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第八章 ヘタレパパ

第六十話 やっぱり付いてたあのオプション

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 区画整理中でだだっ広い空き地で魔導駆動車を走らせてると、一騎の騎兵が近づいてくる。
 それを見たアイリーンが「閣下、窓を開けてもよろしいでしょうか?」と聞いてきたので、許可を出しつつ車を停車させる。

 護衛が魔導駆動車を守るために敷いていた包囲を解き、その騎兵を迎え入れると、窓を開けたアイリーンのもとへ下馬して駆け寄ってくる。


「嫌な予感がするな」

「どれ、儂が探索魔法を……」


 爺さんが探索魔法を行使する前にアイリーンが俺に伝令の内容を伝える。


「閣下、南方で飛竜ワイバーンの飛来を確認したとのことです。城塞守備兵はこれより迎撃態勢を取るので退避願いますとの報告です」

「やっぱりな。よし家に帰るか、バリスタやら魔導士も常駐してるしワイバーンなら平気だろ」

「ちょっと待ていトーマよ」

「なんだよ爺さん。素材がただで欲しいのか? 迎撃成功したら素材売却益の一部は対応に当たった兵たちへの臨時ボーナスにするから無料じゃ渡せないぞ」

「いいから魔導ハイAを南に走らせるんじゃ」

「なんでだよ、エマやミコトも乗ってるんだぞ。わざわざ危険なところに行くわけが無いだろアホか」

「後生じゃから! 頼む! 後生じゃから!」


 助手席から身を乗り出して俺にしがみついてくる爺さん。


「いやいやいや、だから乳幼児が乗ってるんだって」

「絶対守る! 儂の防御結界があれば天竜のブレスでも防げるしの! だから頼むトーマ!」

「あーもうわかったわかった。絶対に守れよ! あと魔導ハイAはやめろ!」

「わかった! 任せい!」


 仕方なく魔導駆動車を南へ走らせる。
 アイリーンが近くの騎兵を呼び寄せた途端、その騎兵は南門に向かって走り去っていく。多分領主の魔導駆動車が通過するとか街道を開けさせるとかの前触れかな。
 爺さんのせいでなんて余計な面倒をかけるんだ。
 ちょうどワイバーンの素材で必要なものがあるとかかな?
 竜種程じゃないにしてもワイバーンの素材は高級だし、今色々作ってるようだから素材が足りないのかもな。
 金も無いだろうから直接仕留めて持って帰りたいとかそんなところか。


「クレアも防御魔法頼むな」

「任せてください兄さま!」

「エリナ、いざとなったら俺とふたりでメギドフレアを使うからそのつもりでいろよ」

「わかった!」


 乳幼児を連れている保護者が何故かやる気満々だ。だがワイバーンの近くで爺さんを降ろすだけでお前らの出番はほぼ無いんだぞ。


「アイリーン、頭数や距離なんかは聞いたか?」

「発見地点は南方十キロ程で、こちらに向かって飛来してるとの話なのでそろそろ接敵するかと思いますが」

「ん? 十キロの距離からの騎兵の連絡じゃタイムラグが無いか?」

「城壁より十キロ離れた場所に設置された監視塔からの拠点魔導通信での連絡なので、ほぼリアルタイムに城と城塞守備本部に伝わっておりますよ」

「拠点魔導通信?」

「トーマの世界に電話があるじゃろ?」


 俺の質問に爺さんが答える。


「そういや魔法で遠隔通信って今まで聞いたこと無かったな」

「精霊の力を借りて魔法を行使するエルフはそういうこともできるみたいじゃがの。んで今回魔石を利用した遠隔通信ができる魔導具を開発しての。重要拠点に配置したばかりじゃ」

「報告が無いぞ」

「トーマはアイリーンの嬢ちゃんに丸投げしとるじゃろが」

「そういやそうだった」

「申し訳ありません閣下。現在評価試験中で、結果次第でご報告するつもりでした」

「いや、それならいい。アイリーンの判断でどんどん進めてくれていいから。ただ通信可能距離とか細かな仕様の報告は後でいいから頼むぞ」

「はっ」


 とうとう遠隔通信か。シャルのいる王都ともつながれば毎月の報告も大分楽になるが、距離とかどうなんだろうな。
 まあ報告待ちだな。
 すでに先触れで通達済みらしく、大きく開け放たれ跳ね橋も架かっている南門を魔導駆動車で抜ける。


「よしトーマ、これを見るのじゃ」


 以前より大分広くなった南の街道を時速四十キロ程で走っていると、ナビっぽい画面を弄っていた爺さんが声をかけてくる。


「ナビ? なんだこれ」

「探索魔法を可視化したものじゃの。ほれ、ここに大きな生体反応があるじゃろ。多分これがワイバーンじゃろう」

「距離を示す複数の円が表示された画面には、大きな輝点が画面上端に表示されていた」

「なにこれ、こんな機能も搭載してるの」

「フルオプションじゃからの」

「レーダー探知機みたいなもんかな。でもアレってオプションで付けられないだろ」

「トーマ魔導ハイじゃなかったの、魔導駆動車を停めてくれ」


 爺さんここからワイバーンを撃ち落とすのかな。
 車を停めて爺さんを見ると、ごそごそとナビ周辺のスイッチを弄ってやがる。


「爺さん降りないのか?」

「何故じゃ?」

「爺さんがワイバーンを仕留めるんだろ?」

「違うぞ?」

「? 話が嚙み合わないな」

「まあトーマよ、ハンドルの黄色いボタンを押してみろ」


 オーディオ操作ボタンじゃなかったのかこれ。
 言われるままに、ハンドルに設置された黄色いボタンを押すと、車のボンネットが観音開き状に開き、中から砲身がせり出してくる。


「……なあ爺さんこれって」

「見ての通り魔導砲じゃの。ボンネットに収めるサイズまでコンパクトにするのは大変じゃったわい」

「えっ、これでワイバーンを撃つの?」

「撃つぞ? 照準はレーダーと連動しておるからの。目標をロックオンしたら音声案内されるからその時に赤いボタンを押すのじゃ」


 <目的地に到着しました>


 ……なんだこれ。ちゃんと変更しろよ。


「おい、爺さん」

「試作じゃからの。細かい指摘はあとじゃ。早く赤いボタンを押せ」


 ぽちっと赤いボタンを押すと、砲身から赤光の帯が伸びてはるか遠くの上空に消えたかと思うと、視認するのがギリギリな程の距離で小さな爆発が花のように咲いた。
 ナビの画面を見ると、輝点が消えていたので仕留めたのだろう。

「うむ。照準はばっちりじゃの」

「アイリーン、無駄機能のメモに追加な。レーダーと魔導砲」

「はっ」

「何故じゃ!」


 ワイバーンの回収を近くの騎兵に指示し、魔導駆動車を家に向けて走らせる。

 その日はアイリーンにメモらせた無駄機能の一覧を爺さんに見せつけ、いかにこれら機能が無駄かを説明しまくるのだった。
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