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第八章 ヘタレパパ
第五十話 アンダーグラウンド
しおりを挟む「城壁の内側に魔導モノレール?」
魔導駆動車のテスト走行関連の話が終わり、次の書類を見て爺さんに思わず聞いてしまう。
「そうじゃ。魔導コースターの技術の流用じゃの」
「城壁の内側、高さ二十メートルの位置にレールを設けてゴンドラを走らせるのか」
モノレールはモノレールだが、図面を見ると、壁を這うモノレールに天井から乗り込むスタイルだ。
乗っている人間からすると常にレールが横にある状態か。
城壁の上の兵士が巡回する通路に並行してモノレールが走るってこれ……。
「む、気づいたかのトーマよ」
「有事の際に城壁の上の兵士の移動に使う気だな」
「それもあるが武器や弾薬なんかの輸送もじゃな」
「お前らの頭ってそればかりなのな」
「それだけじゃないぞい。星型要塞の正六角形の内側を魔導モノレールで周回させれば、魔導駆動バスを中央から放射状に運行するだけで済むからの」
「なるほど、そうすれば中央から伸びる大通りを魔導バスの運行に使えるな」
「区画整理するにしても限度はあるからの。魔導バスが運行できる大通りはそれほど多くないしの」
「なるほどわかった。予算に問題が無ければ俺的には構わんから、都市計画と一緒に担当に一任する」
「すまんの」
「これ以上無駄な機能とかつけるなよ。予算がかかるようなら無理だからな」
「任せい。本当は地下鉄を作りたかったんじゃがの」
「町の端から端まで十数キロしかないのにそんな大掛かりなもの作れるか」
「地下鉄を作って王都まで繋げたいのう」
「お前らの場合地下鉄じゃなくて地下から攻める坑道にしようとか言い出すから却下」
「トーマは相変わらずヘタレじゃのう」
爺さんの戯言は無視して、次の議題は……と書類をめくっていると「閣下」とアイリーンが挙手をする。「良いぞ」と許可を出すとアイリーンは女官に任せずに、自ら書類を俺のもとに持って来る。重要案件か? と渡された書類を見ると、たしかに重要案件だった。
「……あの件か」
「はっ」
自分の席に戻ったアイリーンは着席しないままそう答えた。
「すべて官営になったんだな」
「はっ。非合法な組織は全て潰しました」
「そこで働いてた者たちは?」
「優先的に生活支援の給付を行い、身寄りのないものは簡易宿舎にて保護しております」
アイリーンの持ってきた書類は非合法の娼館の摘発に関する書類。領主に就任したときの領内改革で真っ先にアイリーンが持ってきた案件だ。
どうしてもこういった産業は廃止できない。望んでその職に就きたい人間もいるし、需要も少なからずあるからだ。
人類が初めて行った商売とも言われているしな。
なので全て官で管理し、望まぬ者には就職あっせんや一時金の貸付なども行っていたが、人生の冒険者ギルドと職業斡旋ギルド設立によってよりセーフティーネットを活用することができるようになったので、一気にアンダーグラウンドで行われていた闇業者を全て摘発することにしたのだ。
「しかし登録証があるのにまだ犯罪者がこんなにいるとはな」
「町の出入りが無ければ登録証を改められることはありませんし、非合法な方法で収入を得ることは可能ですからね。それならば納税の必要もありませんし」
「金を使うたびに登録証を見せる方式にすればある程度抑制はできるのかな?」
「難しいでしょう。登録証に犯罪情報の無い人間に購入させればいいだけですから」
「地道に職質なんかで摘発していくしかないんかね」
「ですね。非合法な娼館は根絶できましたが、いまだに闇賭博などは各地で行われているようですから」
「カードゲームで小銭を賭けたりってのまで取り締まるわけにはいかないしな」
「はい。今のところはまだ表立って問題化はしておりませんが、官営のギャンブル場というのは検討に値する案件だと思います」
「そうだな。無策というわけにはいかないし」
「ギャンブルで身を持ち崩すような連中は、登録証の健康状態が『ギャンブル依存症』になりますからね。その場合は生活支援受給資格が無いので犯罪者予備軍になってしまいますし」
「治癒魔法も効かないんだよなギャンブル依存症って」
「入院もさせられませんからね。現在は人生の冒険者ギルドに無料で登録させる程度の対処しかしておりませんし」
「そういう連中ってほとんどそのまま現金輸送車襲って処理されちゃうんだよなー」
「ギャンブル好きはコツコツ稼ぐことができませんからね」
「国がクズをひとまとめにしておく組織って言われて初めて納得したわこのシステム」
あの事務員の言ってた「冒険者ギルドはクズ受け入れ組織」っていう真の意味が領主になってしばらくして初めてわかったんだよな。
確かに必要悪だわ。明らかな犯罪予備軍を囲っておくには有効過ぎる組織だし。
「ゆくゆくは人生の冒険者ギルドを廃止したい方向ではあるのですが」
「人生の冒険者ギルドがなくなるとクズの受け皿がなくなるからな」
「効率的に犯罪者を摘発できるシステムが確立されないとなかなか厳しいかと」
「だな。必要悪と割り切るしかない。あの事務員もなんだかんだやりがい持ってやってそうだし。というかクズの処理に一切躊躇しないところが凄い」
「ソフィアは優秀な女性ですから」
あの事務員ってソフィアって名前だったっけ? まあどうでもいいか。
「ま、引き続きアングラの非合法組織の摘発は続けるように」
「はっ」
「じゃあいったん飯休憩にするか」
「「「ひゃっほーい! クレア様のお弁当だー!」」」
なんなのこいつら。
だが折角クレアがこいつらの分も持たせてくれたからな。仕方がないから食わせてやるか。
今日は温かいままでお願いしますとクレアに言われていて、城に来たときには女官に預けなかった弁当をマジックボックスから取り出す。
今日の昼飯はカツ丼と味噌汁だ。
うちのガキんちょどもはすでに米食に慣れたから問題ないけど、こいつら大丈夫かな?
俺が取り出すカツ丼と味噌汁を女官が参加者全員へと配っていく。
マジックボックスのおかげで出来立てのカツ丼が食えるのは良いけど、異世界感が皆無なのが少し残念だな。
「じゃあ食うか」
「「「いただきます!」」」
うちで飯食うのと状況があまり変わらんな……。
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