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第九章 変わりゆくヘタレの世界
第十二話 求賢令
しおりを挟む興奮しまくったシバ王が、リビングにいるガキんちょどもに叙任状を見せびらかせ始める。付き合いの良いガキんちょどもは「すごいねー」「きしさまなんだねー」とシバ王を持ちあげまくってるな。
随分優しいなあいつら……。
ガキんちょどもは俺の養子だが、爵位は持たせてないから平民だ。
だからシバ王の持つ騎士爵の叙任状は確かに自慢にはなるんだが、ガキんちょどもには「やりたいことがあって爵位が必要ならばいつでもいえ」といってあるので、いつでも騎士爵や准男爵にはなれるんだよな。
「旦那様」
「おっとすまんクリス」
シバ王を生暖かく見守ってると、クリスに声をかけられる。
シバ王の件は終わったが、公営ギャンブルを始めるための詳細を、クリスとアイリーンで詰めている最中だったのだ。
「閣下、公営ギャンブルを担当する部署の人員にはめどがついておりますが、やはりここ数年の急激な拡張によってまだまだ人材が足りない状況です」
「今日採用試験の最終面接が終わったんだろ? どうだったクリス」
「現在は年四回の採用試験を行っておりますが、例年どおりの採用人数になるかと思いますわ」
「それで足りるのか?」
「なんとか、といったところでしょうか」
「基準を少し甘くするとか」
「検討はしましたが、採用年によって質が変わってしまうのは避けたいところですわね」
「当たり年、外れ年ってのが出ると確かにな」
クリスの言うことはもっともだとは思うけど、ある程度融通を利かせても良いとおもうんだが。
「閣下、どうでしょうか? 以前、閣下が仰られていた特別枠の創設をしたいのですが」
アイリーンが書類を見せながら意見を出してくる。
以前、特例で人材登用したときに期間限定で施行した条例に関する書類だ。
「軽犯罪を犯したものを試用期間を設けて採用するってやつか」
「はい」
「盗賊ギルド、暗殺ギルドを潰した時に使えそうな人材はいないかどうか試験したが全員が基準に達しなかったけどな」
「その特別枠を、今回の試験の落第者や受験資格の無いものなどに広げたいと思います」
「落第者や犯罪者、市民登録証やギルド登録証を持たない連中を採用するってことか?」
「一芸に特化していれば、文字が書けない者や、軽犯罪歴を持つ者、市民登録、ギルド登録などの身分登録をしていない者からも採用したいと思います」
「身分登録証の無い連中っていうのはなあ」
「合格すれば改めてこちらの費用持ちで市民登録させます。そうすればある程度の身辺調査にもなりますし」
「なるほど、身分証を作れなくて能力のある者は拾い上げることはできるか」
「そのため、受験する者に関して行っていた入門税の免除も、この制度を使って受験をする目的であれば同じく免除したいと思います」
「なるほど。受験以外でも身分証を持たない難民なんかも指定の施設に限って免除か」
俺も最初は身分証を持ってなかったしな。転移してきたばかりの<転移者>を救済できるかもしれん。
婆さんが俺の身分を保証してくれなければ町に入ることすらできなかったしな。
というかこっちに来てから俺以外の<転移者>は見たことが無いんだが、婆さん曰く十年に一度くらいの頻度でファルケンブルクで見かけるって話だから、知名度の割にはレアなんだよな。
あと亜人国家連合にも生存してる<転移者>が数人いるらしいけど、表舞台に立つ気はないらしく、ひっそりと暮らしてるので放っておいてあげてほしいとシバ王に言われたし。
なんで異世界に来てまで引き籠ってるんだ……。
「旦那様の世界ではかの有名な為政者が残した素晴らしい制度があるではないですか」
「求賢令か」
「はい。わたくしは魏派ですし」
「俺は蜀派なんだよなあ。まあ曹操も好きだからクリスの気持ちもわかる」
「閣下」
「すまんアイリーン。つい懐かしい話題に乗ってしまった」
「私は呉派です」
「お前も読んでたのか」
「異世界本としては三国志は割とポピュラーですからね。完全な写本の他にもオリジナルの作品が多く出回っておりますが」
「もうここ異世界って感じがしないわ……」
「それで閣下、求賢令を早速公布したいのですが」
「期間なんかは特に設けないのか?」
「そうですね、常時募集でもいいかと思いますが、採用人数次第では不定期になるかもしれません」
「もう面接官や試験方法なんかも決めてあるんだろ? 今回の受験者が地元に戻る前に公布したほうが良いだろうし」
「はい」
「わかった。任せたぞアイリーン」
「お任せください」
求賢令ねえ。史実で求賢令を使って仕官した有名な人材っていたっけか?
なんか嫌な予感もするし、どんな人材が集まるのやら。
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