ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第七章 ヘタレ学園都市への道

第十話 開拓事業

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 朝の弁当販売は、サクラが大人気でいつもより盛況だった。
 サクラが調子に乗って「女性の方限定で、お弁当購入したら五秒間もふっていいですよっ!」とか言い出したのでとんでもないことになった。


「ううっ、たくさんの人にもふられてしまいましたっ!」


 サクラは半べそ状態で空容器の片づけなどを手伝っている。


「なにやってんだよまめしば……」

「でもみなさん優しくもふってくれたのでマッサージみたいで気持ちよかったですよっ!」


 半べそ状態からすぐにぱっと笑顔になるサクラ。アホなのかなこいつ。もうアホ属性いらないんだけど、と同じく片づけをしているアホのシルを見るが、普通に作業してるな。もう一人の元祖アホっ子エリナは厨房で洗い物やらをしているころだろう。


「さっさと片付けて南の森に向かうぞ。サクラ、お前馬に乗れるのか?」

「ちょっと自信がないですね。全く乗ったことがないわけではないんですけどっ」

「じゃあクリスかシルに乗せてもらえ」

「わふわふっ! ご主人様に乗せてもらいたいですっ!」

「俺は最近ようやく乗れるようになったばかりだから二人乗りはまだ怪しいんだよ」

「残念ですっ!」


 なんでだよ、と内心ツッコミながら空になった容器などをどんどん厨房へと運ぶ。
 一通り終わったころになると、十騎ほどの騎士が騎乗のままやってくる。三頭の空馬もいるから俺とクリスとシルの分か。
 アイリーンはいなかった。よかった。

 一応胸甲をつけて大小二本差し状態で馬に乗る。
 シルも武装状態だ。クリスは普段着、サクラは朝早くに服屋が持ってきた作業着を着ている。


「じゃあ行くか」

「シルお姉さんよろしくお願いしますねっ!」

「ええ、サクラちゃん。任せてください」


 馬車を使いたかったが、整地が終わってないところが多いとのことで馬で南の開拓地へと向かう。メイドさんが口取りをしてくれているが、門を出たら速度を上げるので南門までの付き合いだ。

 シルが珍しく真面目モードで移動しながら護衛している騎士と打ち合わせをしている。


「では宿営地は完成しているのだな」

「はっ」

「シルお姉さんかっこいいですっ!」

「そうですか⁉ てへへ! あとサクラちゃんの尻尾をもふってもいいですか?」

「いいですよっ!」


 早速駄目な妹になった。
 まあ騎士団の連中も理解してるようでシルのことについては誰も触れていない。
 優秀じゃないか我が領地の騎士団は。

 ぽくぽくと町の中を進んでいき、南門を通過する。
 いつもの門番はいないようだ。


「じゃあ少し速度を上げるぞ。俺の出せる速度が上限だけど」

「かしこまりましたわ旦那様」

「はいお兄様! サクラちゃん、少し揺れますけど、気持ち悪くなったら言ってくださいね」

「わふわふっ! ありがとうございますシルお姉さん! あともう少し強くもふっても大丈夫ですよっ!」


 どうせもふられ過ぎて泣かされるんだろうなと思いながらもスルーして手綱に集中する。


「ありがとう存じますサクラちゃん!走査スキャニング!」


 シルが土魔法で索敵を行う。一応南の森にはホーンラビットが生息してるからな。
 姿を現したら即消滅させられちゃうけど。


「シルお姉さんは土魔法が使えるのですねっ!」

「ええ、サクラちゃんも魔法が使えるのですか?」

「土と水、火に適性がありますっ! すこしだけ中級の魔法が使えるって感じですねっ!」

「お若いのに優秀なんですねサクラちゃんは」


 亜人で魔法が使えるのは少ないって言ってたから、三種類も属性を持ってるのは優秀なんだろうな。王族だし素質が高いのか。


「わふわふっ! ありがとうございますっ!」」


 ファルケンブルクの南に広がる大森林は、南部の諸侯領とつながる街道が貫いている。
 数十キロに及ぶその街道はそのほとんどが未整備で、かろうじて馬車がすれ違える程度の道幅がある程度だ。

 今回の開拓工事は、ファルケンブルクの町から近い大森林を一キロ四方、つまり百ヘクタール分を伐採し、水田に変えるという大工事なのだ。
 来年以降はもっとハイペースで増やす予定だが、まずは近くに水量の豊富な川があり、取水が容易な部分から着工している。

