122 / 317
第八章 ヘタレパパ
第四話 米の品種
しおりを挟む今日は早生の稲を収穫するというので、サクラとアイリーンを連れて、試験的に早生の品種を栽培している水田に向かっている。
道はある程度舗装されていたので、馬車での移動だ。その馬車の護衛に、騎士が数騎ついてきている。
「おお、実りだしてるな!」
「どうですかっ! このあたりの水田は多収穫米の品種の稲が植わっているんですよっ!」
隣に座るサクラが、身を乗り出して窓の外の水田を指さして言う。
「多収穫米か、食味さえ良ければこっちの方が収穫量が多くて良いんだよな。日本でも食味の良い多収穫米がブランド化してるって聞いたこともあるし」
「あと酒造好適米やもち米も別の水田で栽培していますので、日本酒の醸造なども可能ですよ閣下」
はす向かいに座るアイリーンが書類に目を通しながら補足説明をする。
「日本酒は飲んだことはないけど、こっちで作ってる米でも酒とかみりんは作ってるんだよな。実際売れ行きはどうなんだ?」
「一部の好事家に受けている程度でしょうか? 官営の実験農場産の米から作っているので、赤字ではありますね」
「亜人国家連合から輸入してきた米や日本酒なんかの売れ行きは?」
「だんだんと売上は良くなっていますね。値段も従来の米の半値以下ですし。まだ小麦よりは高いですけれど、官営の商店では炊き方やレシピを教えて販売していて、食味も受け入れられているようです」
「いきなり安価な輸入米と市場競争ってアレだけど、こっちの作る米は王都に流してもいいし備蓄してもいいしな」
「交易品は米以外にもありますからね。亜人国家連合は大豆なども安いですし、こちらで米を生産できるようになったら向こうから品目を変えてくると思いますよ」
「ま、お互いに利幅のいいものを売ればいいわけだしな。こっちの小麦と極小魔石なんかは好評なんだろ?」
「この夏に向けた保冷の魔石は大好評のようですね。亜人国家連合は大きな魔物が少なく、極小魔石を持つ野生動物や小型の魔獣が多いので、こちらに輸出も考えているようです」
「魔力を使い切った魔石の再輸入もやってるしな。魔力を再充填した魔石の価格や輸送費との兼ね合いもあるからあまり高くは買えないだろうけど」
「はい、そちらの価格交渉などは引き続き行っております」
結局アイリーンに任せちゃってるなーと思いながら客車の窓から外を眺める。
広大な水田を見ていると、遠くの一角に黄金色の稲穂が見えてきた。
「ご主人様! あれですっ! 今日収穫予定の早生の品種を栽培している水田ですっ!」
ガラガラとサクラが指さす方へと馬車は向かっていく。
収穫直前の水田の周りにはかなりの人数が集まっていた。
「結構な人数がいるな」
「稲刈りは重労働ですからねっ!」
「稲刈り機みたいなのって作れないんかな」
「<転移者>の方々が色々作ってくれたんですけどね。亜人国家連合は魔術師が少ないので魔力が必要な魔導具はあまり作られていないんですっ」
「そっか、魔力のコストが高いと結局人力でいいやってことになるのか」
「閣下、サクラ様がおっしゃる、稲刈り機の設計図はいくつか犬人国より頂きましたので、それを基にこちらで研究開発したいと思いますが」
「おお、それは是非頼む。俺の予算を使っていいぞ。アイリーン以外が担当でな」
「私には魔法適性がありませんから、残念ですが適性持ちの文官を担当にして、魔導士協会支部に共同開発依頼をしたいと思います」
「そうか、支部は城からも近いしちょうどいいな。任せる」
「はい。お任せください」
忙しいアイリーンにあまり任せたくないんだよなーと思いながら外を見ていると、馬車が緩やかにスピードを落とし、稲穂が実る水田の横に停車する。
「じゃあ稲を見てみるか」
「はいっ!」
サクラが嬉々として馬車から降り、尻尾をわっさわっさと振りながら、水が抜かれた田んぼへと走っていく。
「ご主人様っ! 見てくださいこんなに立派な稲穂がっ!」
「おお、なんか感動するな! 品種名とかあるのか?」
「『太陽のこまち』ですっ!」
「……大丈夫かな?」
「『あきたこまち』という亜人国家連合に持ち込まれた品種を、土地に合わせて改良した品種になりますねっ!」
「品種名はファルケンブルク向けに変更するかもしれないぞ。危ないからな」
「もっと寒冷地用の品種だと、『太陽のこまちエン……』」
「はいストップ! その品種は持ち込み厳禁だからな」
「わんわんっ! なんでですかっ! すごく美味しいんですよっ!」
「駄目ったら駄目! ちなみにさっき見た多収穫米の品種名は?」
「『イージーコメイージーゴー』ですっ」
命名したのはあのアーティストのファンかよ。
「……今日から『ファルケンブルク多収穫米(仮)』って名前なそれ。領主権限で」
「意味がよくわからなかったのでそれは構いませんっ!」
「わからんでいいぞ。あとの品種は?」
「一番多く植えたのが九月中旬に収穫する『コシヒカリ』ですね」
「そこは普通なんだ。良かったよ」
意外と色々な品種が持ち込まれてるんだな。
種もみを担いだまま事故死した<転移者>がいたんだろうな。
すごく申し訳ないけど、俺にとってはありがたい。持ち込んだ人がこの世界で良い人生を送れていることを願おう。
「多分この土地には『コシヒカリ』が一番合うと思いますっ!」
「楽しみにしておくよ」
「はいっ! それにもっと美味しくなるように品種の開発も続けますからねご主人様っ!」
「頼もしいなサクラ。頼んだぞ」
「わふわふっ! 任せてくださいっ!」
話が一通り終わると、集められた連中が一斉に稲刈りを始める。
鎌を持って人力で稲刈りをする姿を見て、コシヒカリとファルケンブルク多収穫米の収穫時期に、なんとか稲刈り機の開発が間に合うといいなと思うのだった。
その後、サクラは刈り取られた稲の一部を家で食べるためと調査用として受け取り、家に持ち帰ることになった。
一週間ほど乾燥させる必要があるんだよな。
脱穀や精米の機械なんかの設計図もあるんだろうか?
「じゃあ今日は帰るか。今から帰れば昼に間に合うしな」
「「「はい」」」
馬車に揺られながら町へと戻る俺たち。
稲穂がつき始めた水田を眺めつつ、美味い米が楽しみで今から期待に胸を膨らませるのだった。
……昨年収穫した古米なら輸入してるから手に入るんだけどな。やっぱりここまで来たら新米を食べたいじゃないか。
だって日本人だもの。
1
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる