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第八章 ヘタレパパ

第三十九話 ドレス

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「じゃーねーお父さんっ! また年末には帰るからねっ!」


 名刀を手に入れて終始ニヤけまくっていた父親を東門で見送るサクラ。というかお前はもっと頻繁に実家に帰れよ、定期的に交易団が出てるんだから。
 見た目はまだガキんちょなのに親離れはできてるんだよなこいつ。


「じゃあついでに晩飯の買い物でもして帰るか」

「はいっ!」


 サクラを連れて、てくてくと東門から市場へと向かう。
 今日の晩飯は魚の干物を出してみるかな、いや骨があるし一度焼いてほぐしてから出したほうが良いか。
 目を瞑ってマジックボックスのインベントリを確認すると、新巻鮭が納められた木箱が入ってた。
 これを使って石狩鍋にするか、いや塩鮭だから三平汁になるのか。
 一緒にいつものクリームシチューを用意すれば鮭が食べられないガキんちょも大丈夫だろ。
 魚食べたことが無いやつらばかりだからな。婆さんやクリス、シルはあるかもしれないけどな。

 メニューが決定すると同時に、野菜売りのおばちゃんの店に到着する。


「あら、サクラちゃん! 帰ってきたのかい!」

「はいっ! おばさん今年もよろしくですっ!」

「こちらこそよろしくねサクラちゃん。お兄さん今日はいつもより早いね、夕食の買い物かい?」

「野暮用で外に出たんでついでにな。今日のメインはクリームシチューなんだが、それらの材料の他には大根、人参、長ネギ、キャベツを適当に」

「シチューと一緒にポトフでも作るのかい?」

「三平汁って言うんだが、言われれば割とポトフみたいだな」

「お兄さん、この冬人参は甘みが強くて美味しいからエマちゃんにお勧めだよ。そろそろ旬を外れるから今度大量に仕入れておくからね」

「おお、ありがとうなおばちゃん。マジックボックスに収納しておけば旬のまま食べられるからエマ用に全部買うからな」

「流石にエマちゃんだけじゃ食べきれないだろうねえ」


 いつものように弁当販売用の食材と一緒に食材を受け取って、マジックボックスに収納する。


「じゃあなおばちゃん」

「おばさんありがとうございましたっ! 」

「また来ておくれよ、お兄さんサクラちゃん」

「はいっ!」


 その後はいつも通り肉屋で買い物をし、官営の輸入品売り場で味噌などを追加購入して家に戻る。
 輸入品売り場には味噌や日本酒、酒粕なんかはあるんだけど、納豆や豆腐が無いんだよなあ。
 納豆はともかく、豆腐はそのうち流通させたいな。


「ただいま戻りましたっ!」


 サクラが元気に帰宅の挨拶をして家に入る。


「兄さま、サクラ姉さまお帰りなさい」

「クレアちゃんただいまですっ!」

「クレア、出迎えはいらないってのに」

「ちょうど姉さまとミコトちゃんにお茶を淹れようとしたところだったので。兄さまとサクラちゃんの分も用意しますからリビングで待っててくださいね」

「ありがとうございますっ!」

「ありがとなクレア」


 相変わらず出来た嫁のクレアにお茶の用意を任せ、リビングに入る。


「あ、お帰りお兄ちゃん、サクラちゃん!」

「ぱぱ! さくらねー!」

「ただいまですっエリナお姉さんミコトちゃんっ!」

「ミコトーただいまー。エリナ、昼飯の前にサクラに渡しちゃうか」

「そうだね!」

「エマとミコトは見ておくからエリナはサクラを手伝ってやってくれるか?」

「わかった! サクラちゃん行こ!」

「えっえっ」

「みーこもいくー!」


 エリナはエマを俺に預けると、事情を飲み込めていないサクラを連れて自室に向かう。
 ついでにミコトも付いていった。悲しい。
 エマを抱っこして揺らしていると、お茶とお茶請けを乗せたトレーを持ったクレアがリビングに入ってくる。


「あれ? 兄さま、姉さまたちは?」

「今サクラを着替えさせてる」

「ああ、あれですね」


 納得したクレアがお茶を淹れてくれる。
 お茶請けの冷凍蜜柑がちょっと嬉しい。
 エマを抱いたままバリバリと冷凍蜜柑の皮と格闘していると、サクラとミコトを引き連れたエリナが出てくる。


「お兄ちゃん見て見て! サクラちゃん可愛いよ!」

「ううっ、無理やり服を着替えさせられてしまいましたっ!」

「さくらねーかわいー」


 サクラはブラウンの髪色に合わせた黄色が主体のドレスを身に纏っている。
 ファルケンブルクでも一応社交の場はあるしサクラも農業担当官の役職を持つ官僚なので、公式の場でおしゃれをする必要があるかもしれないしな。


「サクラ似合うじゃないか」

「わふわふっ! こんな素敵なドレスをありがとうございますっ! 他に三着も服を頂いてしまいましたしっ!」

「うちじゃ毎年元日に服を何着か仕立てるんだよ。サクラは一人前扱いになる十五歳になったし特別にドレスを用意したが、気に入って貰えたようで良かった」

「わふわふっ! ご主人様ありがとうございますっ!」

「俺だけじゃなくて、エリナとクレア、クリスとシルも出したからな」

「エリナお姉さん、クレアちゃんありがとうございますっ! すごく嬉しいですっ!」


 エリナとクレアは、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っているサクラを見てニコニコしている。


「エリナ、サクラの服のサイズは大丈夫だったか?」

「おしゃれ着もドレスも大丈夫だったよ!」

「前にサイズを測った時って、作業着とか登城用の服を作った時だっけ。成長期なのにサイズが変わらんのか……」

「わんわんっ! 乙女になんてこと言うんですか! ちゃんと成長してますよっ!」

「そうだよお兄ちゃん! サクラちゃんちゃんと大きくなったたもん!」

「ううっ、脱がすだけじゃなく全身をもふられてサイズとか色々調べられてしまいましたっ!」

「何やってんだエリナは……」

「でもこれでちゃんと成長してるって証明できましたよご主人様っ!」

「わかったわかった」


 服屋は成長を見越して服を仕立ててるのか? 恐ろしいな。
 まあある程度成長してても大丈夫なようにデザインしてるとかなんだろうけど、相変わらず有能だなあの服屋は。


「ま、サイズ確認も終わったしサクラは着替えてこい。着替え終わったらお茶にするぞ。お茶請けは冷凍蜜柑だ」

「わふわふっ! 冷凍蜜柑大好きですっ! すぐに着替えてきますねっ!」


 一人じゃ脱げないので、エリナを連れて俺とエリナの部屋に行くサクラ。
 ミコトも当たり前のようにエリナたちについていく。
 ……パパはさみしいぞミコト。


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