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第三章 ヘタレ勇者

第八話 女騎士

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「おねーさんおっぱいおおきいねー、わたしもおおきくなるかなー」

「えっ、いやどうでしょうか? 特に意識したことは無いので良くわからないのですが」

「さわってみてもいーい?」

「あ、どうぞ」


 ミリィが女騎士の胸を触ってる。
 あいつ食い物以外にも食いつくのか。
 いや食い物だと思ってるのかもしれん。

 ガキんちょ共や婆さんに紹介したが、割とすぐに受け入れられたようだ。
 もちろん積極的に絡んでこないガキんちょもいるが、その辺はこっそり注意しておいたので大丈夫だろう。
 ガキんちょにも丁寧語で接しているから慣れていないのかも知れないが、悪い奴ではなさそうだ。


「お兄ちゃん、シルヴィアさん良い人っぽいね!」

「まあ悪い奴では無いと思うけどな」

「兄さま、駄目ですよ!」

「何が?」

「シルヴィアさんは良い人だと思いますけど、兄さまのお嫁さんとしては認めませんからね!」

「いきなり何言ってんのお前。数日前にお前らは人殺しだーとか嫌がらせしてきたら殺すぞーとか言ってたんだぞ俺」

「そうですけど! 嫌な予感がします!」

「お兄ちゃん! 私も認めないからね!」

「あーうっさいうっさい。心配するな、貴族なんかが平民と結婚するわけ無いだろ。恋物語とかに影響され過ぎだぞお前ら」

「「むー!」」

「お前らみたいな可愛い嫁と婚約者がいるのに、わざわざ他に嫁を探す必要なんか無いだろ」

「お兄ちゃん大好き!」

「兄さま......大好き......」


 チョロい。大丈夫かこいつら。


「で、クレア、売り上げはどうだった?」

「ほぼ売り切れましたね、初日でこれなら明日はもっと増やしても良いかもしれません」

「お兄ちゃん、お弁当箱も結構売れたよ。アラン達が今お弁当箱を一生懸命作ってる。なんかすごく喜んでた!」


 そういや女騎士をガキんちょ共に紹介した後はいつの間にか男子チームがいなくなってたな。
 預かってる男の子ともすっかり意気投合して一緒に行動してるようだし。

 今現在女騎士に絡んでるのが女子チームだけなんだな。
 普段はあまり他人に絡まないハンナやニコラも女騎士にはすぐ懐いたようだ。
 服屋にはビビって泣き出してたのに。
 預かってる子らもすぐ懐いたし子供受けするんかな女騎士は。
 というかあいつらみんなで女騎士の胸を触ってるのはエリナのじゃ物足りないからなんだろうか。
 いや単純にあそこまででかいのを見たことが無いから不思議がってるのか。


「塗りが必要だからすぐには売れないんだよな、弁当箱の在庫は十分なのか?」

「今日だけで二十個売れましたからね、まだ在庫は百個近くありますが、二、三日で無くなるかもしれません」

「プロに作って貰ったり既製品を買うのも手だけど、やはり男子チームの作ったものを売ってやりたいからな。弁当箱が無くなったら謝っておくか」

「お兄ちゃん、お弁当箱だけ追加で欲しいって言う人もいたよ」

「あーそうか、そういう要望もあるな。その時の弁当箱の在庫次第でそれは断っても仕方がないか。その辺は現場の判断に任せる。ある程度行き渡ったら新たに売れなくなるだろうしな」

「はい兄さま」

「ぱぱ! まま! えりなまま!」

「おーミコトーどうしたー」

「ミコトちゃーん、どうしたんですかー」

「ミコトちゃんは可愛いねー」


 ずっと女騎士の足にしがみついていたミコトが戻って来てクレアの足にしがみつく。
 俺はしゃがんでミコトを抱きしめようと両手を広げてただけに、スルーされてちょっとだけ寂しい。


