ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第八章 ヘタレパパ

第六話 魔力コンバイン

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 試食した日から一ヶ月と少し経過した。
 エマの首も座り、エリナも多少は育児に慣れたのか、特に体調を崩すことなく日々を過ごしている。

 今日は、魔導士協会に依頼していた稲刈り機と脱穀機と選別機が一体化したコンバインと精米機が完成したので、早速クリスとシル、サクラと一緒に現地へと赴いて持ち込んだのだ。
 今回はまず設計図通りに作ったので、消費魔力が多すぎてクリスやシルクラスの使い手じゃないとまともに扱えないからな。
 今後の改良に生かすための試験運用も兼ねているので、魔導士協会の連中も数名来ている。
 途中でクリスとシルの魔力が無くなった時のコンバインへの魔力タンクとして。


「じゃあお兄様! 見ててくださいね!」


 なぜか妙にノリノリなシルがコンバインに乗り込む。
 日本で見たことのある形そのままのコンバインがブルブル音をまき散らしながら、田んぼを進んでいく。
 なんでエンブレムやメーカー名までそのままなんだろあれ。商標権とか無いからって調子に乗り過ぎだぞ、あれ最初に作った奴。
 
 終始こちらを見ながらぶんぶん手を振っているシルは放置しておく。
 稲を刈って、稲から籾を脱穀して、更に選別までやってるからか、音がすごい。エンジンは積んでないから排気ガスはないけど、騒音としては日本にもあったやつより酷いんじゃないか?

 亜人国家連合からもらった設計図には、コンバインと精米機の他に、土を耕すトラクターに田植え機まである。あと俺にはよくわからない機械もあるが、稲作には必要な機械なんだろう。
 一応すべての試作と改良を依頼しておいたが、天竜と火竜の素材買取で資金不足に陥っていた魔導士協会の連中は嬉々として励んでいる。


「おにーさまーー!」


 魔力を注ぐだけで自動で稲を追って選別までやるから、シルが前を向いていなくてもコンバインは作業を継続する。


「わあっ! シルお姉さんが楽しそうですっ!」

「なんて無駄な魔力の使い方してるんだこれ」

「そうですわね旦那様。魔力供給さえ続けば全自動で刈り取りから選別まで行って、所定の位置まで戻る機能がついています。しかしこれを魔石で実現するのは事実上不可能ですね」

「乗った人間がハンドルを持って操縦すれば、移動、稲刈り、脱穀、選別の機能だけで済むだろ。いや選別は別のところと分けたほうが良いのかな?」

「脱穀まではしておきたいですね。一工程以上の短縮になりますし」


 うーん、用途を絞って消費魔力を軽減する方が簡単かな。
 といって牛や馬に曳かせると稲を折っちゃうからな。


「おにーさまー」


 コンバインがちょうど折り返して来たが、シルのぶんぶん振る手に元気がなくなってきている。
 引き返してきたときに、サクラが素早くコンバインに近づくと、選別済みの籾を一部回収して、稲作担当者と品質のチェックを始める。


「なあクリス、ちょっとシルの元気が無くなってないか」

「シルヴィアはかなりの魔力を持っていますが、それでも上位貴族の中では平均レベルではあります。設計図から魔力消費を逆算すると、一割ほどは魔力を消費してると思いますよ」

