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第九章 変わりゆくヘタレの世界

第九話 第三回バトルトーナメント

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 クリスにぼこぼこにされたシルだったが、俺やエリナたちに慰めるとすぐに復活する。
 これも毎回のことだ。


「そうですよね! 姉上は規格外過ぎですし!」

「いくら初級魔法限定ルールがあっても、クリスの初級魔法の弾幕をかいくぐった上で、更に防御魔法を突破して攻撃を当てるなんて芸当は厳しいしな」

「ですよね!」

「クリスは強すぎるし殿堂入り扱いにするかな。領主の身内が毎年優勝賞金を搔っ攫っていくのは『領主が賞金を払いたくないんじゃねえの?』って疑惑も生むしな」

「その通りですよお兄様!」

「お前も身内なんだぞ……」

「ですがお兄様! 今年はわたくしが優勝しますので是非応援してくださいね!」

「もちろん応援はするけど、もうクリスの出場にはこだわらないんだな」

「化け物ですからね!」

「まあ来週のバトルトーナメントは頑張れよ。地方から思わぬ猛者が挑戦してくるかもしれないんだし」

「大丈夫ですよ!」


 初年度から優勝、準優勝を身内で取ってたら意味ないよな。そもそも優秀な人材を集める目的なのに。クリスが強すぎて挑戦者が集まらなくなる可能性もあるし、優勝者は翌年から出場できないようにするかな。





「っていうのが先週の話だったんだが」


 バトルトーナメント決勝。
 シルと二十メートルほどの間隔を開けて対峙する細身で長身な仮面男は、着流し姿のまま悠然と立っている。
 漆黒の長髪に、犬耳、巻き尾の立派な亜人だ。


「お兄ちゃん、あの仮面の人って」

「シバ王だな」

「お父さんですねっ!」

「たしかに参加資格には特に国籍とか設けてなかったけどさ。優勝したら叙爵するんだが、亜人国家連合の国王に騎士爵とか不敬も良いところだろ」

「お兄ちゃん! シルお姉ちゃんが勝つかもしれないんだよ!」

「シバ王は素手で地竜をボコれるんだぞ。初級魔法縛りのルールだしシルじゃ無理だろ。一期一振と最上級魔法があればなんとかなるのかな?」

「シルお姉ちゃんとサクラちゃんのお父さんも頑張れー!」

「シルお姉さんもお父さんも頑張れー!」

「一応仮面被ってるんだから中身がばれそうなことは言わないほうが良いんじゃないのか?」


 俺と一緒に座るエリナとサクラが大声で応援する。個人名出してないから良いのかな?
 しかしシバ王相手か、先週あんなに「優勝します! 姉上は参加できませんし!」とか言ってたシルが不憫だ。


「おにーさまー! 見ていてくださいねー! 絶対に優勝しますからねー!」


 闘技場の上から領主家族用の席で観戦する俺たちにシルが手をぶんぶん振って優勝宣言をする。
 あいつシバ王の強さはわかってるはずなんだけどな。まさか仮面を被ってるから誰かわかってないのか?


「レディースアンドジェントルメン! さあ第三回バトルトーナメント決勝の時間がやってまいりました!」

「「「わーわー!」」」


 名前は知らないけど、いつも領主会議でアイリーンの次席に座るおっさんが風魔法で声を拡張してマイクパフォーマンスを行う。
 あいつ領内でナンバースリーなのになんでこんなことまでやってんのかな。
 ちなみに一位はクリスで二位はアイリーンな。
 あとうちの領民はノリが良いからなのか、なんだかめちゃくちゃ盛り上がってる。


「赤コーナー! ファルケンブルクに舞う蝶! シルヴィア・クズリュー伯爵夫人!」

「蝶って……」

「「「わーわー!」」」


 俺のツッコミはあっというまに歓声で消えてしまう。
 ビジュアルも良いしシルは領民に大人気なんだよなー。クリスより明らかにファンの数は上だ。
 騎士団長も兼任してるから意外と民衆の前に姿を見せることが多いし。
 クリスは内勤が多いからあまり知名度が無いんだよな。


「閣下は第一回、第二回とも準優勝している実力者です! ここまでの戦いも、まさに蝶が舞うように華麗な戦い方で、危なげなく対戦相手を一蹴しています!」

「つい一週間前はアホみたいな重装備でガチャガチャうるさかったけどな」

「「「わーわー!」」」

「青コーナー! 謎のマスクマン!」

「「「わーわー!」」」

「彼はここまで全ての戦いをすべて一撃で勝利してきました! この決勝ではファルケンブルクの蝶相手にどんな戦いを見せてくれるのでしょうか⁉」

「「「わーわー!」」」

「では両者とも準備はよろしいか!」

「「応!」」

「では、バトルトーナメント! レディー!」

「「ゴー!」」


 開始の合図とともにシルが抜刀し、シバ王に向かって駆け出す。
 特に武器も構えていなかったシバ王だが、その姿が揺らめいたと思った瞬間シルの背後に姿を現し、そのままシルの後ろ首に手刀を落とす。

 第三回バトルトーナメント決勝戦は、まさに一瞬で決着がついた。


「うわー、圧倒的だな」

「お兄ちゃん、私全然見えなかったよ!」

「お父さん本気でしたね。多分本気を出さないとシルお姉さんは倒せないと判断したんだと思いますっ!」


 気絶しているシルが担架で運ばれていく。
 会場はシバ王のあまりにも圧倒的な強さに静まり返っていたが、シルが会場から姿を消した途端に今まで以上の歓声に包まれる。


「兄さま、私シル姉さまの所に行ってきますね! ミコトちゃんとエマちゃんをよろしくお願いします!」

「わかった。俺も行きたいところだが、多分負けた直後に俺に逢いたくないだろうしな」

「任せてください兄さま!」


 ぽててとクレアが選手控室の方へ向かう。にしても手刀で相手を気絶させるって本当にできるんだなー。


「お兄ちゃん……」

「わかってる。毎年の恒例行事だしな」


 シルの目が覚めたら慰めてやらないと。
 あと一応シバ王の扱いをどうするかアイリーンを呼び出して協議しないとなあ。

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