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第十章 ヘタレ異文化交流

第十四話 音楽

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「クレア、俺はもうギブ」


 お代わりウエルカム状態の札をひっくり返しながらクレアに申告する。
 もうこれ以上は入らん。


「私もです兄さま。でもたくさん食べましたね!」


 クレアも十分に元を取ったと判断したのか、札をひっくり返しながら、満足そうに食事の終了を宣言する。
 エリナとミコトとエマはまだお代わりを貰うようだ。
 娘ふたりは子どもなので一回のお代わりの量は少ないんだが、エリナも含めてずっと食べてるのなあの三人。


「センセ! クレアちゃん! お茶をどうぞ!」

「ありがとうございますマリアさん」

「なあマリア、このキャッサバ芋の粉とタピオカ粒をあとで少し分けてもらえるか?」


 マリアがお代わり終了の札を出した俺とクレアにお茶を持ってきたので、先ほどのキャッサバを使ったメニュー開発のための材料を分けてもらうように頼む。


「わかりました! おおきにセンセ!」


 マリアはにぱっと笑顔を浮かべ、俺たちの前にお茶を置いたあとにすぐにバックヤードに下がる。
 材料はバックヤードに揃ってるのかな。今日受け取っちゃえばすぐにメニュー開発できるな。


「クレア、あとでメニュー開発を手伝って欲しいんだが」

「任せてください兄さま!」

「タピオカは俺の知ってる範囲でも色々と使い道があったからな。なんとかエルフ王国の主力輸出品目になればいいんだが。というか勤労意欲が湧けばいいんだがな」

「そうですね。でもエルフさんたちは楽器の演奏も得意みたいですし、この技能でもお金を稼げるようになればいいですね兄さま」


 音楽?
 そういえばエルフ王国の区画に入った時からBGMが流れてたな。
 音量も大きすぎず、さりげなく聞こえる程度だし、日本じゃ当たり前だったから気づかなかったが、ファルケンブルクじゃほとんど演奏というものを聞いたことが無い。
 城の謁見の間で、ラインブルク王の使者や周辺諸侯の貴族を迎えるときに、楽師を配置して音楽を奏でる程度だ。
 王都で叙爵式の時にも演奏してたなそういや。


「たしかにこの音楽は良いな。やたらとアロハ・オエに似てる気がするけど」

「あろは・おえはわかりませんが、凄く良い曲ですよね。なんかウキウキしてきます」

「センセ! 持ってきました!」


 マリアがどんっ! っと木箱を三箱ほど俺の横に置く。
 というかこんなにいらないんだがと思いつつ、マジックボックスに収納する。


「マリア、エルフ族は音楽が得意だったりするのか?」

「そうですね! 人生が長すぎる上に暇なので、エルフ族は色々な趣味を探しますが、音楽にハマるエルフは多いですね! 仕事は頑なにしませんが」

「仕事しろよ。しかしこれだけのレベルならうちの楽師すら及ばないかもしれん。楽器なんかはどうしてるんだ?」

「基本は自作ですね。楽器作りが得意なエルフは今回の物産展にいくつか持ち込んでますよ。普段は物々交換で食料と交換するので余計に引きこもるんですが」

「外に出ろよ駄目ルフ。でも楽器はエルフ王国の特産品になるかもな」

「ああ、それは良いですね! 楽器作りで安定した収入が得られれば余計に引きこもりそうですが」

「どうしようもないのなエルフって。エリナたちが食べ終わったらエルフ王国の物産を色々覗いてみるか」

「色々買って行ってくださいねセンセ!」

「甚平は売ってる?」

「じんべい?」

「まあいいや。あとで他の亜人国家連合の店で買うから」

「服なら是非エルフ族民族衣装を!」

「アロハは確かにちょっと欲しいな。夏に着るのによさげだし」

「涼しいですよ!」

「値段を見てだな。クレアの許可が出れば買いたいが」


 俺とマリアの会話をうかがっているクレアをそっと横目で見る。
 クレアは無駄遣いじゃなければ特にうるさく言わないが、コスパを割と重視するからな。
 あまりにも高ければ「兄さまのあろはは私が縫います!」とか言いそうだけど。


「あーおなかいっぱい! おいしかったー!」

「えまもー!」

「ミコトちゃんもエマちゃんもたくさん食べたね! 私もお腹いっぱいだよ!」


 三姉妹がやっと食事を終えたようだ。
 ずっと食ってたんかこいつら。

 三姉妹が食後のお茶を楽しんだあとは、エルフ王国の物産展を見て回ることになった。


「兄さま、あろはがありましたよ」

「お、新品なのに意外と安かった。エルフの連中はどうやって布を入手してるんだ?」

「この服の素材は麻ですかね?」

「亜麻かな? 木綿より布に加工するのが面倒なイメージはあるが、麻や亜麻は勝手に生えてそうなイメージはある」


 少しゴワゴワしてるが、凄く涼しそうだ。


「兄さま、家のみんなの分も買いませんか?」

「お、いいな。ガキんちょどものサイズとかは把握してるか?」

「もちろんですよ兄さま」

「じゃあ買うか。数が揃わなければ後日でも構わんし」

「じゃあちょっと行ってきますね」


 クレアが店の奥で座っている店員のもと行く。
 そういやエルフ王国区画の店って客引きとかが無いな。
 マリアやエカテリーナが珍しいんだろうけど、まさか客商売でも塩対応じゃないだろうな。


「エリナとミコト、エマのアロハも買うか」

「「「わー!」」」


 三人が同じように声を上げる。もう完全に姉妹だ。


「好きなデザインのアロハを二、三着選んできていいぞ」

「「「はーい!」」」


 三姉妹が仲良く店内に入り、早速物色を始める。


「エリナ、お前たちがアロハを選んでいる間、俺はちょっと周りの店を見てくるから」

「わかったー! お兄ちゃんのあろはは私が探しておくからね!」

「頼んだ」

「任せて! すごく可愛いのを選んでおくから!」

「可愛いのはやめて」


 不安になりながらも店を出て、周囲のエルフ王国の店を覗いていく。
 引きこもりの癖によくこんなに出店したな。
 テナント料も無いしこの利益率の高いイベントで稼いだらしばらく引きこもれるとか考えてたりして。
 ……ありえそうだな。


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また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
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