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第八章 ヘタレパパ
第四十一話 三平汁
しおりを挟む「くーくー」
「お兄ちゃん、ミコトちゃんを預かるよ」
俺の膝の上でお昼寝中のミコトをそっと降ろし、エリナの膝の上に寝かせてやる。
「悪いなエリナ。エマも抱っこしてるのに」
「ううん。エマちゃんもお昼寝中だし大丈夫だよ。それより晩御飯の準備でしょ?」
「ああ、ちゃっちゃと作ってきちゃうからな。二人は任せたぞ」
「任せて」
ニコっと微笑み返してくるエリナ。
エマが産まれてから随分と大人っぽくなった。いや、子どもっぽかったのは俺の前でだけだったんだよな。
エリナの心境の変化を頼もしく思いながらも、やはりどこか少し寂しく感じる自分がいた。
厨房に入るとすでにクレアが晩飯の準備を始めようとしているところだった。
「あ、兄さま。今日のメニューは決まってますか?」
「クリームシチューとな、荒巻鮭を使った三平汁にしようと思うんだよ」
「あらまきじゃけ? さんぺいじる?」
「鮭っていう魚を塩漬けにしたのを新巻鮭。その塩漬けにした魚を野菜と一緒に煮るのが三平汁な」
「お魚って初めて食べます」
「鮭なら割と初心者向きだとは思うけどな。それでも食べられないやつがいても大丈夫なようにいつもの鶏むね肉を使ったクリームシチューも作るから」
「じゃあさんぺいじるは少なめですか?」
「そうだな。鮭が問題なく受け入れられれば鮭のクリームシチューも美味いんだぞ」
「楽しみです!」
「じゃあクレアはクリームシチューと副菜を頼むな。俺は三平汁を作っちゃうから」
「はい、任せてください!」
クレアの頼もしい返事を聞いて、早速マジックボックスから新巻鮭の入った木箱を取り出す。
これ何本入ってるんだ……。とりあえず三本取り出して、残りはマジックボックスに戻す。
塩抜きをしてないから一号が作った巨大鍋に各一匹ずつでいいか。
一本三キロくらいありそうな大きな荒巻鮭を、ザクザク切り身にしていく。内臓はすでに取り出されているが、骨は残っているので丁寧に取ってやる。
頭とかアラはどうするかな。いきなり鮭の頭とか見たらあいつらびっくりするかな……。以前サクラが田んぼから取ってきたザリガニの件もあったし、今回は身の部分だけで調理するか。
頭には氷頭もあるし、一応マジックボックスにしまっておく。出汁を取るのにも使えるしな。
骨を取り去ったらあとは巨大鍋で煮ていくだけだ。
昆布で出汁を取った鍋の中にジャガイモ、大根、ニンジン、と火の通りにくいものから入れていく。火がある程度通ったら、骨を取り去って一口サイズに切った鮭とネギを入れる。
昆布出汁と新巻鮭の塩で十分味が出てるのだが、鮭の臭みを消すのに味噌で調味をして完成だ。
味噌を使ったから石狩鍋みたいになったが、味噌を使った三平汁もあるって聞いたことあるし明確な区別もよくわからん。
我が家ではこれを三平汁と呼ぶことに決めた。
「こっちは出来たぞ」
「シチューも出来ました」
「時間もちょうどいいしリビングに持っていくか」
「はい兄さま」
リビングに戻ると、学校が終わったガキんちょどもと「体育の授業だけ参加してきますっ!」と言って昼飯の後に学校に行ったサクラが戻っていた。
「ご主人様っ! お魚の匂いがしますよっ!」
「お前の親父からもらった新巻鮭を使った三平汁だ。亜人国家連合ではポピュラーかもな」
「そうですねっ! 犬人国でも新巻鮭はそこそこ贅沢品ですからあまり食べる機会は少ないですけど、この時期になれば毎年何回かは食べましたよっ!」
「じゃあ味はあまり期待しないでくれな。俺も数回しか作ったことが無いし、レシピも適当だから」
「匂い的にはすごく美味しそうですっ!」
「食ってから判定してくれ」
「楽しみですっ!」
三平汁の巨大鍋をリビングのテーブルに等間隔で並べ、から揚げやポテサラ、サラダなどの副菜をどんどん並べていく。
クリームシチューに白飯などを各人の前に置いたら準備は完了だ。
「じゃあいいかお前ら。今日の巨大鍋は三平汁と言って、鮭という名前の魚が入っている。独特の臭みもあるし無理に食べなくてもいいからな」
「「「はーい!」」」
「じゃあ食ってよし!」
「「「いただきまーす!」」」
サクラが真っ先に三平汁を皿に取り、自分の席に戻ってくる。
「はぐはぐっ! はぐはぐっ!」
「落ち着いて食えよ……」
「ふぉふゅ! んくっ! ご主人様三平汁すごく美味しいですっ!」
「初心者用にアラを入れなかったからサクラには物足りないんじゃないか?」
「いえ、これはこれであっさりしてて美味しいですっ!」
たしかにガツガツと食ってるし気に入ったみたいだな。
ガキんちょどもの反応を見ると、鮭は問題なく受け入れられたようだ。
次回はアラも入れてみるか。
鮭は前の世界でも子ども達には人気の魚だったしな。
サケフレークにしても良さそうだし、おにぎりの具が増えるし鮭マヨにしても良いな。
「兄ちゃん!」
しまった、マヨラーが嗅ぎつけてきやがった。
「どうだ一号。鮭の味は」
「おう! すごく上手いぜ! 魚ってこんなに美味かったんだな!」
「と言っても豚や鶏より高級だからそんなに出せないけどな」
「俺も毎日食べるなら豚や鶏の方が良いかなあ」
「ま、安くなってから考えるさ」
「その辺は兄ちゃんに任せるぜ! あとこの鮭って魚マヨネーズが合うと思うんだけどどう思う兄ちゃん!」
「流石アラン君ですねっ! 鮭フレークをマヨネーズで和えた鮭マヨっていうのが亜人国家連合では有名なんですよっ!」
「だよな!」
「うるせー、コスト的に常食は無理だから諦めろ」
食えないとわかってしょぼーんと自分の席に戻る一号。
新巻鮭はまだまだあるから何回かは鮭マヨを作ってやるかな……。
ともあれ、新鮮な刺身は難しいけど塩蔵品や乾物であれば輸入できる目途は立った。
輸送コストが軽減されれば庶民にも手が届くようになるかもしれない。
ファルケンブルク領で一定以上の消費が産まれれば亜人国家連合でも増産してくれるかもだしな。
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