30 / 317
第三章 ヘタレ勇者
第二話 勇者と魔王
しおりを挟む
ガラガラとリヤカーを引いて、やっと冒険者ギルドにたどり着く。
中に持って行くのは無理なので、牛肉をリアカーに乗せたまま入口に放置だ。
「こんにちわー」
「ちっす」
冒険者ギルドに入ると、いつもの事務員が黒い襤褸を体に纏った客らしき人間の対応を丁度終えた頃のようだった。
今日は珍しく他の客が居るんだな。
話を終えた後、カウンターから少し離れて待っているようだけど、皮鎧じゃないし依頼者かな?
事務員もこちらに気づいたようで挨拶を返してくる。
「エリナさんトーマさん、いつもご苦労様です」
「今日はブラックバッファローを狩ってきたぞ。外に魔力で軽くなるリヤカーに乗せて置いてあるんだが回収を頼めるか? あとブラックバッファローの魔石一個な」
ごろんと野球のボールサイズの魔石をカウンターに置く。
「かしこまりました、魔法属性持ちの職員に取りに行かせますね」
魔石を受け取って奥に行くいつもの事務員。
あの人いつ休んでるんだろうな。
時間がかかるかと思って掲示板を見ようとしたらすぐに戻ってくる。
指示だけ出したのかな?
そういや客がもう一人いるし、その対応も一人でやってるのか。
「査定に三十分程かかりますがどうされますか?」
「微妙な時間だな、まあ掲示板でも見て時間を潰すよ」
「わかりました。終わりましたらお声をおかけしますね」
「頼む」
「おい! 余の再査定の結果はまだか!」
「魔王さん、今上長に確認しましたが、やはり銀貨二枚と銅貨三百枚以上はお支払いできません。毛皮が燃えてしまっていますし、魔石と角の価格しかお出しできませんので」
あの客が魔王かよ......。
関わるとめんどくさそうだから離れて掲示板を見てよう。
そう思ってエリナを強引に引っ張り、掲示板の前に行く。
面倒ごとに巻き込まれたくないだけなのに、がっしり俺に捕まれたエリナは、何を勘違いしたのか、「えへへ!」と抱き着いてくる。
まあアホ可愛いから良いかと、エリナを抱きしめたまま掲示板を眺めていると、ずっと放置されていた依頼書の変化に気づく。
<徴税局からの依頼 貧民街〇区〇番△△に住む「魔王」の捕縛依頼 報酬 銀貨四枚>
魔王の捕縛依頼の報酬額が上がってないか? 昨日までは銀貨二枚だったと思ったが。
滞納額でも増えたんかね?
というか、なんでここにいる事務員総出で捕縛しないんだ?
などと考えていると
「あ、お兄ちゃん! この依頼なんてどうかな? 報酬凄いよ! 金貨百枚だって!」
エリナが指をさす一枚の依頼書を見る。
<緊急依頼 ドラゴン討伐(竜種「地竜」) 報酬 金貨百枚(状態によっては減額有) 詳しくは担当まで 注意:この依頼書は剥がさないでください>
「ドラゴン? エリナの業炎球でも無理だろ。ドラゴンって火に強いイメージがあるし。というかコレ冒険者駆除用の罠じゃないのか? 普通いないだろこんな所に」
「む! そこな娘!」
私? と魔王の方を見るエリナ。
しまった、絶対面倒な事になる。
さっさとエリナを連れて逃げるか?
