201 / 317
第九章 変わりゆくヘタレの世界
第十九話 セグA
しおりを挟む「兄ちゃん、もう卵ないのか?」
「ちょっとまて、クレアに解毒してもらってからな」
すき焼きはガキんちょどもに大好評だ。数人が春菊は苦いから苦手とかいうのが出たくらいだ。春菊の美味さがわからないなんてやっぱり子どもだな。
と言っても確かにファルケンブルク産の春菊は葉の大きさも小ぶりで少し香りと苦みが強いから仕方が無いのかも。
ただ肉や野菜を溶いた生卵に付けて食べるスタイルは子供たちにとっては楽しいらしく、予想以上に生卵を消費している。
解毒魔法をかけちゃえば問題なく生食できるんだが、できればいちいち解毒魔法を使わなくても生食できるように生産して流通させられないかな?
「お兄ちゃんすき焼きって美味しいね!」
「いっぱい食えよ。お代わりもあるぞ」
「うん! ミコトちゃんもエマちゃんも気に入ったみたいだよ!」
言われてミコトとエマを見ると、ふたりとも上手に箸を使いこなして卵液に牛肉を浸してから器用に食べている。
ああ、なるほど、前に魔導遊園地のレストランで貰った小さなボウルに卵液を入れて食べているのか。そりゃお気に入りになるだろうな。
「兄さま、この籠に入った卵の解毒が終わりました」
「ありがとうなクレア。一号、持って行っていいぞ」
「おう! ありがとうな兄ちゃん、クレア!」
一号が籠から卵をふたつ取り出して自分の席に戻る。二個も食うのか?
「兄さま、解毒魔法を使わないで食べる方法があるのですか?」
「そうだな、健康な親鶏にしっかり管理された鶏舎、新鮮なうちに輸送できる流通網があれば何とかなるかもな。もちろん定期的な検査とか解毒は必要だろうけど」
「美味しいし売れそうな気がしますね」
「卵の生食が受け入れられればな」
ガキんちょ連中には普通に受け入れられてるしTKGも普通に食ってるけど、一般に受け入れられるかと言うと怪しいだろうな……。
米や味噌、醤油はなんとか売れ始めてきたって程度だし、生卵はハードルが高すぎると思う。
「シメにうどんを入れるからなー」
「「「おおーー!」」」
シメのうどんすきを堪能した後、食休みもとらずに急かしてくるマリアに連れられて魔導ハイAを置いてある駐車場まで向かう。
「食後のお茶の一杯くらい飲ませろよマリア」
「でもセンセ! はよ見たいんや!」
「わーったわーった」
マリアとクリスを連れて玄関を出てると、家のすぐ脇にある作ったばかりのガレージに向かう。
ガレージの壁に備え付けられたボタンを押すと、ガラガラとシャッターが自動的に巻き上げられていく。無駄機能過ぎる。
「おおー!」
少しずつシャッターが上がり、魔導ハイAの漆黒のボディが徐々に姿を現していく。
「魔導駆動車にはいくつかのバリエーションが存在するが、これは二年ほど前に一番最初に作られた試作車両だ」
「えらいかっこええですね!」
「俺のいた世界でも人気車種だったしな」
「そういえばここの領主さまは<転移者>という話でしたね。センセは<転移>してきたんですね」
「そういやその話はしてなかったか。しかしエルフ国にも<転移者>の話は伝わってるんだな」
「国には過去<転移者>と会ったことがあるって人もいたと思いますよ」
「まあ千年近く生きてるならそういうこともあるかもな」
「閣下、失礼いたします」
マリアが魔導ハイAを興味深く観察していると、アイリーンがガレージに入ってくる。
「どうしたアイリーン」
「マリア殿から預かっていた魔導具をお持ちしたのです。その……ファルケンブルクの町に侵入したと申告されましたので、危険が無いか調査しておりました」
「不法侵入かよ……」
「いやいやセンセ! 入門税が払えないからやむなく! ちゃんと面接の時に申告しましたし!」
「ちゃんと門番に話してれば無料だったんだぞ」
「知らなかったんで!」
「求賢令の公布と同時に受験者は無料にしたんだが、周知期間がなかったし仕方ないか」
「そうそう! 流石センセ!」
「で? 侵入に使った魔導具って?」
「こちらです」
アイリーンが目配せすると、メイドさんふたりがかりで運んでた、どこかで見たような乗り物をガレージの前に置く。
人ひとりが乗れる丸い台座に、T字の長い取っ手のようなものが備え付けられている。取っ手の高さは一メートル三十センチくらいか。
まるでタイヤの無いセグ〇ェイのようなデザインだ。
「あ、返してもらって良いんですか?」
「特に危険はありませんでしたから」
助手席下に設置されている魔導エンジンを見ていたマリアが、置かれたセ〇ウェイのもとに歩いてくる。
というかなんで助手席の下にエンジンがあるってわかったんだこいつ。しかも助手席を下げてエンジンルームを開けてるし。
「というかこれどうやって使うんだ? なんとなくわかるけど」
「この足場に乗ってハンドルを握ると、私が集めた魔素を使って浮遊するんです」
「おお、空飛ぶアイテムか!」
「と言っても乗った人間が集めた魔素を使うので、乗り手の能力次第で稼働時間が決まるんですよね。私だと十分で息切れしてしまいます」
「なるほど、それで魔素を蓄積する技術を研究してるのか」
「魔素はすぐに霧散してしまいますしね」
「これ魔力では動かないのか?」
「難しいですね。でもそれも研究中です」
もしこれが魔力で動くようになったらとんでもないことになりそうだな。しかし空を飛ぶ乗り物か。研究資金がどれくらい必要なのかはわからんが期待してしまうな。
「名称とか決めてあるのか?」
「これは最終的な完成品の一部機能だけを持たせたパーツのようなものなんです。ですので『セグメントA』略して『セグA』と呼称しています」
「あかん」
「なんであかんのですかセンセ!」
「普通に『セグメントA』で良いだろ。なんで略すんだ」
「普通は長い名称って略しますよね?」
「駄目駄目!」
「魔素を蓄積できるようになって長時間稼働が可能になったセグAが完成すれば、セグAを四方に取り付けた空中浮遊砲座など色々発展するんですよ!」
「それは良いけど略称は駄目だ!」
「空中浮遊砲座は良いのですね旦那様!」
なぜか別の単語に反応するクリスと、その横に立っていたアイリーンも目を輝かせ始める。
そういやこいつら過激派だった。
結局この一件で、マリアの技術開発のための研究費用として多額の予算が割り当てられることになるのだった。
0
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる