ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第八章 ヘタレパパ

第三十二話 巡回業務

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 城壁を星型要塞に決定したところで、急にバタバタと文官の出入りが始まった。
 まさかすぐに工事を開始するんじゃないだろうな?


「トーマよ、心配するな。まずは地縄張りからじゃからの」

「心を読むなよ爺さん」

「トーマはヘタレのせいか心配性じゃからの。すぐに顔に出るんじゃよ」

「うるせー。まず王都や周辺諸侯に外壁拡張工事をする旨を伝えておかないとまずいだろ。戦争準備と思われたらかなわん」

「そんなわけないじゃろヘタレ」

「誤解を招く行為を極力抑えることのどこがヘタレなんだ……」


 爺さんと不毛な言い合いをしていると不意に腹が鳴る。そろそろ昼にするか?


「閣下、いったん休憩にいたしましょうか?」

「そうだな飯にするか」

「はっ」


 アイリーンが側に控える女官に目配せをすると、頭を下げて会議室を出ていく。


「で、アイリーン。さっきの文官とのやり取りって地縄張りをするため件か?」

「はい。早速本日から開始いたしますので」

「王都や周辺諸侯領に城壁増築工事をするって連絡をしておけよ」

「それは先ほど手配いたしましたので問題はありません」

「流石だなアイリーン」

「閣下のご性格は把握しておりますから」


 アイリーンがドヤ顔で宣言したタイミングで、女官が朝渡したクレア特製弁当箱を持って入ってくる。


「お前ら、クレアが昼飯作ったから食ってくれ」

「「「おおー!」」」


 さっきまで忙しく副官や文官とやり取りしていた連中が騒ぎだす。「クレア様の作られる食事は美味しいですからな」「さようさよう」「私はクレア様の差し入れが一番の楽しみでして」「私もですよ」なんてやり取りしてる。滅茶苦茶人気だなクレアの料理。
 材料なんかほぼ庶民的なものしか使ってないし、高給取りのこいつらなんて普段はもっと良い物を食ってるんじゃないのか?

 女官が弁当箱をそれぞれの前に置いていく。お茶もちゃんと淹れなおしてくれた。


「じゃあ食うか」

「「「いただきます!」」」


 蓋を開けると、中身はおにぎりに玉子焼き、から揚げ、たこさんウインナー、ナポリタン、ミニサラダとまるで子どもが大好きなおかずだらけの弁当だった。
 クレアはタコ見たこと無いんだけどな。一度作って見せたら可愛いと気に入ったので、おかずでウインナーソーセージが出るときはすべてたこさんウインナーになってるのだ。

 弁当箱の蓋の一部をスライドさせると中からフォークが出てくる。
 一号の作った弁当箱だ。つまり大人でも大きめサイズの弁当箱だ。


「鶏マヨおにぎり美味いな。俺の好きだったコンビニのツナマヨをすでに超えてるかもしれん」

「トーマ、儂はこの鶏そぼろおにぎりがお気に入りじゃぞ」

「爺さんはもう歳なんだから高菜おにぎりを食えよ」

「高菜も好きじゃぞ」


 弁当箱に入ってるおにぎりは三つ。
 鶏マヨと鶏そぼろ、高菜だ。一つ一つは大きめだし、おかずが大量に入ってるから大人でも少し多い程度かな。
 ガキんちょどもはこの量ならペロッと食べちゃうけど。


「そういえば、魔導士協会の連中が放置する魔物の死骸の問題があったか」


 昼食も終わり、次の議題の書類が配られたので目を通してみると、先日少し話題になった件だった。


「人生の冒険者の方からも苦情が出ております」

「魔物の死骸の処理は人生の冒険者ギルドとは関係ないだろ?」

「いえ、魔物討伐を生業にしている所属ギルド院からの苦情でして」

「ああ、魔導士協会の連中に狩られちゃって獲物がいないのか」

「はい。それに今回の拡張工事で南部の森も大分無くなりますからね」

「そうか、開墾した土地の近くまで拡張することになるのか」

「トーマよ、城壁の近くに森林なんぞあったら防衛に不利じゃからの。かなりの部分を伐採することになるぞい」

「まあそうだよな。見通しが悪いと迎撃もできないだろうし」

「ですので、比較的真面目の魔物討伐を行っている人生の冒険者ギルドメンバーへの対策案がこちらです」


 アイリーンの指示によって女官が俺の前に書類を置く。


「なるほど、南部に広がる水田の害獣対策か」


 書類をざっと見て、アイリーンの考えを一瞬にして理解する。
 読みやすいんだよな。素人の俺のためにわかりやすくしてくれてるんだろうけど。


「はい。罠や防獣ネットの維持管理、罠にかかった害獣の回収なども含みます」

「担当区域を決めてそこの見回りで基本報酬を出して、ついでにホーンラビットやラージラット、イノシシ、シカなんかの害獣を狩ってくれば別途報酬か」

「罠にかかった害獣の所有権も渡すということにすれば」

「なるほど。しかし甘やかしすぎじゃないか?」

「保守点検は必要な業務ですしね。委託に出すよりは、コストも抑えられますし」

「人生の冒険者で真面目に魔物狩りをしている連中全員がこの作業に従事しても余裕はあるのか」

「今現在も開墾地の拡張を行っておりますが、手の回らない部分に関してはやはり専門に人員を配備することになるかと思います」

「ホーンラビット程度なら追い払ったり罠に追い込むだけでもできるしな。罠や防獣ネットの維持管理の基本報酬だけでもそこそこ貰えるから、今まで魔物狩りで生計を立てられなかった連中も、採取ついでに受けられるかもな」

「見回りをする範囲に応じて報酬額を変動させれば、開いている時間、例えば午前中のみ巡回業務に回るなどといった仕事もできますしね」

「巡回業務ついでに魔物狩りに行けば少なくとも無駄足にはならないしな。良いんじゃないか?」

「では基本報酬額などを人生冒険者ギルドのソフィアさんと詰めておきますね」


 ソフィアって誰だっけ? ああ、あの口の悪い事務員か。
 ギルド長の筋肉ダルマの頭越しでそういう打ち合わせされるのって筋肉ダルマ的にはどうなんだろうな。


「最初は基本報酬高めでもいいかもな。その代わり今後は減るかもというのを伝えておけばいいし」

「実際に運用してみないと見えてこない弊害などもありますしね」

「嘘を見破る登録証があるから、巡回してないのに巡回したっていう嘘もつきにくくはなるだろうけどな。ま、とりあえずやってみよう」

「はい。ある程度外歩きの経験があれば可能な業務ですので、職業斡旋ギルドでも募集をかけるかどうかも検討しておきますね」


 人生冒険者連中も役に立つ時が来たのかね、元々魔物狩りを専門にやってる連中は割とまともとは聞いてたが。
 巡回業務を兼ねてくれるならたしかにアイリーンの書類にあるように専門の人間を入れるよりはコストが安くなるんだよな。
 もう冒険も人生の冒険も一切してない人生の冒険者ギルドになっちゃったけど。
 名称変えるかな?
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