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第六章 ヘタレ領主の領地改革
第九話 エリナへの想い
しおりを挟む城を出て騎馬で帰宅する。
爵位持ちは領内での騎乗が認められてるし、男爵以上の世襲貴族なら馬車も使える。
というか俺は領主だから馬車が使えるんだけど仰々しいので使ってない。近いし。
ただ騎乗訓練も兼ねて、慣れるまでは登城するときくらいは馬に乗っていくかと、クリスとシル合計三騎で移動しているのだ。
口取りしてくれるメイドさんも、馬糞を処理してくれるメイドさんもいるから結局仰々しくなるんだけど仕方がない。
メイドさんがいっぱいいるな……。ここは天国か。
帰宅すると、馬をそのまま回収してくれる。もちろんメイドさんが。
馬小屋とか作った方が良いのかね。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんたちお帰り!」
「兄さま、姉さま方おかえりなさい!」
「「「おかえりー!」」」
エリナとクレア、婆さんとガキんちょどもが出迎えに来る。昼を少し過ぎたけど待っててくれたんだな。
ちなみに婆さんは揚げ物が続いても美味そうに食ってた。元気だな。
「待たせたなガキんちょども。さあさっさと飯にしよう」
「「「はーい!」」」
◇
エリナとクレアの作ってくれた食事を摂って少し休んだら、エリナと買い物だ。
「えへへ!」
孤児院の扉を出るとエリナが腕にしがみついてくる。いつものことだ。
「今日ちょっと寒くないか?」
「そうかな? 言われてみればちょっと風が強いかな」
肯定と無理やり受け取った俺は、マジックボックスからマフラーを取り出して、有無を言わさずエリナと俺に巻き付ける。
エリナから貰ったクリスマスプレゼントだ。
「あっ、お兄ちゃんこれ……」
「あったかいよな、エリナが編んでくれたマフラー。今年もこれにお世話になる季節になったなー」
「うん!」
ぎゅっと強く抱きしめられた腕を心地よく思いながら晩飯の買い物に向かう。
「今日は俺の料理当番なんだよな。なににするかなー揚げ物以外で」
「明日がハンバーグの日だから軽めでもいいんじゃない?」
いつも以上にご機嫌なエリナが珍しい事を言う。
軽い飯なんて出したらガキんちょどもがうるさそうだ……。
「怖いから肉は出すぞ」
「だね!」
えへへー! と密着してくるエリナの頭を撫でながらまずは肉屋に向かう。
ノープランだからな、お勧めを聞いて考えよう。ついでに明日のハンバーグも予約しておくか。
「お、兄さん、嬢ちゃん、今日も仲が良いねぇ」
「おじさんこんにちわー! えへへ!」
「仲良し夫婦だしな。今日はノープランで来たからお勧めを教えてくれ。あと明日はハンバーグだから予約したい」
「今日は鶏もも肉の良いのが入ってるよ、チキンステーキとかどうだ?」
「お、いいな。テリヤキソースはまだあったっけ?」
「まだ大丈夫!」
「醤油やタルタルはあったしソース類は大丈夫か。じゃあそれを人数分と、弁当と現場用の食材を引き取っていくわ。あ、今日からマジックボックスで運ぶから、簡易包装で良いぞ。木箱とかコストが掛かるだろ」
「お、マジックボックスか。助かるよ。と言っても既に梱包してるから明日の分からだな」
「わかった、じゃあ食材のある場所に案内してくれ」
親父から食材を受け取り、店を出る。
だいぶ余っているマフラーの端をたなびかせながら、野菜売りのおばちゃんの店に向かう。
「いやーマジックボックスは便利だな。両手が空くからエリナの髪を弄りながら歩けるし」
「今日のお兄ちゃんはなんだかすごく優しいね」
「……俺ってずっとエリナに甘えてたから、せめて二人の時はめいっぱい嫁さん孝行をしないとって思ってな」
「甘えてるのは私の方だと思うけど?」
「そんな事無いんだが、そうだな……、今日寝る前に少し俺の話を聞いてくれるか?」
「わかった!」
◇
「エリナの髪はいつも綺麗だよな。シャンプーを使ってるだけなのに」
「お兄ちゃんがいつも乾かしてくれるからだよ」
「じゃあ愛情がこもってるからかな」
「うん! えへへ!」
晩飯も風呂も送迎も終わり、すでに誰もいないリビングで、俺はエリナの髪を乾かす。
いつもの光景だ。
預かってるガキんちょを送り届けている間に、エリナは孤児院メンバーの髪を乾かしているが、頑なに自分の髪を乾かさず、俺の帰宅を待っているのだ。
