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第八章 ヘタレパパ
第三十七話 シバ王の強さ
しおりを挟むマジックボックスに収納した乾物を倉庫にしまう。
干物とカカオマスは乾物ほど日持ちしないのでマジックボックスに入れたままだ。
まあ今この時期なら倉庫の中も寒いからカカオマスもマジックボックスじゃなくても平気だろうけど。
「では閣下、我らは国に戻ります」
玄関に戻ると、もう帰ると言い出すシバ王。このまま帰すのはな。
「ちょっと待っててくれ」
リビングに戻り、サクラを呼び出す。さすがにこのまま父親と別れさせるのは問題だろう。
本人たちはあまり気にしてないが。
あとクレアに弁当を用意してもらう。おにぎりだけささっと握って貰って、常備菜と一緒に弁当箱に詰めてもらう。
「わんわんっ! おこたから出たくないですっ!」
「お前の親父が帰るんだぞ。せめて門までは送ってやれよ」
「お父さんにはまた会いに行くし大丈夫ですよっ」
「良いから行くぞサクラ」
「んー。ご主人様がそこまで言うならついていきますっ! 先にお父さんのところに行ってますねっ」
「兄さま、お弁当出来ましたよ」
厨房から大きめの弁当箱五個を抱えてクレアがサクラと入れ替わりで入ってくる。
「あれ? シバ王と護衛三人で四個じゃね?」
「荷馬車があると聞いたので御者さんの分も必要かなと」
「なるほど、流石クレア。護衛が御者を兼ねてて全員で四人だったとしても多い分には構わないしな」
「てへへ、ありがとうございます兄さま」
というか俺が全員の人数確認しておけばよかったんだよな。サクラに聞いてもよかったし。
と反省しつつ、クレアから弁当箱を受け取り玄関に向かう。
「待たせた」
「いえ、お気になさらず」
「これ弁当な。帰りの道中で食ってくれ」
「そんな! 恐れ多い!」
がばっと土下座するシバ王。
「サクラ」
「はいっ! わんわんっ! お父さんっ!」
ゲシゲシと父親を正気に戻すサクラ。
めんどくさいなもう。
正気に戻ったシバ王になんとか弁当を渡す。
「なあシバ王、東門に向かう前に少し市場を見ていかないか?」
「市場ですか?」
「ファルケンブルク領で流通している物を見て、亜人国家連合で輸入したいものとかがあればな」
「わかりました。おい」
「はっ」
シバ王が護衛の一人に弁当を渡すとそのまま荷馬車の方へ向かい、荷馬車を引き連れてこの場を去る。
先に東門へと向かったようだ。
「じゃあ行くか」
荷馬車を見送った後、市場に向かって歩いていく。
なにか亜人国家連合でも珍しいものがあればいいんだけどな。
亜人国家連合との会談でもファルケンブルク領で流通する品物の一覧かなんかは提出してるはずだから、そう簡単には見つからないと思うが。
「閣下、お手数をおかけいたします」
「そういうのいいから。しかしシバ王は随分若くないか? 二十代に見えるが」
「某は三十五になりますが、亜人は五十代頃までは老化が緩やかなのです。肉体のピークが長く続くということですね」
「なるほどなー。うらやましい」
ならしばらくシバ王が連合国家の代表でいられるのかな?
友好的なシバ王が君臨してる間に細かな条約なんかを決めておきたいが。
「お父さんは地竜を殴って倒せるくらいですからねっ! すごく強いんですよっ!」
「は?」
「いやいやお恥ずかしい。流石にブレスを吐く火竜には単独では難しいですし、空を飛ぶ空竜や天竜には手の出しようもないですからな」
「えっ」
「水竜は見たことが無いですが、水場での戦闘だと空を飛ばれるよりも厄介かもしれません。結局某単独では地竜程度がせいぜいでして」
「地竜を一人でしばいたの?」
「はい」
「魔法を使って?」
「某は上級魔法をほとんど使えませんので、今回は素手で仕留めました」
なにこの人怖い。
あんなでかいのを素手でいけるの?
もしこの場にクリスがいたら、亜人国家連合を手駒にして世界征服をしましょうとか言い出したかも……。
「じゃあ武器とかはあまり興味がないのか?」
「いえ、某は武器も扱いますよ。特に日本刀を得意としてます。閣下は素晴らしい名刀をお持ちと聞きました」
「流石日本人の<転移者>が多く流れ着くという亜人国家連合だな。日本刀が流行るのは当たり前か」
「日本刀は切れ味はもちろん、なにより美しいですから。亜人国家連合では刀鍛冶が少なく高額な品としてわずかに流通しています」
日本刀か……。
親父の打つ日本刀はかなり良いと思うけど亜人国家連合の刀鍛冶と比べたらどうなんだろうか?
周囲を見渡すと、まだ市場から離れた場所なので人がいない状態だ。
シバ王に一期一振りを見せてみるか。
俺はマジックボックスから一期一振を取り出し、シバ王に差し出す。
「これが俺の愛刀『一期一振』だ。よければ見てみるか?」
ごくりと息をのむシバ王だが、恐縮より興味が勝ったのか「拝見させていただきます」と頭を下げ両手で一期一振を受け取る。
護衛の連中に、周囲を警戒するように目配せすると、懐から懐紙を取り出して口に咥え、抜刀して刀身を眺める。
「……」
「玉鋼ではなくミスリルで打ったんだが、刀鍛冶の親父渾身の作だ」
ぱちりと納刀したシバ王が一期一振を俺に返し、咥えた懐紙をしまいながら興奮したように喋りだす。
「とても素晴らしいです! 亜人国家連合でもあそこまでの名刀は存在しません! 是非その刀鍛冶にお会いしとうございます!」
「わかった。じゃあ武器屋の親父の店に行くか」
「ありがとうございます!」
おお、やはり親父の腕は確かだったか。
親父一人の打つ刀だと輸出品にするには足りないだろうけど、亜人国家連合の上級貴族向けの超高級品として販売はできそうだな。
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