「おねーちゃ! おねーちゃ!」

「女騎士の方に来いって事かなこれ」

「そうかもしれませんね」

「ぱぱ! だっこ!」

「よしよしおいでーミコトー」

「あい!」


 ミコトを抱っこして女騎士の方に行く。
 女騎士は一切抵抗しないから先程からミリィ筆頭に揉まれ放題だ。


「お兄ちゃん! 私すぐにばいんばいんになるからね!」

「諦めろ、無理だ」

「ぶー!」

「俺はそのままのエリナが一番可愛いと思うぞ」

「えへへ!」

「俺はチョロいエリナが大好きだぞ」

「私もお兄ちゃん大好き!」

「あ、トーマ様! すみません、お話を伺うと言っておきながら」

「いや、ガキんちょ共に懐かれてたんなら仕方がないし、こっちとしてもありがたいから」

「そう言って頂けるとありがたいです。それにしてもミコトちゃん凄く可愛いですね。こんな子が......」

「こういう子が出ないようなシステムを国や領主に作って欲しいんだよ。ミコトの場合は特殊だが、貧困で子供が育てられないとか、子供の世話で働きに出られなくなって生活に窮している家庭とかを救済するようなものをな」

「はい。あの時のトーマ様のお怒りの理由が少しだけわかった気がします」

「もっと大々的に、育てられないなら孤児院で受け入れますと周知しても良いんだが、それも今まではできなかった。今いるガキんちょでいっぱいいっぱいだったしな。ま、色々見ていってくれ、俺とエリナの稼ぎで大分マシになったが、預かっている子供たちの家は結構大変な状況だしな」

「これから勉強させて頂きます。よろしくお願い致しますトーマ様」

「ああ、俺に何が出来るのかはわからんが、子供達を見て、話を聞いてやってくれ。こいつらの声は、今まで全く上に届かなかったんだからな」

「はい」

「では兄さま、そろそろお昼にしましょうか。アラン達を呼んできて貰っていいですか?」

「わかった。じゃーミコトー、パパと一緒に裏庭に行くぞー」

「あい!」

「姉さま、温めるのと配膳のお手伝いをお願いしますね」

「任せてクレア!」

「クレア様、わたくしもお手伝い致します」

「あ、はいシルヴィアさんもよろしくお願いしますね」

「お任せください」


 昼飯はビュッフェスタイルだった。
 露店で使ってるでかい器に、朝売ってたパスタやサンドイッチに、いくつか種類を追加して並べた。
 簡単だけど野菜たっぷりスープもある。ブイヨン様々だな。
 確かにこの方が売れ残りが出た場合でも対応できるし、売り切れそうになった場合は、昼用に用意しておいた分をすぐに追加出来て効率が良い。
 和気あいあいと皆で食べられるから、預かってる子らが遠慮しないようにさえ気を付ければ馴染むのも早いだろう。

 女騎士も味に驚いていたようだ。
 美味しいです! とやたらとクレアを誉めていたし。
 まあ貴族が食べるような高級料理じゃないし初めての味かもな。
 原価とか安いし。





「ではまずは武器屋ですか?」

「ああ、刀身を見せなきゃいけないしな」


 昼食後はエリナと女騎士を連れてあちこち回ることになった。
 装備の買い替えもあるので、ついでにエリナの装備のメンテナンスもやるかという事で、籠にエリナの装備も入れてあるし、胸甲の試着もするだろうと、俺とエリナは鎧下を着てきた。
 ただしエリナの胸甲の内側の緩衝材を減らす必要は無い。残念だな嫁よ。

 あと女騎士が俺の代わりに籠を背負うとか言い出してきた。
 女性に籠を背負わせて俺が手ぶらとか絵面的に外道過ぎるだろ。
 と断ったら、マジックボックスがありますのでと、右手の薬指の指輪に収納されてしまった。
 そうか、そういやこんな魔道具があるって聞いてたな。


「お兄ちゃん、冒険者ギルドに寄った後は魔法石の指輪を買うからね!」

「ありがとうなエリナ」

「うん!」


 腕にずっとくっついてるエリナがご機嫌だ。
 二人の稼ぎは一緒にしちゃってるから、どっちの金とかそういうのは無いんだが、どうしてもエリナから俺にプレゼントしたいらしい。
 魔法石にひびが入ったから丁度いいタイミングだしな。

 てくてくと三人で歩いていくと、武器屋が見えて来る。


「この店だ。親父が刀剣鍛冶師でな、俺の日本刀もここの親父が打った物だ」

「こんな所にあの竜の鱗すら切り裂く業物を打った鍛冶師がいるなんて」

「騎士団でも把握してなかったのか?」

「ええ、装備などは豪商や大店で規格を統一した上で一括注文するので、どうしても職人単位では把握できていません」

「まあそうだよな、あの親父も数打ちの武器とかあまり好んで打たなさそうだし」

「わたくしの武器も発注しようかしら」

「お前はどれくらい使えるんだ? 貴族だし魔法も使えるんだろ?」

「騎士団の中では平均レベルという所でしょうか。魔法は風と雷以外は使えます」

「風属性が無いからあの時歩いてたのか」

「土魔法でも移動するだけなら高速移動する魔法はあるのですが、あの時は猟師などを避難させつつ、地竜に魔法攻撃をして引きつけながら移動していたので、魔力切れを起こしてしまいました」

