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第十章 ヘタレ異文化交流

第十話 飛びつこう!

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 亜人国家連合の露店スペースに置かれたテーブルについておでんやら煮込みなんかを味わっていると急に周囲が騒がしくなる。


 <ニンニン!>
 <ニンニン!>


 なんだ? と思い人だかりを見てみると、ちょうどその群衆の中央で黒づくめの衣装を纏ったふたりがバク宙したりとパフォーマンスをしていた。
 ニンニン言い合いながら直刀の忍者刀のようなもので戦っているんだけど……。


「忍者?」

「流石ご主人様っ! よくお分かりですねっ!」

「アホなの?」

「わんわんっ! なんでですかっ! 大人気じゃないですかっ!」

「まあでも忍者のイメージはこんな感じだよな」

「ご主人様のメイドさんも忍者っぽいですよね」

「あれはガチの忍者の方だな。呼ぶと音もなく現れるんだぞ」


 視線を忍者パフォーマンスの方に戻すと、確かに派手な立ち回りで見物客は大喜びだ。
 手裏剣を投げ合わずに体術と剣劇だけのパフォーマンスだから安全っちゃ安全なのかな。手裏剣とか投げだしたら即中止させるけど。
 多分忍者刀も模造刀というか木刀だろうし。


「ほかにも亜人国家連合で人気のキャラクターを呼んでるんですっ!」

「嫌な予感しかしない」


 <わーっ!>
 <かわいー!>


 どこかで聞いた声だなと振り返ると、ミコトとエマが着ぐるみに向かって声を上げていた。
 あれって……。


「亜人国家連合の人気キャラクターワンまげですっ!」

「ヤバいな」

「わんわんっ! ヤバくないですよっ! ご主人様も飛びついてくださいっ!」

「いやいや、今は禁止されてるから」

「? ワンまげに飛びつくのは禁止されてませんよ?」

「俺の知ってる似たようなやつは危険だからと禁止になったんだよ。不意に飛びつくと倒れちゃうだろ?」

「あのワンまげは大丈夫ですよっ!」


 ミコトとエマがワンまげに飛びついたが、たしかに微動だにしない。
 あのふたりはまだ小さいからっていうのもあるけど。

 ワンまげは、飛びついてきたふたりの頭をなでながら、手にしたトートバッグから玩具やお菓子を出してミコトとエマに渡す。


「わーっ! ありがとうございます!」

「ありがとー!」


 ミコトとエマは、ワンまげにお礼を言ってご機嫌だ。


「随分とサービスしてくれるんだなって……」


 しかしワンまげは随分アレににてるよな。猫と犬の違いだけど、とワンまげを観察していると、ワンまげがこちらの視線に気づく。


 ――ダッ!


 視線が合った、と思った瞬間、ワンまげがこちらに向かってダッシュしてくる。
 えっ、こちらでは向こうも飛びついてくるの?

