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第十章 ヘタレ異文化交流
第十六話 タピオカ
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「パパ! みてみてー!」
「ぱぱ! あろはー!」
「お兄ちゃん! どう⁉ 似合うかな⁉」
クレアの愚痴を一通り聞き終わると、アロハを着た三姉妹がぽてぽてと店の奥からやってくる。
長女もガキっぽいんだけど成人済みなんだよな。残念ながら。
「似合うぞ! 可愛いぞ三姉妹!」
「「「わーい!」」」
アホ可愛い三人の着ているアロハを見てみると、やはり作りがとてもしっかりしている。
ボタンもヤシかどうかわからないけど木製で細かく彫刻まで入ってるし、染めも精緻だし、カラフルで華美になり過ぎない程度な絶妙なデザインだし、生地も少しゴワゴワしてるがしっかりしてるし、何より凄く涼しそうだ。多分麻か亜麻だろうが汗などもすぐ乾く素材なのだろう。
なのに値段は木綿で出来た一般庶民の半そでシャツの二、三枚分ほどと格安だ。
これだけの物を作れるのに引きこもりとは……。
「やっぱ勿体ないな」
「ですね兄さま」
クレアも、同じように自身の着ているアロハの着心地などを確かめながら俺の言葉に肯定する。
「量産品を作るとしたらデザインは似たような感じにするけど、素材は木綿、ボタンも彫刻無しの簡易なもの。それで値段は一般的なものとほぼ変わらないか少し安いくらいにすれば売れないかな」
「開襟シャツは存在しますけど、デザインが涼しげで特徴的ですから、そこだけでも差別化できると思います。流行させるには値段は少しお安くする必要はあると思いますが」
「色々考えてみよう。官営の製糸工場や被服工場を作って雇用、特に子育て世代の針子さんの求人を増やすのでも良いしな。量産品が流通しだしたらここのシャツの良さも理解できるだろうし」
「あまり売れてないみたいですしね」
閑散とした店内を見渡しながらクレアが言う。
楽器屋もほかに客がいなかったしな。
塩対応だから客がつかないというよりは、品物に興味が無いから閑古鳥が鳴いているのだと思うし。
「失敗しても普通のシャツに戻せばいいだけだし、短時間の労働条件で働きたい子育て世代の女性が多いって人生冒険者ギルドの事務員も言ってたしな」
「うちで経営している託児所の他にも、職場で預けて置ける託児所が欲しいっていう案件もありましたしね」
「民間ではそこまで手が回らないからな。公共事業の炊事場とかでは簡易託児所を併設出来てるけど、大規模な官営工場なんかはやはり必要かもしれん」
「今度アイリーン姉さまとお話しておきますね」
「しれっと領地の経営に関わってるけど、クレアはまだ未成年なんだからな。家事も任せてるし、領地経営に関しては俺たちに任せてくれていいんだからな」
「はい兄さま。でも気づいたことなどは提案させてくださいね」
やはりクレアは経営者向きなんだろうか。常にコストカットをしようとするところだけは場合によっては微妙じゃないかと思うがな。
家の連中の分のアロハをクレアが購入してきたところで全員で店を出る。
「ちょっと周辺を冷やかしたら帰るか」
「「「えー!」」」
「マリアからキャッサバ粉を預かってるんだよ。お菓子や飲み物の開発をするから少し早めに帰りたいんだ」
「「「お菓子⁉」」」
「そうそう。今考えてるのはモチモチしたドーナツとか、モチモチしたタピオカが入ったタピオカドリンクとかだぞ。美味しいぞ」
「「「すぐにかえろー!」」」
「わかりやすいなお前ら。じゃあ晩飯の材料を買ったら帰るか」
昼飯を食べ終わってまだ二時間かそこらしか経過してないんだが、もう腹減ったのか?
でも今から家に戻ってドーナツを焼いたとしてもおやつの時間には間に合わないんだが。その辺わかってるのかな?