 南門から出て三十分ほどで、先ほどシルが話していた宿営地が見えてくる。
 周囲はすでに伐採されており、川からも近いので拠点化したのだろう。


「閣下、お待ちしておりました」


 宿営地に近づくと、アイリーンが出迎えてきた。
 こいつ、開拓事業まで手を出してきやがった。


「アイリーン、仕事抑えろって言っただろ」

「ここと財務以外はすべて副官に任せましたので問題ありません」

「それでも多いとは思うけど、ちゃんと週休一日は取れているんだろうな?」

「……はい。多分」


 絶対嘘だと思いながらも馬から下馬して、いつの間にか傍にいたメイドさんに馬を任せる。


「ううっ、馬に乗ってる間ずっとシルお姉さんにもふられてしまいましたっ!」

「なにやってんだよまめしばとシル……」

「サクラちゃんの尻尾と耳がとても触り心地がよかったので、ついついもふりまくってしまいました!」

「でも気持ちよかったですよシルお姉さん!」


 にぱっとすぐに笑顔を見せるサクラ。


「またもふってもいいですか⁉」

「はいっ!」


 断れよ……。アホの子過ぎるだろ。


「では閣下、サクラ様、奥様方、こちらへお越しください。開拓工事の担当官を集めております」


 アイリーンはそう言うと、ログハウスのような建物へと誘導する。そういやこの世界の高級木材って生木を魔法で乾燥させてるんだっけ。現地調達でその場で木材を乾燥して建築資材にするってのは便利だよな。と思いながら建物の中へ入る。

 中に入ると、大きな木製の机の周囲に椅子が十脚ほど置かれた二十畳ほどの部屋だった。奥につながる扉もあるので正面から見た以上に内部は広そうだ。

 アイリーンに上座を勧められて座る。すぐ隣にはサクラが自己紹介をしたあとに座った。
 机の上には地図が置かれ、工区や進捗などが記入されている。


「では説明させていただきます」


 アイリーンが開拓工事の説明を始めると、サクラはふんふんと身を乗り出して地図を見ながらアイリーンの話を聞いている。
 一通り説明が終わると、アイリーン、クリス、工部の連中とサクラの意見交換が行われ、特に灌漑については、後々の水田の拡大も考慮したものにするため、かなりの大規模なものとなる。
 サクラの監修のもとに決定した水路に合わせて地割を行い、すぐに開墾する予定なので、結構重要な話し合いなのだ。


「あとは実際に水田を見てみたいですっ」


 というサクラの言葉で、試験栽培をしていた水田へと案内する。
 気象情報などが記された書類を見ながら、ファルケンブルクの気候に合わせて、水稲の種類を選ぶのだそうだ。


「水も抜かれてるからただの土しかないな」


 歩いてすぐにある水田を見ると、すっかり水は抜かれていた。
 だがサクラは躊躇することなく中へ入っていき、土を直接触ったり匂いを嗅いだりして色々調べている。


「わふわふっ。土はとても元気でいいですねっ! 水稲の種類をいくつか試して、肥料や農薬に気を付ければ問題なさそうですっ!」


 おお、サクラの頼もしそうな姿は初めて見るな。
 あとは農業の担当者だろうか、水田を褒められて一安心したように表情を緩めている。むしろ日本人の俺でも食べられるレベルの米を作ってたんだから十分有能なんだけどな。


「じゃあサクラ、灌漑の予定地に行くか」

「はいっ!」


 サクラが水の枯れた水田から出ようとしたところ、上空からギャースカ聞こえる。
 その音の方を見ると、大きな翼をもつ生物が二匹飛んでいた。


「なあクリス、あれって飛竜ワイバーン? 竜種で飛べるやつって天竜だっけ?」

「あれは飛竜の方ですわね。なかなかこの辺りでは見かけないのですが、南部の方に巣があるのかもしれませんよ旦那様」

「飛竜は駆除したほうが良いのかな?」

「ブレスなどはないのですが、急降下して人や家畜を襲いますので害獣ですわね。ファルケンブルクの町へ向かっているので撃ち落としましょう」


 そう言ってクリスは上空にいる飛竜を見る。


「待ってください姉上!」

「どうしたのですシルヴィア」

「わたくしにお任せくださいませ。なにせわたくしは騎士団長で今は責任者なのですから!」

「わかりました。シルヴィアにお任せします」

「ありがとう存じます姉上!」


 キリッっと上空の飛竜を睨みつけるシル。
 すごく嫌な予感がする。駄妹がやる気を出すと碌なことが無いからな。
 それはクリスの方も理解しているようで、駄妹が射ち漏らした場合に、すぐ自分で処理できるように飛竜からは目を離していない。

 シルが手を飛竜に向ける。
 そういやこいつの攻撃魔法って氷の棺や極氷剣くらいしか見たことがないな。
 今日は久々にかっこいいシルをたくさん見られて感動しているが、このあとのことを考えるとちょっと気が重い。
 どうやってなぐさめるかなと思いながら、俺は上空にいる二匹の飛竜を眺めるのだった。
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