ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

文字の大きさ
上 下
95 / 317
第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十九話 二年目のクリスマス

しおりを挟む

「じゃーみんなー! いただきまーす!

「「「いただきまーす!」」」


 俺がこの世界に来て二度目のクリスマスだ。
 託児所メンバーの保護者、家族も呼んだので四十人ほどが集まっている。来年にはもう校舎の講堂とかでやらないと無理な感じになってきたな。
 もちろん野菜売りのおばちゃんの家族も全員参加している。ただしおばちゃんとおっちゃんは明日の朝も仕事があるということで、帰宅組なんだけどな。


「兄ちゃん!」

「なんだよ一号」

「ハンバーグドリアってヤバいのな!」

「うるせー、お前の好きなピザも大量にあるからガンガン食え」

「おう!」

「アレン君、ちゃんと冷まして食べないと駄目ですよ」

「わ、わかったぜクリス姉ちゃん」

「怒られてやんの」

「うるせー兄ちゃん」


 席は一応決めていたのだが、何しろテーブルをいくつも並べて大量の料理を並べているので、各自思い思いに取り皿を持って移動している。
 俺とクリスはクリームシチューのおかわり係なのでこの場からは動けないけどな。


「お兄ちゃん! から揚げとぽてさら取ってきた!」

「お、ありがとなエリナ」

「から揚げにレモンを絞っちゃうね!」

「おい馬鹿やめろ」

「さっぱり食べられて美味しいのに」

「その意見もわかるんだけど、勝手にレモンを絞るのは駄目だぞ。殴り合いの喧嘩に発展してもおかしくない行為だからな」

「ふーん」

「おい聞けよアホ嫁。いいか、なんでわざわざ片栗粉で揚げたと思ってるんだ、衣のサクサク感を重要視したからだぞ。それを勝手にレモンを絞ってしなしなにして台無しにたら、もうそれこそ戦争しかないんだよ」

「お兄ちゃんそんなことよりぽてさら食べてみて!」

「いやいや、お前竜田揚げ風にこだわる俺のから揚げへの想いをだな」

「いいから! はいあーん!」


 エリナがスプーンで掬ったポテサラを俺に差し出してくる。
 仕方ない、レモンに関しては後で言い聞かせておくか、と口を開けてエリナのポテサラを食ってみる。


「お、美味いぞ。ゆで卵を粗く刻んで混ぜてるのか。一気に高級感が出て良いなコレ」

「ほんと! やったー!」

「腕を上げたなエリナ」

「えへへ! クリスお姉ちゃんもどうぞ!」


 エリナはクリス用に盛られた取り皿を渡す。


「エリナちゃん、ありがとう存じます」

「お姉ちゃんはから揚げにレモンを絞る?」

「じゃあちょっとだけ」

「うん!」

「えっ、何。レモン絞っちゃう派ってこんなにいるの?」

「旦那様、最初の何個かはそのまま頂きますよ。でもそのうち段々重くなってしまうので……。レモンを絞るとさっぱりと頂けますから」

「うーん、意外と多いのか。まあ他人のから揚げに勝手にレモンを絞らなければ良いだけだしな」





 戦場のようだった食事も終わり、片付けも終わった。
 誕生日プレゼント用に、食後に服屋がサイズを測りに来たりしたが、今回は特に泣いちゃうような子はいなかった。
 家族で来ているグループと泊まらないで帰宅する組を先に入浴させ、その後は余り物を帰宅組に持たせる為に折り詰めにもして、無駄が出ないようにした。もっと余るかと思って朝食に回すつもりだったんだが、あいつらあるだけ食うから本気で心配になってきた。
 体つきなんかは去年より良くなったんだが、太ってる奴がだれもいない。謎過ぎる。

 帰宅組を帰した後にお泊り組を入浴させたら、もう夜も遅くなってきた。


「いいかお前ら! 今日は良い子にして早く寝ないとサンタさん来ないからな!」

「「「はーい!」」」


 去年プレゼントをもらったガキんちょは目をキラキラさせて返事をしている。「ねえねえさんたさんってなにー?」「おりこうにしてると、よるぷれぜんとをおいてってくれるんだよ!」「えーすごーい、わたしにももらえるかなー」「いいこにしてればもらえるってとーまにいちゃんがいってるからだいじょうぶだよ」と託児所のガキんちょが今年初めてクリスマスを経験する託児所メンバーに説明している。微笑ましいな。