 身構えた瞬間、ワンまげはそのまま俺に向かってジャンピング土下座を披露する。


「閣下! この度はこのような催しにお誘いいただき恐悦至極で御座います!」


 ゆるキャラの土下座とかシュール過ぎだけど、この声って……。


「シバ王か」

「御意」

「なぜ着ぐるみを?」

「今回の物産展の為に犬人国だけでなく、亜人国家連合に属する各国の代表者を集めております。流石に拙者が現場にいますと気を使われてしまうので……」

「理由は分かったから立ち上がってもらって良い? ゆるキャラを土下座させてる俺って周りから見たら危ない人に見えちゃうから」

「しかし……」

「わんわんっ! お父さんっ! ご主人様が困ってるでしょっ!」


 サクラがゲシゲシとワンまげを蹴りまくると、流石に観念したのかゆっくりと立ち上がる。


「今着ぐるみを脱ぎます故」

「そのままでいいよ、中に人が入ってると思ったらミコトとエマががっかりしちゃうだろ」

「はっ。そして閣下、不躾ながらひとつお願いの儀が御座いまして」

「あっ、要望か何かか? こちらとしても初めてのイベントだから色々な意見は助かるからどんどん言ってくれ」

「温泉を掘らせていただきたいのです」

「温泉? 出るのか?」

「地質調査を行ったところ、問題無いようです」

「そういやファルケンブルクはドイツっぽいしな、たしかバーデン=バーデンって温泉が有名なところがあったっけ」

「よろしいでしょうか?」

「どうせなら費用はこちらで持っても良いし温泉を使った宿泊施設なんかの営業許可も出すぞ。その代わり温泉掘削技術とかを教えて欲しいんだが」

「へ、そのようなことでいいのですか?」

「温泉を探したり掘削する技術はファルケンブルクには無いしな。ついでに魔導具で効率化できればあちこちで温泉を掘れるかもしれないし」

「おお! それは素晴らしい」

「もちろん技術に関しては特許料は払うし、細かな権利関係の話はアイリーンとしてもらうが」

「御意に御座います!」


 温泉か! いいな!
 ついテンションが上がってしまう。
 勝手にこちらで金は出すと言ってしまったが、無駄に軍拡するよりこっちの方がよっぽど領民のためになるだろ。


「パパ! ワンまげとお友達なの?」

「ぱぱすごい!」


 娘ふたりが俺とワンまげが親しく会話をしているように見えるようだ。
 良かった、土下座シーンは見てなかったんだな。
 保護者としてふたりに同行しているエリナとクレアを見ると俺に向かって凄い笑顔で親指を立てている。
 出来た嫁たちだ。


「そうだな、友達だぞ!」

「恐れ多い!」


 友達と言われて即座に土下座しそうになるシバ王じゃなくてワンまげを、サクラは素早くゲシゲシ蹴って阻止する。ミコトとエマから見えない位置なので子どもの教育に問題はない。


「そうなんだね! ねえパパ! あれ欲しい!」

「えまもあれかってほしいー!」


 二人が指さす土産物店を見てみると、木彫りの熊やタペストリー、努力&根性と書かれたキーホルダーなどが並んでいた。
 なんだ、日本中の昭和の遺物が集まってるのかここには。


「えっと、何が欲しいんだ?」


 ふたりに引っ張られて店の前まで連れられて行く。
 ミコトとエマがおねだりするなんてめったにない事だから、是非買ってやりたいんだが、タペストリーとか嫌だぞ。札幌とか奈良って書いてあるし意味わからん。


「えっとねー、これ!」

「えまもー!」


 二人が指さしたそれは木彫りの熊の横に置いてある、同じく木彫りの熊なんだが……たしかに見た目は隣の木彫りの熊より可愛い。
 可愛いんだが、見た目が完全にリラックスした熊なのだ。


「駄目!」

「えー!」

「なんでー?」

「危険だから」

「あぶなくないよー! りらっくすくまだよー!」

「やっぱりあぶねー!」

「ぱぱきらい!」

「店員さん、これふたつ別々で包んでもらって良いですか?」


 あっさり陥落して即座にりらっくすくまを購入した俺は、店員さんが包んでくれた熊をふたりに渡す。


「わー! パパありがとー!」

「ぱぱすきー!」

「そかそか。家に着くまで包みから出したら駄目だぞ。危ないから」

「あぶなくないのにー」

「のにー」


 <亜人国家連合物産展に来てちょんまげ!>


「おい馬鹿やめろ!」


 調子に乗ったシバ王が客の呼び込みを始めたので即座に制止する。


「パパ! ワンまげにどなっちゃだめ!」

「だめ!」


 娘ふたりの抗議をスルーしつつ、先ほどのテーブルに戻り、途中だったおでんや煮込みを食べることにする。
 忍者ショーはいつの間にか終わっていたが、周囲には買い物客や俺と同じように食事をしている人で溢れかえっていた。
 亜人国家連合の食べ物はやはりファルケンブルクでも受け入れられているようだ。
 忍者ショーも人気だったし、引き続き黙って周囲に愛想を振り始めたワンまげも子供たちに大人気でやたらと飛びつかれている。
 たしかに中の人がシバ王なら大人が不意に飛びついても大丈夫だろう。

 これだけ人気があるのなら今後も亜人国家連合との輸入品の取引拡大を考えてもいいかもな。
 りらっくすくまは禁輸措置にするかもだけど。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

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