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第十章 ヘタレ異文化交流

第三話 エルフ王国との交易

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 食後のお茶も終わり、会議の再開を宣言すると早速女官が書類を持って来る。


「閣下、ラインブルク王よりエルフ王国との交渉に関する全権を委任されました」

「交戦は許可されていないけどな」

「戦争は外交の一手段なんですけどね。開戦のメリットが皆無ですので今回はそのオプションは用いません」

「メリットがあっても俺は許可しないからな」

「では一番上の書類をご覧ください」


 俺の言葉をスルーしてアイリーンが議事を進行する。


「交易ねえ。エルフ王国の特産品ってなんなんだ?」

「主に獣肉がメインですが、今後は手芸品、工芸品、芋類に魚介類を輸出したいとのことです。調査員も派遣しましたがそれなりの生産量もあるようです」

「魚介類?」

「エルフ王国には海が存在します」

「あれ? ここって海岸線からかなり離れてなかったっけ?」

「ええ、ですが実際に存在します。実際には対岸が見えないほどの巨大な塩湖なのです」

「そんなものがあったのに今までわからなかったのか?」

「代々エルフ王国が秘匿していた聖地らしいのですが、海水魚が豊富に取れるので、外貨獲得のためにも輸出したいと」

「塩湖って魚がいるのか」

「濃度などの条件などにもよりますが、エルフ王国の担当者によりますと地中の深いところで海と繋がってるトンネルのようなものがあるのではないかということです。真相は不明ですが。何しろ聖域ということですので調査もなかなか進まないようなのです」


 地下トンネルねえ。海岸線まで数百キロあるし信憑性がな。


「だけど実際豊富に魚が獲れるような湖があれば集落というか人が住むにはかなり役に立つよな」

「エルフはその母なる湖とともに栄えたという歴史があるので聖域とされているようです」

「でも外貨獲得のために利用するのか」

「エルフの生活を豊かにするためなので全く問題ないということです」

「都合のいい解釈だな。うちとしては新鮮な魚介類が手に入るのは助かるが」

「主力の輸出品目の獣肉はファルケンブルクでも売れるでしょうけれど、魚介類であれば希少性もあって利益率はいいかと」


 輸出入の品目を見ながら、久々に新鮮な魚が食えそうだと少しテンションが上がる。


「輸送も一日だし新鮮なまま入ってくるな」

「エルフ王国には宿泊施設がないとのことですが、南部宿場町の近くですし、街道整備もすぐに可能ですからね。商人などの宿泊も問題ありません。それと、南部宿場町自体を拡張し、常駐兵を増員したいと思います」

「商人とか旅行者の保護ってだけで必要以上に兵を常駐させたらエルフ王国を刺激するだろ」

「いえ、これは宿場町を利用する者たちの保護ではなく、竜種に対する兵力です」

「その問題があったか」

「城壁とまでは行きませんが、最低でも地竜の攻撃に耐えられる防御壁、そして竜種に対抗できる火砲の設置などですね」

「もう要塞だな」

「エルフ王国内に兵や火砲を配備するわけにはいきませんし」

「国境の制定なんかは?」

「精霊魔法で隠ぺいできる範囲は主張したいとのことでしたので、そこで確定しております」


 アイリーンが俺の前に来て地図を広げると、南部大森林の南西部分に大きく丸が描かれていた。
 拡張後のファルケンブルクよりさらに大きいくらいか。


「意外と広いのな」

「少数民族とはいえ、一万弱の民が生活しているわけですからね」

「結構国民いるのな」


 引き籠り過ぎだろう。
 そんなに国民がいるような雰囲気じゃなかったぞ。


「レジャー開発が進んだりすれば潜在的な顧客になるかもしれませんし、距離も馬車で一日と近いですしね。」

「魔導ハイAだと三時間かからなかったけどな」

「魔導駆動車ならば一日で往復可能ですね」

「その魔導駆動車のコストが下がらないから普及しないんだが」

「それもエルフ王国との技術交流協定を結びましたので、魔導技術もなんとかしたいところですが」

「新しく魔素研究のデータも入ってくるし、一気にブレイクスルーする可能性もあるわけか」


 魔導エンジンの効率化、かなり難航してるんだよな。


「期待したいですね」

「あとあれだ、さっき話したアンテナショップ。亜人国家連合だけじゃなくてエルフ王国にも用意してもらおう」

「そうですね。手芸品、工芸品がどれだけファルケンブルクで受け入れられるかというデータは取りたいですし」

「ある程度数がまとまったら物産展なんかやってもいいかもな」

「物産展ですか」

「亜人国家連合とエルフ王国で、特産品なんかを並べて大々的にアピールするんだよ。人気の品は今後、大量生産して主力輸出品目にするとかな」

「エルフという存在を知らない人間もいますしね」

「そういうのも含めた異文化交流だな」

「かしこまりました。物産展なども行えるようなアンテナショップを検討します」


 その後は関税をはじめとした条約や技術提携、人材交流など細かな話になっていく。


「引きこもり国家だと思ったけど随分と積極的に交流しようとしてくるな」

「閣下が手土産として持ち込んだ魔導具に相当興味をひかれたようです。彼らは魔素を扱いますが、家事に利用したりする発想はありませんでしたから」


 引きこもりが楽に家事をするのに便利だってことか。
 とことん引きこもり思考なのな。


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