行きと違って、俺ではなくエリナを真ん中に、左右にミコトとエマの布陣で晩飯の材料を適当に買い、帰宅する。
鼻歌混じりの三人のあとを俺とクレアが続く。
そういや他のガキんちょどもはどこで飯を食ってるのかな。
◇
家にたどり着くと、ミコトとエマが眠そうなので昼寝をさせることにした。
ふたりをエリナに任せると俺とクレアは厨房に向かい、マリアから貰ったキャッサバ粉と、キャッサバ粉からデンプンのみを取り出した、いわゆるタピオカ粉を使ったレシピを使った料理を試してみる。
「兄さま、何から作りましょうか」
「まずはキャッサバ粉を混ぜ込んだドーナツだな。タピオカ粉でも良いんだが、今回はキャッサバ粉で作ってみよう。リングじゃなくてポンデケージョって名前だっけかな」
「わかりました。ドーナツは慣れてるので私が作っちゃいますね」
「形状は後で指示するから、とりあえず生地を作っちゃってくれ」
「はい兄さま」
ポンデリ〇グじゃなくてドーナツ形状をしたポンデケージョはクレアに任せて、俺はタピオカ粉を使ったタピオカ粒を作る。
最初から粒状に形成してから出荷してくれれば楽なのだが仕方がない。
今回はカラフルなタピオカ粒を作るので、タピオカ粉を色の数だけ小分けする。
赤はイチゴ、黄色はオレンジ、青はブルーベリー、茶は紅茶、緑は緑茶、黒はエルフ王国でも使ってる黒糖と六種類の色を用意する。
タピオカ粒のレシピは簡単だ、タピオカ粉一キロ当たりお湯五百ミリリットルを入れて混ぜ、粒状にこねて茹でるだけ。こねるのが一番大変なのだが。
果汁等で着色するため、その分はお湯を減らしてひたすら混ぜる。
混ぜたら板状に伸ばし、賽の目に包丁を入れて小分けにしたらひとつづつ丸めていく。ひたすらこの作業を繰り返す。
途中、クレアがポンデケージョの生地を完成させたので、数珠状のドーナツ形状を指示して焼かさせる。
クレアが「すぐに終わらせてそちらを手伝いますね」と言ってくれたようだが、一心不乱にちねってる俺の耳には届かない。
「クレア。黒糖以外は出来たから、ドーナツをオーブンに入れたらタピオカ粒をニ十分くらい茹でてくれ。色が移るかもしれないから別々の鍋でな」
「はい」
「茹で上がったら冷水にさらして、とりあえずクレアのマジックボックスで保管しておいてくれ」
「わかりました兄さま」
クレアに指示を出した俺は、黒糖を入れて真っ黒になったタピオカをちねりまくる。
もう少しだ、頑張れ俺。
……この作業って機械化できないのかな。
もしくは穴の開いた木枠とか上手く使って一気に大量のタピオカ粒を作れるような道具とかさ。
「やっと終わった! クレア、これも茹でちゃってくれ」
「はい兄さま。お疲れさまでした」
「これからすぐに晩飯を作るんだぞ……」
「もうそんな時間なんですね」
ひたすらちねってたからな。
指の感覚がすでにない。
「治癒」
治癒魔法を使ってみるがあまり効果が実感できない。
「兄さま私が。治癒」
「お、大分楽になった。ありがとうなクレア」
「いえいえ兄さま、大変な作業お疲れさまでした」
「じゃー晩飯作るかー」
「兄さま今日は常備菜と簡単なメニューだけで済ませましょう」
「いや、せっかくエルフ王国の露店で買い物をしたんだからちゃんと作るよ」
「わかりました。なら私が全力でサポートしますね!」
ふんす! とクレアはいつものポーズで気合を入れる。
気合を入れてもあまり意味がないんだがな。元々クレアの料理のスピードは早いし。
クレアに初めて見せる料理だから俺が頑張って足を引っ張らないようにしないと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
「ぱぱ! あろはー!」
「お兄ちゃん! どう⁉ 似合うかな⁉」
クレアの愚痴を一通り聞き終わると、アロハを着た三姉妹がぽてぽてと店の奥からやってくる。
長女もガキっぽいんだけど成人済みなんだよな。残念ながら。
「似合うぞ! 可愛いぞ三姉妹!」
「「「わーい!」」」
アホ可愛い三人の着ているアロハを見てみると、やはり作りがとてもしっかりしている。
ボタンもヤシかどうかわからないけど木製で細かく彫刻まで入ってるし、染めも精緻だし、カラフルで華美になり過ぎない程度な絶妙なデザインだし、生地も少しゴワゴワしてるがしっかりしてるし、何より凄く涼しそうだ。多分麻か亜麻だろうが汗などもすぐ乾く素材なのだろう。
なのに値段は木綿で出来た一般庶民の半そでシャツの二、三枚分ほどと格安だ。
これだけの物を作れるのに引きこもりとは……。
「やっぱ勿体ないな」
「ですね兄さま」
クレアも、同じように自身の着ているアロハの着心地などを確かめながら俺の言葉に肯定する。
「量産品を作るとしたらデザインは似たような感じにするけど、素材は木綿、ボタンも彫刻無しの簡易なもの。それで値段は一般的なものとほぼ変わらないか少し安いくらいにすれば売れないかな」
「開襟シャツは存在しますけど、デザインが涼しげで特徴的ですから、そこだけでも差別化できると思います。流行させるには値段は少しお安くする必要はあると思いますが」
「色々考えてみよう。官営の製糸工場や被服工場を作って雇用、特に子育て世代の針子さんの求人を増やすのでも良いしな。量産品が流通しだしたらここのシャツの良さも理解できるだろうし」
「あまり売れてないみたいですしね」
閑散とした店内を見渡しながらクレアが言う。
楽器屋もほかに客がいなかったしな。
塩対応だから客がつかないというよりは、品物に興味が無いから閑古鳥が鳴いているのだと思うし。
「失敗しても普通のシャツに戻せばいいだけだし、短時間の労働条件で働きたい子育て世代の女性が多いって人生冒険者ギルドの事務員も言ってたしな」
「うちで経営している託児所の他にも、職場で預けて置ける託児所が欲しいっていう案件もありましたしね」
「民間ではそこまで手が回らないからな。公共事業の炊事場とかでは簡易託児所を併設出来てるけど、大規模な官営工場なんかはやはり必要かもしれん」
「今度アイリーン姉さまとお話しておきますね」
「しれっと領地の経営に関わってるけど、クレアはまだ未成年なんだからな。家事も任せてるし、領地経営に関しては俺たちに任せてくれていいんだからな」
「はい兄さま。でも気づいたことなどは提案させてくださいね」
やはりクレアは経営者向きなんだろうか。常にコストカットをしようとするところだけは場合によっては微妙じゃないかと思うがな。
家の連中の分のアロハをクレアが購入してきたところで全員で店を出る。
「ちょっと周辺を冷やかしたら帰るか」
「「「えー!」」」
「マリアからキャッサバ粉を預かってるんだよ。お菓子や飲み物の開発をするから少し早めに帰りたいんだ」
「「「お菓子⁉」」」
「そうそう。今考えてるのはモチモチしたドーナツとか、モチモチしたタピオカが入ったタピオカドリンクとかだぞ。美味しいぞ」
「「「すぐにかえろー!」」」
「わかりやすいなお前ら。じゃあ晩飯の材料を買ったら帰るか」
昼飯を食べ終わってまだ二時間かそこらしか経過してないんだが、もう腹減ったのか?