「ブラックバッファロー狩りで人がそこそこ出てたしな」

「はい。地竜の生息が確認できたので、偵騎を放ちつつ警戒を呼び掛けていた矢先でした」

「不運だったな」

「不謹慎かもしれませんし、お怪我をされたトーマ様には申し訳ありませんが、わたくしにとっては幸運でもありました」

「あっそ。まあ怪我したり苦労はしたが、その分お前が俺達から何かを得てくれればいいよ」

「はい」


 武器屋の扉を開けて中に入る。
 相変わらずこちらをジロリと見てくるだけの塩対応だったが、明らかに俺の姿を見て目の色が変わった。
 まあ地竜討伐は結構な話題になってたみたいだしな。


「エリナも今のダガーからミスリルのダガーにした方が良いかもしれないな。いつ白兵戦になるかわからないし」

「そうだね! お兄ちゃんも良い武器を持ってたから助かったんだしね!」

「その通りだ嬢ちゃん」

「珍しいな、親父から話しかけてくるなんて」

「まあ要件はわかってるしな」

 女騎士に目で合図をすると、マジックボックスから籠を出して俺の前に置いてくれる。
 俺はその籠から刀身の入った白箱を取り出して親父に渡す。


「どうかな? もう駄目か? 親父が玉鋼ではなく鉄鉱石で打った習作だったとしても、俺としてはこいつに命を救ってもらったからなんとかしてやりたいんだが」


 刀身をじっと眺めた親父が言う。


「火災被害などで焼身やけみになった刀は再刃さいば出来る場合もあるが......これは流石に難しいな」

「そうか、地竜を切り裂いた名刀だったんだがな」

「こいつも本望だろう。打ち直すよりは研ぐだけにして、このまま飾っておいてやれ」

「うちには子供がいるから刃物を飾るのはなー」

「竜を倒してお前さんや嬢ちゃん、町の連中と、何人もの命を救った実績がある縁起のいい刀だぞ。守り刀としては最高だろうが。ケースか何かに入れて置けばいいんじゃないか?」

「たしかにそうだな。頑丈なガラスケースでも発注して、ガキんちょ共を守ってもらうか」

「その方が良い。研ぎは無料でやってやる」

「拵えは無しで刀身だけを飾るから、銘を切ってやってくれないか」

「そうだな、無銘じゃ締まらんからな。何か希望はあるか?」

「生みの親が考えるのが筋だろうな」

「わかった」

「で、新刀なんだが」

「こいつに魔法を纏わせて地竜を斬った程度にしか話を聞いてないからな、詳しく聞かせてくれるか?」

「ああ」


 親父に地竜との戦いの詳細を話した。
 微動だにせず、いつものように不機嫌な表情だったが、目が凄くキラキラしてた。
 判りやすいな。
 地竜に日本刀を突き立てる所なんか鼻の穴がひくひくしてたし。


「なら魔法剣、それもミスリルで打って魔法石を埋め込んだ剣がお前さんの戦闘スタイルに合うだろうな。個人的には玉鋼で作刀したかったところだが」

「刃鉄か心鉄、皮鉄、棟鉄のどこかにミスリルを使えないか?」

「前に考えた事はあったんだがな」

「親父が魔法剣やミスリルソードみたいに魔法で斬れ味を増す刀を打つつもりが無い気持ちもわかるがな。どうしても俺の技量だと魔法で斬れ味を上乗せする必要があるんだよ。どうだろう、魔法と相性のいい日本刀を打ってくれないか? ミスリルソードや魔法剣じゃなく、親父の日本刀が欲しいんだよ」

「......わかった、そこまで言われたら刀鍛冶冥利に尽きるってもんだ。玉鋼のみで作った刀よりは落ちるかもしれんがな」

「金はこいつが出してくれるから存分に良い物を作ってくれ」

「あの......是非わたくしにも一振り打って頂きたいのです! 地竜の鱗すら切り裂く名刀を打つ貴方に、トーマ様と同じく魔法と相性の良い刀を! もちろん料金はトーマ様の分と合わせて言い値で結構です!」

