ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第九章 変わりゆくヘタレの世界

第一話 新しい日常

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「パパ!」


 五歳になってすっかり女の子らしくなったミコトが俺の胸に飛び込んでくる。
 お出かけ用の服を着て興奮を隠せないようだ。


「おっと、ミコトは元気だなー」


 凄い勢いで飛び込んでくるミコトをキャッチして抱き上げる。


「うん! きょうはまどーゆーえんちだからね!」

「ミコトは魔導遊園地がお気に入りだな」

「たのしいもん!」

「そか」


 抱っこしていると着替えを済ませてエリナとエマが手をつないでリビングに入ってくる。それを見たミコトが「あ! えまちゃん!」と、もぞもぞと俺の腕から抜け出ようとする。


「ミコト、危ないから降りるときはちゃんと言いなさい」

「はい!」


 素晴らしい返事に満足した俺はゆっくりとミコトを降ろす。ミコトは早く早くと急かすようにパタパタ足をばたつかせながら、着地した瞬間にぽててーとエマに駆け寄ると同時に抱き着く。


「みこねー!」

「えまちゃん!」


 ぎゅっとお互いにハグし合う幼女ふたり。お前らさっきまでずっと一緒だっただろ……。


「お兄ちゃん、アランはやっぱり先に行くって」

「ミコトとエマがすぐいちゃいちゃするから時間がかかるんだよな」

「本当に仲が良いよねー」

「遅刻したら武器屋、いや専属刀鍛冶師の親父がうるさそうだからな」


 様々な職業を体験学習をさせる授業を学園で取り入れた際に、一号が刀を打ちたいと言い出したのでこの春から専属刀鍛冶師の親父のもとに就職が決まったのだ。
 採用試験期間を経ての就職なので適性があったんだろうが、よくあんな偏屈そうな親父の下で働けるな一号は。怒鳴られたりして無いか心配だぞ。


「アランなら大丈夫だよお兄ちゃん!」

「しかしなーあの親父だぞ?」

「お兄ちゃんの心配性はずっと治らないよねー」

「あの親父以外の就職先ならなんの心配も無いんだが」


 一号の心配をしているとクレアがリビングに入ってくる。
 身長もエリナを追い抜いたし、身長以外も色々追い抜いてる我が家の成長有望株だ。
 その内クリスみたいに育ちそうで恐ろしい。まだ十四歳だぞクレアは。
 エマの授乳期間もとっくに終わって、カップのサイズが元通りになってしまったエリナをちらっとみるが、相変わらずアホみたいにニコニコしてて可愛い。身長もほとんど伸びなかったから、もう二十歳だというのに出会ったころとほぼ変わらないままだ。


「兄さま、お弁当の準備が終わりましたよ」

「一号は先に出ちゃったぞ」

「アランにはもうお弁当を渡しましたから大丈夫ですよ」

「じゃあ魔導遊園地に行くか。ミコト、エマ、イチャついてないでさっさと車に乗るぞ」

「「はい!」」

「返事だけは良いんだよなー」

「いこ! えまちゃん!」

「うん! みこねー!」


 二人で手をつないで玄関に向かうミコトとエマ。ほんとラブラブだなこいつら。
 来年からミコトは学園に通うことになるんだけど大丈夫かな? 離れるのを滅茶苦茶嫌がりそうだな。


「うーん、特例でエマも入学させちゃうか」

「お兄ちゃん何言ってんの?」

「兄さまがまた変なことを……」


 ラブラブな二人を追いかけるように玄関へと移動中、俺の漏らしたつぶやきに帰ってくる嫁二人の言葉が辛辣過ぎだ。


「来年ミコトが学校に行くようになったらあの二人どうなるんだと思ったらな」

「あーそうだね、離れたがらないだろうねー」

「大丈夫だと思いますけどね」

「俺は二人してギャン泣きすると思うぞ」


 ミリィも学園設立時の生徒が少なかった時とはいえ五歳で入学したからな。
 エマは来年四歳になるから無理やりねじ込むのは可能だろうが露骨に特別扱いするのもな。
 などと考えながら、玄関を出てすぐの駐車場に置かれた魔導駆動車に乗り込む。もうエンブレムも何も外したからハイAでも何でもないのだ。


「パパ! きょうはえまちゃんがまえだよ!」

「わかったわかった」


 ミコトとエマのうち、どちらが助手席に乗るかは二人でやり取りして決めているのか、毎回指定されている。
 チャイルドシートのサイズがミコトとエマで違うので、毎回付け替えなければいけないのがめんどくさいので一週間単位とかで決めてほしいんだが、どうせ帰りはミコトが前に来るんだろうなと思いつつ、チャイルドシートの設置をする。


「ぱぱ! だっこ!」

「はいはい」


 大好きな助手席に乗れると待ちきれない様子のエマを抱っこしてシートに乗せてやる。
 後部座席では、ミコトがエリナとクレアの間に設置されたチャイルドシートに座らされていた。


「じゃあ行くぞー」

「「「はーい!」」」

「返事だけは完璧なんだよなうちは」


 魔導駆動車で南にある最近完成したばかりの魔導遊園地へ向かう。
 魔導駆動車はまだ一部貴族が馬車の代わりに用いてる程度だが、魔導駆動バスは昨年から領内の巡行運行を開始し、領民の足となっている。
 そのため、魔導駆動車の領内での運行ルールが定められたり、走行可能な箇所などの細かな法令が作られたのだ。
 なので今は護衛騎士の随伴も無く、普通に魔導駆動車のみで移動している。ミニスカメイドさんは見えないところで様子をうかがっているだろうけどな。


「ぱぱ! あれ!」

「まーた魔導士協会本部ビルが増改築してるな……」


 やたらと巨大化した魔導士協会本部ビルはもはや収拾がつかない状況だ。
 以前ゴーレムの研究とか言い出して魔導士協会本部ビルを人型に変形させようとしたときは、新たに制定した建造物規制法を盾に超高額な制裁金を取るぞと脅して断念させたんだが、また法令の隙をついてやらかしてるなあれは。


「パパ! ミコトあのおうちにいきたい!」

「あそこは危険だから駄目」

「えー!」

「これから行く魔導遊園地の方が楽しいぞ。ミコトは行かなくてもいいのか?」

「そうだった!」


 チョロいのは我が家の伝統なのか、すっかり魔導士協会本部ビルへの興味を失ったミコトに安心して車を走らせる。
 また今日も騒がしくも楽しい一日が始まる。
 そう思うと自然とアクセルを踏む足が軽くなるのだった。
 それでも法定速度を超えないのは俺がヘタレだからではなく道路交通法で定められているからだぞ。
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