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第八章 ヘタレパパ
第五十八話 安心のフルオプション
しおりを挟む「兄さま随分ロイドさんと話し込んでましたね」
「魔導士協会の連中が魔導駆動車に無駄な機能をてんこ盛りにしてたんだよ。魔力消費を減らせば積載量や移動距離も増えるし、何より量産に向くだろ」
「……なるほどですね」
やたら多いボタンや多機能な魔導炊飯器を見たばかりのクレアは、苦笑しながら俺と爺さんの前に昼飯のBLTサンドとポタージュスープを並べる。
「とはいってもトーマよ。試作段階でとりあえずコスト度外視で革新的技術をてんこ盛りにするっていうのは宇宙世紀じゃ当たり前と異世界本で見たぞ」
「試作機が高性能なのはあのシリーズだけだからな。欠点の洗い出しが終わったあとに再設計されて量産された方が普通は高性能だから」
「じゃが魔導ハイAはここから機能を省いたほうが手っ取り早いじゃろ?」
「普通は試作する前に設計段階でやるんだよ。とりあえず作ってみよう的なノリで作るお前らの方がおかしいの。というかその名前で呼ぶのやめて」
「トーマはほんと細かいのう」
憮然としながらもクレアの作ったBLTサンドをぱくつく爺さん。「うむっ! 美味いぞクレアの嬢ちゃん!」「てへへ、ありがとうございますロイドさん」とやり取りしてる。
昼飯はいつも学校給食を分けて貰っているのだが、今日は爺さんが来て人数が増えたのでクレア手作りの飯になったのだ。
客の分まで給食を出しちゃうと会計処理が複雑になるという理由でアイリーンが宿泊する日の昼食もこのスタイルだ。というかなんだかんだ理由をつけてクレアが昼飯を作りたいだけなのはわかってるので黙ってるけどな。
「爺さんそれで何人前だ」
「四人前ってところかのう」
……給食を分けて貰ってたらお代わり分が足りなかったな。
クレアが昼飯を作りたいんじゃなくてこうなることがわかってたからなのかも。
アイリーンは俺と同じくらいしか食べないからな。
「お兄ちゃん! 私もそのまどうはいえーを見たい!」
エマに授乳してたのか、エマを抱いてリビングに戻ってきたエリナが魔導駆動車に乗りたいと言い出してくる。
「そうだな、せっかくだし少し試運転するか。区画整備の工事状況も見たいし。あとその名前はやめてねエリナ。魔導駆動車だぞ。魔導駆動車」
「わかった! まどーくどうしゃね!」
素直でアホ可愛い俺の嫁が今は一番の癒しだな。
「爺さんいいだろ?」
「もちろん。望むところじゃ!」
「兄さま私とミコトちゃんも良いですか⁉」
「ああ、良いぞ。あまり面白くないかもしれないがな」
「わー!」
クレアの年相応の喜びの声に満足感を覚えつつ、メイドさんを呼び騎兵十騎を魔導駆動車の周囲を守らせる為に集まるように伝える。
「勝手に兵を動かしたけど平気かな? クリスかアイリーンに先に話を通しておくべきだったか」
「トーマお前領主じゃろ……」
「一応な……」
「お兄ちゃん……」
「兄さま……」
なんとなく沈んだ空気の中食事を続ける。
ミコトが終始俺に話しかけた層にこちらをうかがっているが、ミコトは賢いのでアイリーンや爺さんと話していると、仕事中だと理解して遠慮するのだ。かしこ可愛い。
「ミコトー。飯食い終わったか?」
「あい!」
「じゃあ他の人が食べ終わるまでパパと遊ぼう!」
「ぱぱおしごとないの?」
「みんなが食べ終わるまではミコトと遊んでいいんだぞ」
「あい!」
ぽててとクレアの横から俺の膝の上に乗ってくるミコト。
わしゃわしゃとミコトの柔らかく艶やかな黒髪を撫でまわすと「きゃっきゃ」と大はしゃぎだ。
「チャイルドシート作らないとな」
「あるぞい」
「予想は付くけど一応聞いておく。何故だ爺さん」
「メーカーオプション品に乗っておったからの。ルーフキャリアとか一通りあるぞい」
「ほんと無駄だな。チャイルドシートに関しては助かったけど」
「な、役に立ったじゃろ?」
「それにどれだけ予算かけたんだよ」
「アイリーンの嬢ちゃんからは金貨十枚しか貰っとらん」
「一千万円相当って流石に少なくないか……。量産された後なら三、四台は買える価格だけど新規開発の試作品だろ?」
「元々魔導コンバインの改良はやってたしの。アイリーンの嬢ちゃんからはガワだけ作ればいいじゃないかと。あとは魔導エンジンの高効率化なんかじゃの」
「言われたとおりにガワだけ作っておけばよかったのに」
「ま、半分以上趣味じゃし面白がってつけた機能だからの。トーマは気にしないでよいぞ」
「当たり前だ、勝手にそちらでつけた機能に金を出せるか」
「採用されれば儂らのパテント料が乗ったんじゃがの」
「知らん知らん」
俺の膝の上で終始ご機嫌なミコトをあやしながら相変わらずな魔導士協会の連中にあきれ返る。
とはいえ魔導駆動車があれば移動は大分楽になるんだよな。エマやミコトを連れて遠出ができるようにもなるし。
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