「でもこれから寒くなるんだから湯冷めして風邪をひかないように気をつけろよ、あれは治癒魔法も効きにくい場合もあるんだからな」
「うん! 気を付けてお兄ちゃんを待つね」
「さっさと自分で乾かせって言ってるんだぞ」
「えへへ」
こいつ絶対自分で乾かさないな……と思いつつ、それも少し嬉しく思いながらエリナの艶やかな髪を乾かしていく。
ボーとドライヤー魔法の音が静かなリビングに響くが、この沈黙の時間も、俺たち夫婦の大事な時間だ。
ブラシも俺があげた奴をずっと使ってるんだよな。もっといいのがいくらでもあるのに。
「よし、乾いたぞエリナ」
「ありがとうお兄ちゃん! じゃあお部屋に行こう」
暖炉の火を消して、二人で部屋に向かう。
「<防音>」
部屋に入ると、すぐに防音魔法を行使する。
「あれ? お兄ちゃん今日はすぐ?」
「いや、そっちじゃなくて話の方」
「あっお買い物の時に言ってたね」
「こっちにおいでエリナ」
ベッドに腰かけて、ベッドではなく、膝をぽんぽんと叩く。
「うん!」
エリナは俺と向かい合うように膝の上に跨って座り、俺の背中に軽く腕を回す。
座高の差が埋まって俺とエリナの顔が至近距離だ。「ちょっと照れるね」というエリナの頭を軽く抱き寄せて話をする。
「エリナ、ごめんな」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「俺はなエリナ。嫁さんはお前だけで十分だったんだよ」
「お兄ちゃん……」
「どうしても前に住んでた日本の習慣もあるんだけど、エリナの他に、クレアやクリス、シルに加えてちわっこだろ? それに今日な、アイリーンってこの前ここに来た文官にも結婚したいって言われたんだ。俺にはたくさんの嫁を抱えるような甲斐性なんて無いのにな」
エリナが俺にを強く抱きしめてくる。
「お嫁さんをいっぱい貰うことはこっちじゃ普通だから気にしないで。でも、お兄ちゃんごめんね。私ね、ちょっと嫌な子だったんだよ」
「エリナはそんな子じゃない」
「ううん、違うの。私ね、お兄ちゃんの事が大好き。でもね、クレアもミリィもみんなお兄ちゃんの事が大好きなの」
「……」
「でも私ね、それを知ってて先にお兄ちゃんをみんなから取っちゃたんだよ」
「そんなこと無いぞエリナ。俺はエリナしか見てなかった」
「ううん。みんないい子だから、きっとお兄ちゃんも好きになってたよ。クレアだって好きだから結婚するんでしょ?」
「ああ」
「私お兄ちゃんを一年以上も独り占めしちゃった。そしてお兄ちゃんもクレアもお姉ちゃんたちもシャルちゃんも、みんな私のことを一番に気にしてくれるの。私ね、それが嬉しくて、そしてそれを喜んでる自分って嫌な子なんだなって」
「エリナ、頼むから自分を嫌な子なんて言わないでくれ。俺はこの世界に来た日以来、エリナにずっと支えられて生きてきたんだぞ。子供たちを助けたいっていう俺の気持ちも一番に理解してくれて、一緒に頑張ってくれたじゃないか。俺一人じゃ狩りすらできなかったしな」
「お兄ちゃん……うん」
「それにな、みんながエリナを尊重するのは当たり前なんだよ」
「どうして?」
「俺がエリナを一番大事に想ってることをみんな知ってるからだ。だから自分を嫌な子だなんて言わないでくれ」
「……ありがとうお兄ちゃん」
「そしてごめんなエリナ。俺はアイリーンとも結婚する」
「アイリーンさんなら大歓迎だよお兄ちゃん!」
「ありがとうエリナ」
「アイリーンさんもお兄ちゃんのこと好きなんだろうなって思ってたし、あの子たちのために一生懸命だったしね」
「エリナ」
抱きついていたエリナを剥がして、エリナと向き合う。
「なあにお兄ちゃん」
エメラルドのような潤んだ瞳を見つめると、にこっと微笑んでくれるエリナ。
ああ、俺はやっぱりエリナに心底惚れてるんだな。
「エリナとの子供が欲しい」
「っ!」
「俺の最初の子どもは、エリナに産んで欲しい。俺たちの新しい家族を産んでくれないか?」
「うん! うん!」
「ありがとうエリナ」
感謝の言葉を言い終わると同時に、俺の口はエリナの唇で塞がれる。
「お兄ちゃん好き……大好き……」
「俺だって大好きだ」
エリナが唇を離した瞬間、そのままベッドへ押し倒す。
「あ、待ってお兄ちゃん」
「明かりを消すか?」
「ううん。メイド服、着た方が良いよね?」
「……お願いします」
――このあと滅茶苦茶メイドさんでした。
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