「アンタの得意な魔法は? 特に剣や刀に纏わせる魔法だ」

「水です」

「二振りで金貨三十枚。前金で預かるからギルドの割引も効かんし、びた一文まからん。それでも良いなら打つぞ。作刀の間は店を閉める必要があるからな。その分の補填も込みでその値段だ」

「構いません! よろしくお願い致します!」

「それと魔法石を埋め込みたいなら雷と水との相性のいい魔法石を一週間以内に持ってこい。それぞれ三カラット以下で可能な限り真円球のな」

「はい!」

「手を見せてみろ」


 女騎士が手を見せると、親父が席を立ち、店の奥から日本刀二振りとダガーを持ってきた。


「まずは嬢ちゃんの総ミスリル造りのダガーだな、持ってみろ」
 
「はいっ!」


 そのミスリルダガーは、エリナが今持っている鋼鉄製のダガーと大さは変わらないが、十字鍔の所に小さな窪みがある。


「どうだ?」

「はい! しっくりきます!」

「そのダガーは十字鍔に魔法石を埋め込めるようになっている。そのままでも良いが、嬢ちゃんの属性に合わせて魔法石を埋め込めばさらに魔力効率が上がるぞ。埋め込むときは魔法石と一緒に持ってこい。無料で埋め込んでやる」

「おおー!」

「魔法を纏わせるだけじゃなく、魔力そのものを延長させて刀身を伸ばすような魔法もあると聞く。ならミスリルだけよりは魔法石の補助もあった方が良いだろう。それに魔法石を埋め込めば魔法杖としても使えるしな」

「親父、これはいくらだ?」

「ダガーの下取込みで銀貨三十枚だ」

「買おう」

「トーマ様、わたくしに買わせていただけませんか? エリナ様も命の恩人ですから」

「エリナ、どうだ?」

「シルヴィアさんの気がそれで済むのなら!」

「ありがとう存じますエリナ様」

「いいえ! ありがとうございます!」

「悪いな」

「いえ、出来ましたらそのダガーに埋め込む魔法石も買わせてください」

「えっ、でも高いですよ」

「金額の問題ではなく、気持ちの問題なのです。万が一の事が起こった際に、その魔法石でエリナ様のお命が助かる場合もあるかも知れませんし」

「エリナ、甘えておこう。俺の日本刀も金貨十枚超えでドン引きしたけど、こいつその分は子供たちに使ってくれって言ってくれたから」

「そういう事なら......わかりました! シルヴィアさんありがとうございます!」

「ありがとう存じますトーマ様、エリナ様」

「様とかいらないんだけどな」

「いえ、これは変えるわけにはいきません」

「うーん、めんどくさい」

「いいか?」

「ああスマンな親父」

「これはお前さんの刀だ。作刀が終わるまではこれを貸しておく」


 手に持ってみると、やはりしっくりくる。


「助かるよ。流石に丸腰は怖いからな」

「で、これがアンタに貸し出す刀だ。持ってみろ」

「はい」


 女騎士が日本刀を手に取り、抜刀して刀身を眺める。


「刀は何度か持ったことはありますが、この刀は特に美しい刀身をしているのですね」

「研げば済むような小傷程度なら構わんから、新刀が出来るまではそれで慣れておけ」

「わかりました。ありがとう存じます。少々お待ちいただけますか?」


 そう言うと女騎士が武器屋から一旦出る。
 金でも下ろしに行ったのかと思ったらすぐに戻って来て、親父の前に金貨三十枚、銀貨三十枚を置く。
 慌ててエリナが床に置いてある籠の中からダガーを取り出し、カウンターに置く。
 金を下ろしてきたのか? いや随分早かったし、財布の中を確認したとかかな?


「たしかに受け取った。俺は今から店を閉めて作刀する。一ヶ月、いや三週間で仕上げて見せるから、その頃に来い。それ以外で用事があれば裏にある工房まで来れば話は聞いてやる」

「わかった。親父頼んだぞ」

「ああ」


 武器屋を出て、次は防具屋だ。
 胸甲も買い替える必要があるが、鎧下が焼け焦げている上にノースリーブみたいになったからな。
 一応洗濯された状態で女騎士が持ってきたけど、もう着られないので捨てようとしたらクレアに取られた。
 仕立て直しにも使えない程あちこち焦げてたから、雑巾にでもするのかと聞いたら自分の枕カバーにするとか言ってたな。
 愛されてるなと思うけど兄さまはちょっと引いたぞ、婚約者。

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