「寝たふりとかしてるとサンタさんは帰っちゃうからな! 気をつけろよ!」

「「「はーい!」」」







 帰宅組には晩飯の残り物の折り詰めと、こっそりガキんちょ用のプレゼントを渡した。
 婆さんとクリスとシルがサンタの説明をして、夜こっそり枕もとにプレゼントを置いてくれるそうだ。
 明日、ちゃんと成功したかを教わるらしい。
 お泊り組と話が合わなくなっちゃうからな。


「見つかってないか?」

「多分大丈夫だったと思うぜ兄ちゃん」

「こっちも大丈夫だよお兄ちゃん!」


 旧託児所のリビングで、嫁たちと一号、婆さんが集まって結果報告だ。
 無事バレずにプレゼントを置けたらしい。


「よし、じゃあ俺からのプレゼントな」


 婆さんには、あの中古本屋特選の赤い色が綺麗な絵本セットを、鍵付きの小さな本棚とセットで。


「トーマさん、ありがとうございます。大事に読みますね」

「いいか、絶対に普段は鍵を掛けた本棚に仕舞えよ。ガキんちょに見せるなよ」

「はい、わかりました。必ず」


 嫁たちにはお揃いのネックレスだ。
 庶民にはちょっと贅沢かなってくらいの物だから、エリナやクレアには特別な日に使えるし、クリスやシルには託児所にいる時などの普段使いに丁度良いだろう。魔法石ではなかったのでそれほど高価では無い。普通の宝石をそれぞれ色違いで買ったのだ。
 嫁たちは俺にお礼を言うと、早速お互いにネックレスを着けあって、可愛いだのに合ってるだのきゃっきゃうふふと盛り上がる。


「で、一号にはこれだ」


 親父の店で買ってきた、玉鋼ではないが、親父が鉄鉱石で打った脇差だ。
 しっかり日本刀と同じ作りで、割と自信作だと言っていた物だ。銘は無いがな。
 一号がクリスマスプレゼントで、刀が欲しいと直訴してきたのだ。
 守り刀を見て気になっていたところに、以前の会話で刀鍛冶という道もあるというのを意識したとのこと。
 この先刀鍛冶の道を選ばなかったとしても、身を守る武器として有用だからと、一号の年齢にしては高価だが購入した。


「兄ちゃん……これ」


 脇差の入った白木の箱をマジックボックスから取り出して渡す。
 マジックボックスのお陰でサプライズがしやすくなって何よりだ。


「親父が打った脇差だ。真剣だから取り扱いには十分注意しろよ。普段は鍵のついた箱に仕舞って婆さんの部屋で管理してもらうから、眺めたければ婆さんの許可を取れ」

「わかった! 兄ちゃんありがとう!」

「ま、開けてみろ」


 一号は箱を開け中から一振りの脇差を取り出す。
 箱を置き、抜刀する。


「すごい……」

「刀身一尺五寸五分。中脇差しと言われるサイズだな。取り扱いは追々教えてやるから」

「ありがとう兄ちゃん!」

「ま、将来刀鍛冶を目指さなくても護身用として使えるからな。鍵付きの箱はもう婆さんに渡してあるから、一通り眺めたら婆さんに渡しておけ」


 一号は大事に納刀して、箱に仕舞うと、婆さんに渡す。


「お兄ちゃんには私たちからこれをプレゼントするね!」


 エリナがマジックボックスから一抱えの袋を取り出して渡してきた。
 中には、セーター、ニット帽、手袋が入っている。


「お、手編みか!」

「私たち全員で作ったんだよ!」

「旦那様、わたくしとシルヴィアはエリナちゃんとクレアちゃん、お義母さまに教わりながらセーターを編みました。木製のボタンはアラン君が作ったのですよ」


 クリスとシルは婆さんを「お義母さま」と呼ぶようになったんだよな。
 実母は幼いころに亡くなったし、実父と実兄は未だ監視塔に幽閉されてるし。
 実は一番家族に飢えてるのはこの姉妹かもしれない。
 結婚の時に恩赦が出たので、もう少しして魔法での思想調査で問題がなければ幽閉から解かれるけど、本人たち次第だから何とも言えん。


「兄さま、院長先生が二ット帽、私と姉さまで手袋を編んだんですよ」

「おお、全員で作った品か! 大事に使わせてもらうよ、ありがとうな!」


 今年の冬は暖かく過ごせそうだ。
 来年は俺も何か手作りして渡すかな。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...