でも今から家に戻ってドーナツを焼いたとしてもおやつの時間には間に合わないんだが。その辺わかってるのかな?
行きと違って、俺ではなくエリナを真ん中に、左右にミコトとエマの布陣で晩飯の材料を適当に買い、帰宅する。
鼻歌混じりの三人のあとを俺とクレアが続く。
そういや他のガキんちょどもはどこで飯を食ってるのかな。
◇
家にたどり着くと、ミコトとエマが眠そうなので昼寝をさせることにした。
ふたりをエリナに任せると俺とクレアは厨房に向かい、マリアから貰ったキャッサバ粉と、キャッサバ粉からデンプンのみを取り出した、いわゆるタピオカ粉を使ったレシピを使った料理を試してみる。
「兄さま、何から作りましょうか」
「まずはキャッサバ粉を混ぜ込んだドーナツだな。タピオカ粉でも良いんだが、今回はキャッサバ粉で作ってみよう。リングじゃなくてポンデケージョって名前だっけかな」
「わかりました。ドーナツは慣れてるので私が作っちゃいますね」
「形状は後で指示するから、とりあえず生地を作っちゃってくれ」
「はい兄さま」
ポンデリ〇グじゃなくてドーナツ形状をしたポンデケージョはクレアに任せて、俺はタピオカ粉を使ったタピオカ粒を作る。
最初から粒状に形成してから出荷してくれれば楽なのだが仕方がない。
今回はカラフルなタピオカ粒を作るので、タピオカ粉を色の数だけ小分けする。
赤はイチゴ、黄色はオレンジ、青はブルーベリー、茶は紅茶、緑は緑茶、黒はエルフ王国でも使ってる黒糖と六種類の色を用意する。
タピオカ粒のレシピは簡単だ、タピオカ粉一キロ当たりお湯五百ミリリットルを入れて混ぜ、粒状にこねて茹でるだけ。こねるのが一番大変なのだが。
果汁等で着色するため、その分はお湯を減らしてひたすら混ぜる。
混ぜたら板状に伸ばし、賽の目に包丁を入れて小分けにしたらひとつづつ丸めていく。ひたすらこの作業を繰り返す。
途中、クレアがポンデケージョの生地を完成させたので、数珠状のドーナツ形状を指示して焼かさせる。
クレアが「すぐに終わらせてそちらを手伝いますね」と言ってくれたようだが、一心不乱にちねってる俺の耳には届かない。
「クレア。黒糖以外は出来たから、ドーナツをオーブンに入れたらタピオカ粒をニ十分くらい茹でてくれ。色が移るかもしれないから別々の鍋でな」
「はい」
「茹で上がったら冷水にさらして、とりあえずクレアのマジックボックスで保管しておいてくれ」
「わかりました兄さま」
クレアに指示を出した俺は、黒糖を入れて真っ黒になったタピオカをちねりまくる。
もう少しだ、頑張れ俺。
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「やっと終わった! クレア、これも茹でちゃってくれ」
「はい兄さま。お疲れさまでした」
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ひたすらちねってたからな。
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「兄さま私が。治癒」
「お、大分楽になった。ありがとうなクレア」
「いえいえ兄さま、大変な作業お疲れさまでした」
「じゃー晩飯作るかー」
「兄さま今日は常備菜と簡単なメニューだけで済ませましょう」
「いや、せっかくエルフ王国の露店で買い物をしたんだからちゃんと作るよ」
「わかりました。なら私が全力でサポートしますね!」
ふんす! とクレアはいつものポーズで気合を入れる。
気合を入れてもあまり意味がないんだがな。元々クレアの料理のスピードは早いし。
クレアに初めて見せる料理だから俺が頑張って足を引っ張らないようにしないと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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