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第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十三話 結婚式と収穫祭

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『では! これより! 第一回ファルケンブルク結婚式兼収穫祭を開催いたします!』

「「「おおおおおおおおおお!!」」」


 会議で何度も見たおっさんが風魔法で声を拡声して高らかに開催宣言をすると、集まった民衆が大歓声をあげた。おっさんの名前は知らん。

 あと第二回以降があるような言い方はやめろ。
 結婚式の荘厳なイメージが皆無なのが凄いな。


「なんなのこのノリ」

「お兄ちゃんすごいね!」

「兄さま、人がいっぱいです……」


 結婚式当日、俺とエリナ、クレア、クリス、シルの五人は、ファルケンブルク城のバルコニーに立っていた。
 城の前にある広場に集まった民衆へのお披露目の為だ。
 本来は貴族ですら許可を得ないと入れない場所なのだが、今日だけ特別に一般市民にも開放している。
 ついでに露店もたくさん出ていて串焼きやら焼き物屋やらの良い匂いが漂ってる。誰だよ出店の許可出したの……。
 完全にお祭りじゃん。
 
 エリナは第一婦人として、クレア、クリス、シルがそれぞれ第二、第三、第四婦人として初めての公式行事となった。
 シャルも来ると言っていたのだが、今日は王都でも収穫祭を開催している。いろいろ手を回したが無理だったらしい。
 最終的にはちゃんと仕事を優先するシャルはやっぱ為政者としての自覚があるんだよな。

 しばらく手を振って歓声に応えていると「旦那様、院長先生の準備が整ったそうです」とクリスが言うので、手を振るのをやめてあらかじめ決められていた配置につく。
 広いバルコニーでそのまま結婚式を行うのだ。
 更に今回は魔導士協会全面協力の下、映像魔法で上空に結婚式の模様を映し出し、同時中継するらしい。ついでに録画も。
 企画考えた奴をあとで呼び出そう。企画書には<結婚式三十分>しか書いてなかったし、完全にはめられたわ。晒し者だろもはや。


「では、これより結婚式を執り行います」


 神官服のような意匠の服を着た婆さんが結婚式の開始を告げる。
 エリナは婆さんの横に立つ。花嫁衣裳では無いが、領主の第一夫人にふさわしい豪奢なドレス姿で微笑んでいる。

 俺は既婚者なので指輪の交換ではなく、嫁それぞれに指輪をはめていく。
 第一夫人であるエリナと、聖職者役の婆さん、列席した顔も知らない貴族の連中へと誓いの言葉を述べたら結婚成立だ。


「「「キーッス! キーッス!」」


 映像を見ている民衆だろうか? やたらと騒いでいる。うるさいなこいつら……。というかアルコールの露店まで出てるじゃないか……。

 クレアにはおでこへのキスを。「ぶー」と不満顔だが、「もう少ししたらな」、と頭をひとなですると、にへらと笑う。
 クリス、シルにキスをしたところで、民衆は大興奮だ。


「「「うおおおおおおおお!」」」

『ペッ』


 あ、ブサイクおっさん祝いに来てくれたのか。ありがとな。
 でも普段ここでツバを吐いたらしょっ引かれるから注意してくれよ。
 その前に許可が出ないか。

 最後にエリナ含む全員でバルコニーから外に向かって手を振る。
 だがもう民衆は飽きたのか、すでに筵などを地面に敷いて宴会が始まっていた。


「列席してくれた諸卿らはご苦労だった。今後ともよろしく頼む」

「「「はっ」」」

「祭りを楽しんで行ってくれ。あとこちらの担当者から各領地への援助、支援などを纏めた資料を渡すから目を通しておくように。特に貧困層と孤児に関する項目は細かいんでな」

「「「はっ」」」


 ファルケンブルク領周辺の村落を領地として持つ旧領主のグライスナー家ゆかりの連中だが、クリスの根回しのお陰で旧領主派から離反している。
 元々旧領主家から搾り取られていたので、貴族の義務である納税、賦役の負担を、王国平均レベルまで下げただけであっさりとこちらへ転がったのだ。
 そして今回は更なる援助と支援を行う代わりに、各地の孤児の取り扱いを徹底させることを約束させるつもりだ。
 孤児をこちらへ寄越してもいいのだが、まだ建物が出来ていないのでその間の扱いに注意せよという内容だ。


