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第八章 ヘタレパパ

第六十一話 魔導砲

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 ワイバーンを撃ち落として帰宅し、さくっと晩飯を作る。
 今日は買い物に行く時間が無かったので、マジックボックスの中にある豚バラ肉を生姜焼きにして、あとは具だくさんシチューと常備菜で済ませる。


「じゃからなんで魔導砲が駄目なんじゃ!」


 食後にそのまま家に泊ることになったアイリーンと爺さんと俺との三人で、今日の魔導駆動車の無駄な機能を検討していると、爺さんが大きな声を上げる。


「危険すぎるわ! しかもメギドアローとか何考えてんだ!」

「いや流石に量産型はファイアランスとかアイスジャベリン程度じゃぞ。第一メギドアローを刻める魔石なんぞ滅多にないわ」

「そういう問題じゃねー。そもそも武装の必要が無いって言ってるんだよ」

「武装が無いほうが危険じゃろ、どうやって身を守るんじゃ」

「馬車に武器なんか積まないだろがよ」

「だから護衛を付けたりするんじゃが」


 そういやここ異世界なんだよな。日本の交通事情で考えてたわ。
 むむむと考えていると、メモを清書していたアイリーンが「閣下よろしいでしょうか」と声をかけてくる。


「アイリーンは武装するのに賛成なのか?」

「いえ、領内で使用する魔導駆動車に関しては必要ないと思います」

「そうだな、今考えてるのは多人数が乗れるバスタイプの魔導駆動車を領内で運行させることだからな」

「まだ走行距離が短いので今後の改良次第ではありますが、宿場町までの送迎や王都や周辺の村落までの長距離を移動するような場合ですと、どうしても護衛か武装の必要が出てきますが」

「そうじゃそうじゃ」

「でも速度が出れば振り切って逃げられないか? ダッシュエミューは足が速いけどあれは襲ってこない魔物だし、ブラックバッファローや地竜クラスでも馬以上の速度を出せば安全なわけだろ?」

「発見が早ければ可能かと思いますが、発見が遅れた場合ですと難しいと思います。それに空を飛ぶ魔物からは流石に馬の速度では厳しいでしょうし」

「じゃからあれには三百六十度回転する砲座に載った高射砲も積んでおるぞい。正面の魔導砲だと射角を取るのが難しいでの」


 爺さんが恐ろしいことを言い出した。
 そういやルーフが少し膨らんでたけど、あそこに危険なものが収まってたのか。


「なんて恐ろしいもん積んでるんだ」

「回転砲座なんかを仕込む都合上、魔導砲より基部をコンパクトにせざるを得なくなったから威力はせいぜい中級魔法程度じゃ。砲身自体は長く出来たから射程は出るがの」

「アイリーン、これも量産型では削る無駄装備な」

「はっ」

「何故じゃ!」

「うるせー。ベース車両に無駄なもの載せるな」

「とはいえ閣下。領内ならともかくやはり預かっている寮生などを送迎するバスには高射砲の装備は必要かと。数人なら護衛の騎士に分乗させて馬の脚で逃げることも可能ですが、多人数だと難しいですし」

「ガキんちょを出されると弱いな。たしかに魔物対策は必要だったわ」

「じゃろ?」

「爺さんはちょっと黙ってて」

「はい」


 大人しくお茶をすすりだす爺さん。
 爺さんが入ってくると魔導駆動車が重武装にされてしまうからな。少し黙らせておかないと。


「アイリーン、やはり基本ベースは可能な限りオプションを抑えて生産性を上げて量産可能なように、同時に価格を下げるべきだと思う。と言っても今の走行可能距離じゃ売れないとは思うが。値段もまだ未定だしな」

「かしこまりました。まずは量産前提の魔導駆動バスを試作しますね」

「領内を巡行させる前提での必要最低限の装備だな。バスタイプなら客席を削れば輸送車両にも転用できるし」

「はっ。それとバギータイプの試作も行わせようと思うのですが」

「それは俺も乗ってみたいから問題ないどころか、むしろ金額次第じゃ俺が金出しても良いくらいだけど」

「いえ、これは軍部の方から予算が出てますので」

「……軍部? 」

「まず軽快に走れて、速度の出る軽量な魔導駆動車を試作いたします」

「偵察車両でも作るのか?」

「はい、それもありますが、魔導砲搭載車両で部隊編成をしたいと」

「お前らなんでそんなに好戦的なの?」

「魔法適性持ちの兵はごくわずかです。魔法の扱えない一般兵でも魔導士と同等の戦闘力を持たせることができれば、彼我の戦力差は一変します」


 彼我って……。一地方領主が一国相手の戦力差を覆すようなことしたら駄目だろ。


「王国や亜人国家連合を仮想敵国にするのはやめろっての。今は全く問題無く友好な関係を築いてるんだから」

「ですが我ら為政者としてはあらゆる事態を想定しておくのが当然ですし」

「毎回それ言うけどさ、過剰な軍備拡張は却って火種になるだろ」

「高速機動魔導駆動車砲(仮称)はその存在を秘匿しますから」

「もう名称もつけてるじゃねーか」

「仮称です」

「そういう問題じゃねー」

「二人乗りバギーにすることで、運転手と射手に役割分担します。どちらも魔法の使えない一般兵でも問題ありませんが、片方を防御結界を使える術者にすることで防御力も得ることになりますので、最前線での活躍も期待できます」

「もう戦術に組み込んでるのかよ」

「戦術単位で有機的に運用できる百台で一部隊を編成したいと思います」

「そういう話じゃないんだが。まあいいよ。どちらにしても武装無しの軽量バギータイプは賛成する。偵察には便利だろうし」

「そうですね、高速機動魔導駆動偵察車両(仮称)にも火砲か小型の魔導砲を搭載する予定ですし」

「威力偵察かよ、普通に偵察しろよ。っていうか仮称が長すぎだろ」

「仮称ですしね」

「まあ搭載砲なんかの研究開発は反対しないけど、まずは武装の無いシンプルな奴にしろ。必要なものはオプションで対応できるように」

「かしこまりました。お任せください」


 にやり、と口角を上げて返事をするアイリーン。
 なんでこんなに危険な思考するやつらだらけなんだ……。

 まあまずは量産型の基本となるベース車両を作ってからだな。高すぎたら売れないし。
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