「私ですか?」
「そうだ! 美しい娘よ! 魔王である余の后にしてやっても良いぞ!」
「お前殺すぞゴルァ!! なに人の嫁に粉かけてんだ!!」
「私はお兄ちゃんのお嫁さんです!!」
即座に抜刀した俺は、魔王と名乗るゴミクズに日本刀を向けて威嚇し、エリナがゴミクズの視線から逃れるように俺の後ろに隠れる。
「大人しく娘を差し出せば良いものを。魔王たる余に歯向かうとは愚か者め。この魔王の力をとくと見よ! <炎の矢>!」
ゴミクズがそう言うと、ボールペンのようなしょぼい炎の矢を、かざした手の上に浮かべる。
「<ウインドエッジ>!」
俺は日本刀に風の魔法を纏わせると同時にゴミクズに向かってダッシュし、炎の矢を斬り払って拡散させる。
やっぱしょぼいな、エリナの炎の矢なら俺の風魔法の方が拡散するぞ。
「何だと! 余の炎の矢が!」
驚愕しているゴミクズの鳩尾にケンカキックで蹴りをくれて、「うぼぉ」とか言いながらゲロを吐いてうずくまって下がったゴミクズの頭にもう一度蹴りを入れる。
俺の腕はエリナの指定席だからな。
最近はクレアもくっついてくるし。
こんな屑に触れる部分は靴の裏で十分だ。
怒りが収まらないので、ゲロに顔を突っ込んでるゴミクズの後頭部をゲシゲシと十回ほど蹴り
「<風縛>!」
吐しゃ物をまき散らしてダウンしたゲロ塗れの汚いゴミクズに触らないように風の玉で拘束した俺は、掲示板から徴税局の依頼書を剥がす。
今の怒り状態の俺なら暴れるダッシュエミューすら拘束できる気がする。
ブラックバッファローは流石に無理だろうけど。
「事務員! ちょっと徴税局行ってくるわ。エリナ、この依頼書の地図で徴税局の場所はわかるか?」
「徴税局ならわかるよ! それよりお兄ちゃんすごくかっこよかったよ!」
「一瞬殺そうかとも思ったが何とか踏みとどまれたわ。俺のエリナに粉をかけるとか殺されても文句言えないから、別に殺しても良かったんだが」
「お兄ちゃん! 愛してる!」
「俺も愛してるぞエリナ!」
「えへへ!」
「あのトーマさん」
「なんだよ事務員。ゲロは俺のじゃないぞ」
「いえ、ゴミの処理ありがとうございます」
「というかなんで捕縛しないで換金に応じてるんだよ」
「捕縛は事務員の仕事じゃないですからね」
「あっそ。でもせめて通報位しろよ。こんなゴミ放置するな」
「通報しても誰も来ないと思いますけどね。だからこそここに依頼が回ってきたのですし」
「危うく殺すところだったぞ。これ暴行とか傷害にならないよな? 今なら殺しても職業欄に殺人者って出ない自信があるぞ。人の嫁に手を出そうとする奴なんて殺して当然だからな」
「普通に捕縛してたように見えましたし大丈夫ですよ。もし死んでしまったとしても不可抗力ですね。魔法で抵抗してましたから」
「だよな、じゃあ行ってくる」
「ゴミの処分が終わって戻られる頃には査定も終わってると思いますよ」
「行って来まーす!」
ご機嫌なエリナと一緒に徴税局に行き、対応に出てきた職員にゴミクズと一緒に依頼書を渡す。
風縛を解除してゴミクズを床に落とした時に、ゴミクズの首が変な角度で曲がったが、俺もエリナも職員も気にしていない。
ゴミクズが首から下げてたゲロ塗れの登録証を、職員が嫌そうな顔をしながら確認すると、お疲れさまでしたと依頼書に完了証明のサインを貰ったので、冒険者ギルドに戻る。
ゴミが減って少しは治安が良くなればいいんだけどな。
安心してガキんちょ共が外で遊べるようにしないと。
「戻ったぞ」
「丁度査定が終わりましたよトーマさん」
ゲロは既に掃除されていた。
ここの事務員は優秀なんだよな、所属してる連中はゴミしか見た事無いけど。
ついでにサインを貰った依頼書も渡す。
「税金分は差し引いて、ブラックバッファローが金貨二枚と銀貨十五枚、魔石が金貨一枚と銀貨十枚で合計金貨三枚と銀貨二十五枚、追加のゴミの処理代が銀貨四枚ですね。あとこちら、リヤカーは洗浄して折りたたんでおきました」
