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第五章 ヘタレ王国宰相
第三話 救出
しおりを挟むだんだん親衛騎士団の騎士が見えてくる。
土の槍らしき魔法を後方に放っているが、全く当たっていない。
魔法を誘導して当てる暇すらないんだろう、矢を射かけられたり、炎の矢なども時折野盗側から撃たれている。
防御魔法を展開して防いでるようだが、防御魔法を行使しながら攻撃魔法か、それなりの腕はあるようだ。
「クリス、そろそろ届くか?」
「このペースだとあと一分、いえ、三十秒で射程に入れてみせます」
「わかった、なら俺は行く。援護を頼むぞクリス」
「はい、愛しの旦那様。ご武運を」
「<極光の雷剣>! <疾風>!」
抜刀して刀身を延伸させた後に、疾風魔法を行使する。
馬から飛び降りると、全力疾走で親衛騎士団の馬と野盗の間を目指して駆けていく。
疾風を使って全力疾走をすれば馬よりも速く走れるが、体力次第なのでとにかく速戦で決着をつけないと。
並行魔法が得意と言えども、ライトニングソードと疾風を維持したままで攻撃魔法の威力はあまり期待できない。
それでも牽制にはなるから無駄ではないがな。
「<電撃の槍>!」
まさに騎士に追いつき、ロングソードを振りかぶっている野盗に電撃の槍を叩きこむ。
馬から転げ落ちるが、殺したかどうかはわからん。
何人かは俺に気づくが、馬の進行方向は変えない。
目の前の王女というお宝に必死なんだろうか。
「<極寒の氷原>!」
クリスが放った魔法が野盗の半数を凍り付かせて地面に縫い付ける。
氷の棺の範囲魔法か、流石だなクリス。
だが俺を乗せていた上に全力疾走をさせたせいかクリスの乗る馬の速度が落ちる。
このあとのクリスの援護は期待できないか、いや、あの騎兵と合流して上手く方向転換してクリスの方に誘導すればいいのか。
「<電撃の槍>!」
俺は敵騎を一騎ずつ仕留めていく。
声の届く距離に近づいたので、騎士に声を掛ける。
「そこの親衛騎士団員! 俺は味方だ! ベルナールの要請で助太刀する!」
「おお! ベルナールの! 助かった! 王女殿下、救援が来ました!」
「まったく、おまえたちのせいで酷い目にあったぞ!」
「申し訳ありません王女殿下」
「まだ終わってねーぞ! 油断するな! <電撃の槍>!」
態度のでかいこのクソガキが王女かよ、黒髪で顔立ちが良いのはミコトと同じだが、可愛げが全く無いのが腹立つな。
髪色以外は似ても無いしな。
それに野盗はまだ二十騎ほど残ってるじゃねーか、どこが二十人だ、騎兵だけでも五十近くいるぞ。
『<炎の矢>!』
敵が炎の矢を放ってくるが、ライトニングソードで斬り払う。
「そこの騎士は防御魔法の展開にだけ魔力を使え! 魔力はまだ持つか?」
「ああ、大丈夫だ!」
「大きく弧を描いてあの馬に乗った白い服の女の前にこいつらを引き付けるぞ!」
俺はクリスを指差しながら騎士に指示をする。
「わかった!」
「そこの男、さっさとその長い魔法剣で野盗を切り伏せろ!」
「うるせー! 命が惜しけりゃ黙ってろガキ! 舌を噛むぞ! <電撃の槍>!」
「なっ!」
「お前! ラインブルク王女であるわたしに向かってなんという口を!」
「黙ってろと言ったぞ!」
怒鳴りつけながら睨むと、涙目になりながらも黙り込むガキ。
「貴様、王女殿下に対して……」
「お前も手綱と防御魔法に集中しろ! あとそのガキ落とすんじゃねーぞ! <電撃の槍>!」
近づく敵を電撃の槍で落馬させていく。
こちらは高速移動の魔法を使っていて、馬よりは小回りが効くが、とにかく体力を消耗する。
呪文詠唱中呼吸が出来ないだけでいっぱいいっぱいだ。
正直こいつらに声を掛けるだけでもしんどいのだ。
黙ってろっての。
大きく弧を描きながら、クリスの前面に野盗の連中を誘導していく。
クリスは俺の考えを理解したのか、馬を止めてこちらの動向を伺っている。
ならあとはクリスの合図を待つだけだ。
俺は疾風で騎士と同じ速度をなんとか維持している。魔力はまだ問題無いが、そろそろ体力の限界が近い。
「いいか! このまま進むぞ! 合図をしたら一気にあちらの方向へ進路を変えろ、俺の女が範囲魔法で一掃するから!」
「わ、わかった!」
クリスを見ると、何故か顔が真っ赤だ。
そのままクリスの様子を伺っていると、クリスの右腕が上がる。
「今だ!」
「くっ!」
「<極寒の氷原>!」
クリスから放たれた極寒の魔法が、俺たちを追ってきた野盗を全て凍結させ地面に縫い付ける。
