179 / 317
第八章 ヘタレパパ
第六十一話 魔導砲
しおりを挟むワイバーンを撃ち落として帰宅し、さくっと晩飯を作る。
今日は買い物に行く時間が無かったので、マジックボックスの中にある豚バラ肉を生姜焼きにして、あとは具だくさんシチューと常備菜で済ませる。
「じゃからなんで魔導砲が駄目なんじゃ!」
食後にそのまま家に泊ることになったアイリーンと爺さんと俺との三人で、今日の魔導駆動車の無駄な機能を検討していると、爺さんが大きな声を上げる。
「危険すぎるわ! しかもメギドアローとか何考えてんだ!」
「いや流石に量産型はファイアランスとかアイスジャベリン程度じゃぞ。第一メギドアローを刻める魔石なんぞ滅多にないわ」
「そういう問題じゃねー。そもそも武装の必要が無いって言ってるんだよ」
「武装が無いほうが危険じゃろ、どうやって身を守るんじゃ」
「馬車に武器なんか積まないだろがよ」
「だから護衛を付けたりするんじゃが」
そういやここ異世界なんだよな。日本の交通事情で考えてたわ。
むむむと考えていると、メモを清書していたアイリーンが「閣下よろしいでしょうか」と声をかけてくる。
「アイリーンは武装するのに賛成なのか?」
「いえ、領内で使用する魔導駆動車に関しては必要ないと思います」
「そうだな、今考えてるのは多人数が乗れるバスタイプの魔導駆動車を領内で運行させることだからな」
「まだ走行距離が短いので今後の改良次第ではありますが、宿場町までの送迎や王都や周辺の村落までの長距離を移動するような場合ですと、どうしても護衛か武装の必要が出てきますが」
「そうじゃそうじゃ」
「でも速度が出れば振り切って逃げられないか? ダッシュエミューは足が速いけどあれは襲ってこない魔物だし、ブラックバッファローや地竜クラスでも馬以上の速度を出せば安全なわけだろ?」
「発見が早ければ可能かと思いますが、発見が遅れた場合ですと難しいと思います。それに空を飛ぶ魔物からは流石に馬の速度では厳しいでしょうし」
「じゃからあれには三百六十度回転する砲座に載った高射砲も積んでおるぞい。正面の魔導砲だと射角を取るのが難しいでの」
爺さんが恐ろしいことを言い出した。
そういやルーフが少し膨らんでたけど、あそこに危険なものが収まってたのか。
「なんて恐ろしいもん積んでるんだ」
「回転砲座なんかを仕込む都合上、魔導砲より基部をコンパクトにせざるを得なくなったから威力はせいぜい中級魔法程度じゃ。砲身自体は長く出来たから射程は出るがの」
「アイリーン、これも量産型では削る無駄装備な」
「はっ」
「何故じゃ!」
「うるせー。ベース車両に無駄なもの載せるな」
「とはいえ閣下。領内ならともかくやはり預かっている寮生などを送迎するバスには高射砲の装備は必要かと。数人なら護衛の騎士に分乗させて馬の脚で逃げることも可能ですが、多人数だと難しいですし」
「ガキんちょを出されると弱いな。たしかに魔物対策は必要だったわ」
「じゃろ?」
「爺さんはちょっと黙ってて」
「はい」
大人しくお茶をすすりだす爺さん。
爺さんが入ってくると魔導駆動車が重武装にされてしまうからな。少し黙らせておかないと。
「アイリーン、やはり基本ベースは可能な限りオプションを抑えて生産性を上げて量産可能なように、同時に価格を下げるべきだと思う。と言っても今の走行可能距離じゃ売れないとは思うが。値段もまだ未定だしな」
「かしこまりました。まずは量産前提の魔導駆動バスを試作しますね」
「領内を巡行させる前提での必要最低限の装備だな。バスタイプなら客席を削れば輸送車両にも転用できるし」
「はっ。それとバギータイプの試作も行わせようと思うのですが」
「それは俺も乗ってみたいから問題ないどころか、むしろ金額次第じゃ俺が金出しても良いくらいだけど」
「いえ、これは軍部の方から予算が出てますので」
「……軍部? 」
「まず軽快に走れて、速度の出る軽量な魔導駆動車を試作いたします」
「偵察車両でも作るのか?」
「はい、それもありますが、魔導砲搭載車両で部隊編成をしたいと」
「お前らなんでそんなに好戦的なの?」
「魔法適性持ちの兵はごくわずかです。魔法の扱えない一般兵でも魔導士と同等の戦闘力を持たせることができれば、彼我の戦力差は一変します」
彼我って……。一地方領主が一国相手の戦力差を覆すようなことしたら駄目だろ。
「王国や亜人国家連合を仮想敵国にするのはやめろっての。今は全く問題無く友好な関係を築いてるんだから」
「ですが我ら為政者としてはあらゆる事態を想定しておくのが当然ですし」
「毎回それ言うけどさ、過剰な軍備拡張は却って火種になるだろ」
「高速機動魔導駆動車砲(仮称)はその存在を秘匿しますから」
「もう名称もつけてるじゃねーか」
「仮称です」
「そういう問題じゃねー」
「二人乗りバギーにすることで、運転手と射手に役割分担します。どちらも魔法の使えない一般兵でも問題ありませんが、片方を防御結界を使える術者にすることで防御力も得ることになりますので、最前線での活躍も期待できます」
「もう戦術に組み込んでるのかよ」
「戦術単位で有機的に運用できる百台で一部隊を編成したいと思います」
「そういう話じゃないんだが。まあいいよ。どちらにしても武装無しの軽量バギータイプは賛成する。偵察には便利だろうし」
「そうですね、高速機動魔導駆動偵察車両(仮称)にも火砲か小型の魔導砲を搭載する予定ですし」
「威力偵察かよ、普通に偵察しろよ。っていうか仮称が長すぎだろ」
「仮称ですしね」
「まあ搭載砲なんかの研究開発は反対しないけど、まずは武装の無いシンプルな奴にしろ。必要なものはオプションで対応できるように」
「かしこまりました。お任せください」
にやり、と口角を上げて返事をするアイリーン。
なんでこんなに危険な思考するやつらだらけなんだ……。
まあまずは量産型の基本となるベース車両を作ってからだな。高すぎたら売れないし。
0
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる