの面倒をちゃんと見ろよ。お前はキャプテンなんだから」

「わかってるぜ兄ちゃん。ほらお前ら行くぞー! 走るなよー!」

「「「はーい!」」」


 一号が他のガキんちょを連れて更衣室を出る。
 さて、早く水着を買って温泉に入るかうかと、男子更衣室内に設置されている売店を覗くと、オーソドックスなトランクスタイプの水着が売っていたので購入する。
 他にも髭剃りなど色々売ってるので、手ぶらで来ても問題ないな。価格も安いし。

 ささっと着替え、わくわくしながら手ぬぐいを片手にガラガラと曇りガラスの扉を開け、浴場に入ると、まずは広い洗い場が広がっていた。
 男子チームのガキんちょどもはすでに体を洗い終えた連中も出始めている。


「早いな」

「兄ちゃんが遅いんだってば」

「一号はもう洗い終わったのか?」

「おう! なんか色々あるから行ってくる!」

「うちより湯船が広いからって泳ぐなよ!」

「わかってるってば」


 ほんとかね。と思いながら洗い場の椅子に腰かけ、頭から全身を洗っていく。
 安物とはいえ、自由に使えるシャンプーやボディーソープまで置かれていてかなり豪勢な印象だ。
 シャンプーなんかまだ使ったことがないって庶民もまだ多いからな。
 コストもそうなんだが、まだ石鹸などを使って洗髪をするという習慣がないっていうのが大きいかもしれない。
 欧州や日本でも、シャンプーが開発されて洗髪する習慣が一般的に広まったのが二十世紀頃だったはずだし。

 体を洗ってお湯に浸かるだけのシンプルな官営の公衆浴場もここには存在するが、シャンプーなどは提供されていない。
 いっそのことシャンプーやボディーソープを置いてもいいかもしれないな。

 衛生的な部分に関してはかなり時代が進んでるんだな。と考えながら全身を洗い終える。


「さーて! どこから入るかな!」


 久々の温泉だ! とテンション高く洗い場から離れ、浴場を見回してみると、もう女子チームにも体を洗い終えた連中が出始め、各自色々なお湯に浸かっている。

 俺はどうするかなと思いながら吟味しているとサウナを見つける。
 やはり最初はサウナだな、と早速サウナに入る。


「お、兄ちゃんもサウナか!」

「む、一号か。いきなりサウナに入るとか随分おっさん臭いな」

「そうか?」

「偏見だけどな。少なくともガキんちょが好んではいる場所じゃないだろ」

「そうだな、サウナに入ってるのは俺と兄ちゃんだけだしな」


 三段あるベンチの一番上に座りドヤ顔でこちらを見る一号。
 やる気かこいつ……。
 受けて立つ! と気合を入れた俺は、一号と同じ最上段に座り、砂時計をひっくり返す。

 じっと暑さに耐えつつサラサラと流れる砂時計を眺めているが、随分と砂が落ちるのが遅いなこれ。
 既にすげえ暑いんだけど。


「なあ一号、この砂時計って何分だ?」

「三分だぞ兄ちゃん」

「いやいや、まだ半分も減ってないぞこれ」

「兄ちゃんがサウナに入ってからまだ一分くらいしか経ってないんだから正しいよ」

「マジかよ、サウナってこんなに暑かったっけ……」

「兄ちゃんはヘタレだなー」

「一号は何でそんなに平気なんだ? サウナ初体験だろ?」

「鍛冶仕事してるんだから暑いのには慣れてるからな!」

「そういや職場がサウナだったな一号は」


 最初から勝負になんねーじゃんと、砂時計の砂がやっと半分以下になったところでベンチから立ち上がる。


「兄ちゃんもう出るのか?」

「おう、一号も無理しないで早めに出ろよ? あと小さいガキんちょだけでサウナに入らないように言っておいてくれ」

「わかった」


 サウナから出て、すぐ横にある水風呂から桶で水を掬って頭から被る。


「おー、水が気持ちいいな! 家にもサウナ作るか? でもガキんちょには良くなさそうだしどうするかな」

「お兄ちゃんおそーい!」

「パパ!」

「ぱぱ!」


 水風呂に浸かったら心停止するかもとビビッた結果、ざばざば頭から水を被っているとエリナたちから声を掛けられる。


「サウナに入ってたんだよ。一分半な」

「パパ! いっしょにおんせんにはいろう!」

「ぱぱ! いっしょ!」

「よしよし! サウナに入ってばっちり老廃物を出したし一緒に温泉に入るか!」

「サウナって一分半で効果あるの?」

「多分な。滅茶苦茶汗かいたし」


 エリナの突っ込みを軽く躱し、娘ふたりと合流する。
 さて、次は何にはいるかな。



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また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
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