それを確認した俺は、ライトニングソードと疾風を解除し、その場で膝をつく。
「ぜーはー……、ぜーはー……、なんとか、なったな……」
「流石旦那様ですわ!」
馬から飛び降りたクリスが俺に抱きついてくる。
「ちょっと、まって、暑いから、良い匂いだし、柔らかいけど、ちょっと、息整えさせて」
「まあ旦那様、でしたら膝枕をさせてくださいませ」
服が汚れるのもいとわず地面に直接正座をして、しゃがみ込んでる俺を無理やり横にして俺の頭を膝に乗せる。
「いやまあ凄い役得だけど、そろそろ息も整ってきたからここまでやらないで良いぞ。クリスの服も汚れちゃうだろ」
「汚れてもは魔法ですぐ綺麗になりますし、今は少し休憩なさってくださいませ。ふふふっ、だってわたくしは旦那様の女ですしね」
なんだ聞こえてたのかと少し気恥ずかしくなったので、大人しくクリスの膝に頭を乗せ大人しくする。
下から見上げるクリスの胸部装甲で日差しが完全にさえぎられていて、とても快適だけどすごく恥ずかしい。
さっき助けた騎士とガキとかベルナール達とか駄妹とかがこちらにやってくる。
「お兄ちゃん!」
「兄さま!」
「お兄様!」
あー、めんどいのが一斉に馬から降りて駆け寄ってくる。
「旦那様は大丈夫ですわ。走り過ぎて少々お疲れになっただけですし、怪我一つありません。ご安心くださいませ」
「よかったー!」
「兄さまびっくりしましたよ」
「急に倒れ込みましたからね」
「心配かけてすまん、ずっと走ってて体力の限界だった。シル、俺に電撃の槍を当てられた奴らはどうだ? 死んでるか? 仮死状態かもしれんからちょっと気を付けて様子を見に行ってくれないか?」
「わかりましたお兄様」
「いえ、その役目は我らにお任せください」
「ベルナールか、すまん頼んだ」
「はっ! 行くぞ!」
ベルナールたち三騎が俺が落馬させた野盗の生死を確認しに行く。
「クリス、あの魔法は維持できるか?」
「維持するのに魔力は必要ありませんし、今日一日持ちますわ」
「じゃあそのまま引き渡しするか」
「おい貴様!」
「……」
助けた騎兵が、ガキんちょの背を軽く俺の方へ押しながら声を掛けてくる。
ガキんちょは涙目のまま俯き加減でこちらに向かってくる。
「助けてもらった事には感謝するが、王女殿下へのあの言い方は不敬罪に当たるぞ! 早く王女殿下へ謝罪しろ!」
あーめんどくさい。
あんな緊急のタイミングでいちいち敬語なんか使ってられないだろ……。
ただ生意気だったとはいえガキんちょだ。親の教育が悪いだけで本人にはまだそういう事が良くわかってないだけだろうしな。
ぽてぽてとガキんちょが涙目のまま俺の顔を覗き込んで来くる。
半分クリスの胸部装甲で見えないが。
黒髪のストレートで細身だけど 背丈はクレアと同じくらいだし年齢も同じくらいか?
いや、クレアは十歳だけどエリナとそう変わらんくらい育ってるし、精神年齢はエリナより上かもしれないくらいだからな。
簡単に比較はできんか。
胸部装甲的にはエリナのグループ入りだろうけどな。
「貴様、王女殿下の御前だぞ、跪かぬか!」
「卿にはわからないのですか? 旦那様は先程の戦闘で疲労の極限に達しています」
ピシャッと言い放つ駄姉。
仮にも伯爵位を持つ貴族だと言わないところが底意地が悪い。
別に息が切れてただけだし、もう平気なんだが、めんどくさいから極度の疲労って事にしておくか。
エリナたちも黙って駄姉の対応を見ている。
少なからずあの騎士の言い方に嫌悪感を抱いたんだろう。
ガキんちょも涙目のままだし謝っておくか。
「さっきは怒鳴って悪かったな、ケガは無いか?」
「……助けてくれてありがとう。ケガは大丈夫。それよりもう怒ってない?」
「怒ってないよ。ただ大人に対してああいう口の利き方は駄目だ。俺が言えたことじゃないけどな」
「わかった」
「なんだ素直な良い子じゃないか」
「えへへ」
さっきまで泣きそうな顔をしてたのに、にぱっと笑うガキんちょ。
ちゃんと素直に人のいう事聞けるんじゃん。
「貴様! 先程から王女殿下に対してなんという口の利き方だ! どこの木っ端貴族か知らんがいい加減にしないと不敬罪でしょっ引くぞ!」
「さっきからうるさいぞお前! お兄さんに怒鳴るな!」
俺に怒鳴りつけてくる騎士にたいしてガキんちょが怒鳴り返す。
なにこいつ、二重人格?
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