「おーすごいねお兄ちゃん!」
「これ月一回狩ってれば十分生活できるな。その分孤児院改革を進めるか」
「出来れば毎日狩ってきて欲しいのですけどね」
「異常発生してる間は出来るだけ狩りたいけど、普段はどうなんだ?」
「レア種ですからね、百分の一も居ないと思いますよ。異常発生の期間も原因も不明ですし」
「通常時だと買取価格は上がるのか?」
「異常発生しても狩れる人間がほとんどいませんから今とあまり変わりません。罠などを使って狩る頭も無いのが冒険者ですし」
「ここのクズ以外でも狩る連中はいるんじゃないのか?」
「王都を根拠地にしてる高ランク冒険者でも、ブラックバッファローは美味しい魔物ですけど、異常発生の情報が入ってここに来るまでに異常発生が終わってる場合もありますしね、無駄足になるリスクを背負ってまで来るかというと中々難しいでしょう。せいぜいこの町付近の猟師達が協力して狩るくらいでしょうか」
「なら異常発生中は午前中いっぱいきっちり使って、リヤカーに乗せられなくても魔石だけでも回収した方がいいかな」
「午後は頑なに仕事しないんですね」
「忙しいんだよ飯の準備もあるし。というか狩りより本来は世話の方がメインだしな。ただ色々やるには金が必要なのも確かだし、まあなんとか異常発生中は積極的に狩ってくるよ」
「よろしくおねがいしますね。ブラックバッファローを狩れば冒険者ランクも上がりやすくなりますから」
「ブラックバッファローの血抜きで切る場所だけど、あの位置で価格は下がるのか?」
「ブラックバッファローはタンはそれほど美味しくなく人気が無いので、角さえ確保できれば頭部は無くてもほとんど変わりませんよ。ですのであの位置の切り込みなら減額は全く無い状態で問題無いです」
「わかった。なんとか狩ってくるよ」
「よろしくお願いしますね。異常発生してるブラックバッファローの入荷がほとんど無いというのは流石に問題になってしまうので」
「今の俺達に受けられる美味しい依頼とかあるのか? ブラックバッファローのついでに受けられるようなのがあれば良いんだが」
「今は無いですね。Cランク以上限定依頼でもブラックバッファローを超える効率のいい依頼は、数日掛けて移動するようなものしか無いですし。あ、ランクが関係無いドラゴン討伐ならドラゴンの死体持ち帰りで金貨百枚ですよ。素材が貴重なので魔石だけだと金貨十枚以下になりますが、竜種なのでドラゴンスレイヤーの称号も登録証に表示されますしお勧めですよ」
「罠依頼を勧めるのはやめろ」
「あながち罠でも無いのですけどね。東の荒野をここから半日程歩いた場所にある比較的浅いダンジョンに住み着いているのが最近見つかったんですよ」
「ダンジョンなんか危なすぎて行けるか。怖いし」
「お兄ちゃんのヘタレは治る気配が無いねー」
「お前、ダンジョンなんかで火魔法使ったら酸素消費して死ぬんだぞ。いや魔力で燃えているから酸素は使わないのかな? どっちにしてもわざわざ虎穴に入る必要はない。虎児要らないし、君子危うきに近寄らずだ」
「竜種の中では比較的討伐しやすい地竜なんですよ。もしブラックバッファローの狩りの最中に遭遇したら狩って来てくださいね」
「ダンジョンから出てくるのかよ......怖いこと言うなよ」
「お腹が減ったら出てきますよ。ブラックバッファローが異常発生してますし、ブラックバッファロー目当てに遭遇する可能性はありますね」
「業炎球で倒せるのか?」
「ダメージは与えられると思いますが、飛竜種でもなく亜竜種でもない本物の竜種ですし、上級魔法でも一撃で倒すというのは難しいと思います。地竜は竜種の中でも鱗が硬い種類ですので、強力な魔法剣か業物でもない限り刃を通しませんが、魔法を主戦力にしているトーマさん達なら狩れますよ。多分」