「では解散」


 締めの言葉を発して、俺たちは孤児院へ戻る。
 婆さんなんかクレアとクリスとシルにまたお母さんと呼ばれてずっと涙目のままだ。
 そういや三人とも母親がいないんだよな。
 婆さんはグロ趣味さえなければ完璧な人格者だし、優しくて有能なのだ。
 俺をあっさりと受け入れてくれた恩人だしな。





「疲れたー」

「「「おかえりー」」」


 ドレスから登城用の服に着替えて孤児院に戻った俺たちは、孤児院に着くと、再度普段着へと着替える。
 めんどくさい。


「よしお前ら! 祭りだぞ!」

「「「おー!」」」

「残念ながら今年の小遣いはありません!」

「「「えー!」」」

「それぞれ保護者をつけたチームを編成して行動するから、欲しいものが合ったらその都度保護者にタカるように!」

「「「わーい!」」」


 エリナもわーい! とか言ってたけど、お前は保護者側だぞ……。わかってんのか。


「じゃあクリス、チーム編成は任せたぞ」

「かしこまりましたわ旦那様」





「お兄ーちゃんと一緒ー!」


 クリスが気を利かせてくれて、エリナと二人きりで祭りを楽しむ。
 二日目の明日は午前午後でクリスとクレア、最終日の午前はシル、午後は五人で回るらしい。
 まだ昼には早い時間なので、エリナが一番優遇されている。午後の方が長いので次に優遇されたのはクレアだ。
 気を使いすぎだとは思ったが、エリナ時間の説明も含めて追々やっていこう。
 エリナもクリスの好意を素直に受け取ったようだしな。
 
 それにハードすぎだ、ある程度俺一人の時間も考慮してもらわんと今後大変なことになりそうだ。


「エリナ、飯食うぞ飯」

「お城で朝少し食べただけだからね!」

「肉屋の親父の店ならハズレ無しなんだが、今日はせっかくだし色々探してみるか。良い店見つかるかもしれないし」

「うん! お兄ちゃんに任せる!」

「良いぞアホ嫁、思考放棄はお前の美点の一つだ」

「えへへ!」

「褒めてないんだけどな。まあ適当にぶらつこう」

「うん!」


 いつも通りに「えへへ!」と腕にしがみついてくる嫁に、マフラーを巻き付ける。


「寒いからな」

「そうだね!」


 てくてくとごった返す町中を歩く。周辺の領地からも年に一度の祭りということで人が集まってくる。
 歳末の買い出しという側面もあるが、わざわざ出張ってくる価値がある程、商品が溢れ、安く買えるのだ。
 春に植えた小麦が収穫されたばかりなので、安価に出回っているしな。


「よっ! 別嬪さん連れてるそこの兄さん、どうだい? 串焼き買ってってよ!」

「お兄ちゃん! 私別嬪?」

「ああ、世界一別嬪だぞ」

「わーい!」

「あの、兄さん?」

「ああ、すまん。二本くれ」

「おっ、ありがとうな! 銅貨六十枚ね」


 六十枚の銅貨を渡して串焼き二本を受け取り、エリナに渡す。
 渡した途端、可愛くかじりつきながら「おふぃーひゃんおいふぃーね!」といつも通りの反応だ。

「落ち着いて食えよ……」


 串焼きにかじりついてみると、たしかに美味い。
 豚だけど臭みが全くないし、香辛料もこの値段では頑張ってる方だ。
 はむはむと一気に食い終わると、「あっ、お兄ちゃん口元にタレがついてるよ」とエリナが俺の首に手を回して背伸びをし、顔を近づけてくる。


「んふふー」と言いながら、俺の口元をペロッと舐めるエリナ。

「こらこら。ってエリナも口元についてるぞ」

「んっ」


 俺の意図を察したエリナは、目を閉じて俺のキスを待つ。


『ペッ!』


「あ、しまった。独身のブサイクなおっさんが俺達に嫉妬して、道端にツバ吐いてるから自重しよう。ここ人ごみの中だったわ」

「はーい! じゃあ人のいない所でね!」

「ああ、そうだな」


 ありがとう独身のブサイクなおっさん。危うく暴走してキスしまくるところだった。


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