「一往復で一割かよ。ここ全部刈り取るのに二十往復は必要なんだが」

「まあ倒れるまでやらせてみましょう。貴重なデータなので」

「鬼か」

「まだあの子は伸びてますからね、魔力総量を増やす良い機会です」

「成人までは伸びるんだっけ?」

「ええ、ですが少し異常ですね。わたくしもまだ伸びておりますから」

「何それ怖い。やっぱ何かあるんじゃないのあの土地」

「魔導士協会の連中も必死に原因を探っていますが、いまだ解明できておりません。支部や職員棟で暮らす分には特に影響が無いそうですから」


 ちらりと見学に来ている魔力タンク、じゃなかった魔導士協会の連中を見てクリスは言う。
 あいつらコンバインに夢中になっててこちらの会話を聞いてないからな。


「そういや職員棟に部屋をくれって言ってきたのはそれか。無給で魔法講師としてこき使ってるけど」

「まだ半年ほどですからね、影響が出るとしてもまだ時間がかかるのかもしれません。という体で可能な限り引き延ばして働いてもらいましょう」

「鬼だな」


 でも魔法講師を雇うとなるとどうしても上位貴族になるから、給料が高額になっちゃうんだよな。
 採用試験で魔法適性があった平民出身の職員だって一般職員の倍くらいの給金が発生してるし。

 魔法科の維持費を考えつつ、メリーゴーラウンドに乗る幼児みたいな行動をしているシルの十往復目を見守る。
 そろそろ魔力が枯渇してるんじゃないか?


「旦那様、次シルヴィアがこちらに来たら『シル愛してる』と言ってみてください」

「なんでだよ」

「単純なあの子ですから、ひょっとしたら魔力が回復するのではと」

「そういう回復力ってあるのかね。あるなら地竜討伐で瀕死になったときに回復してほしかったが」

「アホほど効果があるのですよ旦那様」

「駄姉、お前本当に酷いな」

「妹への愛が溢れてるからこその言葉ですわ」

「お前の発言からは悪気を一切感じないところが逆に怖いんだけどな」

「おにーさまー! ハァハァ。おにーゲホッ」


 大丈夫かあいつ……。というか魔力は枯渇しても体力には影響しないんだから腕を振ったり俺を呼ぶのをやめればいいのに。
 しかしこの状況でアレをやるのか。なんだか可哀そうになってきたな。


「旦那様、今です」


 容赦ない駄姉の合図で俺は心の中でシルに謝罪する。でもあまり優しくすると調子に乗るからほどほどにするけどな。


「シル! 愛してるぞ!」

「お兄様! うれしいです! わたくしもです!」


 俺の言葉を受けた瞬間、一気にシルが元気になった。
 それと同時に、コンバインがギューンと加速したかと思うと、綺麗な高速ターンを決めて十一往復目へと向かう。
 何あれ……。なんで加速してるんだ……。


「本当に回復しましたわね……」


 コンバインを見守っていた魔導士協会の連中も「おー!」とか言ってる。やはりアホには常識が通用しないのかな。


「なんでお前がびっくりしてるんだよ駄姉」

「いえ……我が妹ながらかなり非常識だなと」

「非常識はお前もだぞ……」


 その後、こちらに来る度に「ハァハァ……おにいさま……」「シル! 好きだぞ! 頑張れ!」「はい! 頑張ります!」などと繰り返して、二十往復の稲刈りが終わった。


「ハァ……ハァ……うふふおにいさま、ケホッケホッ。えへへ」


 俺の膝枕で横になっている、息も絶え絶えのシルの頭を撫でてやる。


「なんで体力まで使い切ってるんだよ……」

「シルお姉さん凄かったですよっ!」


 シルの大活躍で、まずは灌漑で区切られた内の百メートル×二十メートル、合計二反分くらいの稲刈りが終わった。
 魔力効率悪すぎるなこれ。まだ十倍以上の面積が残ってるのに。


「じゃあ次は魔力タンクの出番かな」


 ちらりと魔導士協会の連中を見ると、妙にやる気の満ちた顔で、「はいはい! 自分が乗ります!」と見学に来ていた十人が一斉に手を上げる。
 妙な対抗意識でも生まれたんかな。
 まあいいやと順番にコンバインに乗せて稲刈りをさせることにした。

 俺とクリス、サクラ以外の魔法適性持ち全ての魔力を費やしても半分以下しか刈れなかったので、改良の余地があり過ぎる。
 だけど、なんとか今年の稲刈りは終わらせる目途がついたのでよしとするか。
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