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第八章 ヘタレパパ

第二十二話 領主カンゲキ! のあのカレー

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 エリナに髪を切ってもらった後、晩飯の材料の買い物に向かう。
 ついでに武器屋の親父に依頼していたものも取りに行く。

 今日はついに晩飯のメニューにカレーライスを出すことになった。
 カレー初心者にも受け入れやすい日本のカレールウメーカーの特徴などをクレアに伝えて試作したカレーが非常に美味かったので、今夜お披露目をするのだ。
 ナンも用意するが、カレーが合わなかったガキんちょ用にパンやクリームシチュー、いつも通りの副菜も出すので問題はないだろう。

 買い物を終え自宅に戻り、髪を切り終わったクレアと厨房に入る。


「兄さま、かれーは任せてくださいね!」

「頼む。リンゴ酢とはちみつを入れたカレーは絶品だったからな。いや絶品じゃなくバーモントだけど」

「リンゴ酢とはちみつを入れるとコクとまろやかさが出ますよね」

「コクとまろはまた別なんだけどな。バーモントだし」

「先ほどから兄さまの言っているばーもんとってなんですか?」

「俺の世界にあったアメリカって国のバーモント州で流行ってたらしいんだよ。リンゴ酢とはちみつを摂取するっていう健康法が」

「兄さま……また訳の分からないことを……」

「由来はどうでもいいし、このカレーも特に名前は付けるつもりもないから気にしなくていいぞ」

「辛くなったらいつでも言ってくださいね。治癒しますから」

「病気じゃないっての」


 クレアの冷たい視線を無視して、まずはナンの生地を仕込む。
 塩、砂糖、ふくらし粉、ヨーグルト、バター、お湯を混ぜてなじませたら、強力粉を入れて混ぜ合わせる。
 混ぜ合わせたナン生地を丸く成形して一次発酵させる。
 発酵の間にクリームシチューを仕込んでしまおう。
 クレアに任せたリンゴとはちみつの例のカレーは豚肉仕様だが、クリームシチューは鶏もも肉で作る。ミコトが鶏肉大好きだからな。

 クリームシチューを仕込んだらナンの続きだ。
 一人前の量に取り分けて、こねてからボール状にして二次発酵をさせる。
 本当は全粒粉で発酵させずに作るチャパティでも良いんだが、日本風カレーなのでまだナンの方が合うだろう。
 タンドール窯も無いから、フライパンで焼くとますますチャパティっぽくなってしまうが、ナンも元々丸いしいいだろう。というかなんでナンってあの紡錘形が一般的なんだろうな?
 などと考えながらナン生地の二次発酵の準備をしていると


「兄さま、また変なことを考えているんですか?」


 と聞いてきたので


「そんなことないぞ」


 と答えておいた。嘘だけどな。


「兄さま、かれーの準備が終わりました。あとはことこと煮込むだけです」

「カレーをじっくりことこと煮込むのは大事だからな。ナンの二次発酵を待ってる間に副菜とクリームシチューを仕上げちゃうか」

「はい兄さま」


 マジックボックスに収納してあるポテサラとから揚げをいったん取り出してみる。


「ポテサラも鶏からも今日で終わっちゃうな。また明日にでもがっつり作らないと」

「もう肉屋のおじさまと野菜売りのおばさまには発注済みですから、明日以降用意してあると思いますよ」

「流石だなクレア。じゃあ明日は早めに取りに行って午前中から副菜を作りまくるか」

「任せてください!」


 皿にポテサラや鶏からを盛ってからマジックボックスに収納する。
 その間にナンの二次発酵が終了したのでさっさとナンを焼いていこう。


「クレアはサラダを頼むな」

「はい兄さま」


 大量に並べたフライパンの上にどんどんナンを乗せていく。
 半分は中にチーズを入れたチーズナンにした。
 カレーを食べられなくてもチーズナンなら単体で食べられるしな。

 クレアのサラダが完成すると同時にナンも焼きあがったので、料理をリビングへ運ぶ。


「今日のメインはカレーだぞー。白飯にかけてもいいし、ナンにつけて食べてもいいからとりあえず食ってみてくれ」

「「「はーい!」」」

「よしじゃあ食ってよし!」

「「「いただきまーす!」」」


 挨拶が終わり、エリナとミコト用にカレーとクリームシチューをよそっていつもの乳幼児ゾーンに座る。


「ぱぱ! しちゅー!」

「ミコトの好きな鶏肉のクリームシチューだぞー」

「まま! まま! しちゅー!」


 ミコトは自分の前に置かれたシチューの皿を指さしてクレアに早く食べさせろと要求する。パパが持ってきたシチューなのに……。
 軽くへこみながらもエリナにカレーライスの小盛を渡す。


「お兄ちゃんありがとう! かれー美味しそう!」

「今回はそこそこスパイシーだから、エマのためにもあまり食べさせられないけどな」

「エマちゃんもそろそろ離乳食の時期なんだよねー」

「またおばちゃんに離乳食のメニューを教えてもらうか。ミコトの時は大分固形物に近かったし」

「そうだね!」


 エリナは俺にエマを預けてカレーを一口食べると、ぱっとこちらを向き笑顔を弾けさせる。


「お、気に入ったか?」

「うん! かれー美味しいよお兄ちゃん!」

「そかそか。でもおかわりは駄目だからな」

「ちょっと残念だけどわかった!」


 ぱくぱくと美味そうにカレーを食べるエリナ。カレーが気に入ってくれたようで良かった。
 ガキんちょどもを見るとカレーライスは好評のようだ。
 これなら年明けに学校が再開したときに給食のメニューにしても大丈夫そうだな。


「兄ちゃん! チーズナンヤバい!」

「一号はチーズとマヨネーズを使った料理だと毎回うるさいな。というかわざわざ報告に来なくていいぞ」

「チーズナンにカレーをつけるともっとヤバい!」

「わかったから落ち着け」

「兄ちゃん、これにマヨネーズ乗せたら最強じゃね?」

「そんなわけないから自分の席に戻って食え」

「ちぇっ。同じマヨラーなのにノリ悪いのな兄ちゃんは」

「俺をお前基準のマヨラー枠に括るなよ……」


 マヨラー仲間のサクラが実家に戻ってるから寂しいのかなあいつ。
 だが俺を巻き込まないでほしい。
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