ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第八章 ヘタレパパ

第四話 米の品種

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 今日は早生の稲を収穫するというので、サクラとアイリーンを連れて、試験的に早生の品種を栽培している水田に向かっている。
 道はある程度舗装されていたので、馬車での移動だ。その馬車の護衛に、騎士が数騎ついてきている。


「おお、実りだしてるな!」

「どうですかっ! このあたりの水田は多収穫米の品種の稲が植わっているんですよっ!」


 隣に座るサクラが、身を乗り出して窓の外の水田を指さして言う。


「多収穫米か、食味さえ良ければこっちの方が収穫量が多くて良いんだよな。日本でも食味の良い多収穫米がブランド化してるって聞いたこともあるし」

「あと酒造好適米やもち米も別の水田で栽培していますので、日本酒の醸造なども可能ですよ閣下」


 はす向かいに座るアイリーンが書類に目を通しながら補足説明をする。


「日本酒は飲んだことはないけど、こっちで作ってる米でも酒とかみりんは作ってるんだよな。実際売れ行きはどうなんだ?」

「一部の好事家に受けている程度でしょうか? 官営の実験農場産の米から作っているので、赤字ではありますね」

「亜人国家連合から輸入してきた米や日本酒なんかの売れ行きは?」

「だんだんと売上は良くなっていますね。値段も従来の米の半値以下ですし。まだ小麦よりは高いですけれど、官営の商店では炊き方やレシピを教えて販売していて、食味も受け入れられているようです」

「いきなり安価な輸入米と市場競争ってアレだけど、こっちの作る米は王都に流してもいいし備蓄してもいいしな」

「交易品は米以外にもありますからね。亜人国家連合は大豆なども安いですし、こちらで米を生産できるようになったら向こうから品目を変えてくると思いますよ」

「ま、お互いに利幅のいいものを売ればいいわけだしな。こっちの小麦と極小魔石なんかは好評なんだろ?」

「この夏に向けた保冷の魔石は大好評のようですね。亜人国家連合は大きな魔物が少なく、極小魔石を持つ野生動物や小型の魔獣が多いので、こちらに輸出も考えているようです」

「魔力を使い切った魔石の再輸入もやってるしな。魔力を再充填した魔石の価格や輸送費との兼ね合いもあるからあまり高くは買えないだろうけど」

「はい、そちらの価格交渉などは引き続き行っております」


 結局アイリーンに任せちゃってるなーと思いながら客車の窓から外を眺める。
 広大な水田を見ていると、遠くの一角に黄金色の稲穂が見えてきた。


「ご主人様! あれですっ! 今日収穫予定の早生の品種を栽培している水田ですっ!」


 ガラガラとサクラが指さす方へと馬車は向かっていく。
 収穫直前の水田の周りにはかなりの人数が集まっていた。


「結構な人数がいるな」

「稲刈りは重労働ですからねっ!」

「稲刈り機みたいなのって作れないんかな」

「<転移者>の方々が色々作ってくれたんですけどね。亜人国家連合は魔術師が少ないので魔力が必要な魔導具はあまり作られていないんですっ」

「そっか、魔力のコストが高いと結局人力でいいやってことになるのか」

「閣下、サクラ様がおっしゃる、稲刈り機の設計図はいくつか犬人国より頂きましたので、それを基にこちらで研究開発したいと思いますが」

「おお、それは是非頼む。俺の予算を使っていいぞ。アイリーン以外が担当でな」

「私には魔法適性がありませんから、残念ですが適性持ちの文官を担当にして、魔導士協会支部に共同開発依頼をしたいと思います」

「そうか、支部は城からも近いしちょうどいいな。任せる」

「はい。お任せください」


 忙しいアイリーンにあまり任せたくないんだよなーと思いながら外を見ていると、馬車が緩やかにスピードを落とし、稲穂が実る水田の横に停車する。


「じゃあ稲を見てみるか」

「はいっ!」


 サクラが嬉々として馬車から降り、尻尾をわっさわっさと振りながら、水が抜かれた田んぼへと走っていく。


「ご主人様っ! 見てくださいこんなに立派な稲穂がっ!」

「おお、なんか感動するな! 品種名とかあるのか?」

「『太陽のこまち』ですっ!」

「……大丈夫かな?」

「『あきたこまち』という亜人国家連合に持ち込まれた品種を、土地に合わせて改良した品種になりますねっ!」

「品種名はファルケンブルク向けに変更するかもしれないぞ。危ないからな」

「もっと寒冷地用の品種だと、『太陽のこまちエン……』」

「はいストップ! その品種は持ち込み厳禁だからな」

「わんわんっ! なんでですかっ! すごく美味しいんですよっ!」

「駄目ったら駄目! ちなみにさっき見た多収穫米の品種名は?」

「『イージーコメイージーゴー』ですっ」


 命名したのはあのアーティストのファンかよ。


「……今日から『ファルケンブルク多収穫米(仮)』って名前なそれ。領主権限で」

「意味がよくわからなかったのでそれは構いませんっ!」

「わからんでいいぞ。あとの品種は?」

「一番多く植えたのが九月中旬に収穫する『コシヒカリ』ですね」

「そこは普通なんだ。良かったよ」


 意外と色々な品種が持ち込まれてるんだな。
 種もみを担いだまま事故死した<転移者>がいたんだろうな。
 すごく申し訳ないけど、俺にとってはありがたい。持ち込んだ人がこの世界で良い人生を送れていることを願おう。


「多分この土地には『コシヒカリ』が一番合うと思いますっ!」

「楽しみにしておくよ」

「はいっ! それにもっと美味しくなるように品種の開発も続けますからねご主人様っ!」

「頼もしいなサクラ。頼んだぞ」

「わふわふっ! 任せてくださいっ!」


 話が一通り終わると、集められた連中が一斉に稲刈りを始める。
 鎌を持って人力で稲刈りをする姿を見て、コシヒカリとファルケンブルク多収穫米の収穫時期に、なんとか稲刈り機の開発が間に合うといいなと思うのだった。

 その後、サクラは刈り取られた稲の一部を家で食べるためと調査用として受け取り、家に持ち帰ることになった。
 一週間ほど乾燥させる必要があるんだよな。
 脱穀や精米の機械なんかの設計図もあるんだろうか?


「じゃあ今日は帰るか。今から帰れば昼に間に合うしな」

「「「はい」」」


 馬車に揺られながら町へと戻る俺たち。
 稲穂がつき始めた水田を眺めつつ、美味い米が楽しみで今から期待に胸を膨らませるのだった。
 ……昨年収穫した古米なら輸入してるから手に入るんだけどな。やっぱりここまで来たら新米を食べたいじゃないか。
 だって日本人だもの。
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