「多分とかやめろ。俺達も他の冒険者連中と同じ駆除対象なのかよ」
「お兄ちゃん。業炎球が効かなかったら風魔法の疾風で逃げちゃえばいいよ!」
「お前ほんとにアホなのな、わざわざドラゴンなんかに喧嘩を売る必要なんて無いだろ」
「ぶー」
「地竜の足は馬程度の速度なので、馬よりも高速移動できる魔法が使えれば安全だと思いますよ。ブレスも吐かないですし、もし見かけたら狩ってきてくださいね。近づいたら死ぬと思いますが」
「ようやくまともな情報が出てきた。無論地竜には喧嘩を売らないで、見かけたら疾風使って逃げるだけだけどな」
「お兄ちゃんのヘタレー」
「お前怖いもの知らずもいい加減にした方が良いぞ、金貨百枚って一億円相当だからな、それだけヤバいって事だ。無理だ無理」
「地竜討伐は今日依頼が出たばかりですからね、王都にもまだ情報は行ってませんし早い者勝ちですよ。王都の有力な冒険者やハンターが来るまでにブラックバッファローの異常発生が続いていればこちらも助かるんですけど。軍が討伐に出る可能性もありますが、ダンジョンから動かないようだとある程度戦力を揃えるまでは手を出さないでしょうね。正規兵と言えども、魔法を使える貴族の子弟のみで構成された騎士団は常に定員を割っているほどですから」
「ドラゴンはそいつらに任せるよ、騎士団とやらが居るのならなんとかなるだろ。俺達は東門からあまり離れずにブラックバッファローを狩るだけだ」
「人が増えるかもしれませんので罠の設置には十分気を付けてくださいね」
「わかった、また来るわ」
「はい、お待ちしてますね」
エリナと冒険者ギルドから出る。
ドラゴンねー。
嫌な予感しかしないから、東の荒野で狩りする時は探査魔法で常に警戒せねば。
逃げるだけなら問題なさそうだしな。
中に持って行くのは無理なので、牛肉をリアカーに乗せたまま入口に放置だ。
「こんにちわー」
「ちっす」
冒険者ギルドに入ると、いつもの事務員が黒い襤褸を体に纏った客らしき人間の対応を丁度終えた頃のようだった。
今日は珍しく他の客が居るんだな。
話を終えた後、カウンターから少し離れて待っているようだけど、皮鎧じゃないし依頼者かな?
事務員もこちらに気づいたようで挨拶を返してくる。
「エリナさんトーマさん、いつもご苦労様です」
「今日はブラックバッファローを狩ってきたぞ。外に魔力で軽くなるリヤカーに乗せて置いてあるんだが回収を頼めるか? あとブラックバッファローの魔石一個な」
ごろんと野球のボールサイズの魔石をカウンターに置く。
「かしこまりました、魔法属性持ちの職員に取りに行かせますね」
魔石を受け取って奥に行くいつもの事務員。
あの人いつ休んでるんだろうな。
時間がかかるかと思って掲示板を見ようとしたらすぐに戻ってくる。
指示だけ出したのかな?
そういや客がもう一人いるし、その対応も一人でやってるのか。
「査定に三十分程かかりますがどうされますか?」
「微妙な時間だな、まあ掲示板でも見て時間を潰すよ」
「わかりました。終わりましたらお声をおかけしますね」
「頼む」
「おい! 余の再査定の結果はまだか!」
「魔王さん、今上長に確認しましたが、やはり銀貨二枚と銅貨三百枚以上はお支払いできません。毛皮が燃えてしまっていますし、魔石と角の価格しかお出しできませんので」
あの客が魔王かよ......。
関わるとめんどくさそうだから離れて掲示板を見てよう。
そう思ってエリナを強引に引っ張り、掲示板の前に行く。
面倒ごとに巻き込まれたくないだけなのに、がっしり俺に捕まれたエリナは、何を勘違いしたのか、「えへへ!」と抱き着いてくる。
まあアホ可愛いから良いかと、エリナを抱きしめたまま掲示板を眺めていると、ずっと放置されていた依頼書の変化に気づく。
<徴税局からの依頼 貧民街〇区〇番△△に住む「魔王」の捕縛依頼 報酬 銀貨四枚>
魔王の捕縛依頼の報酬額が上がってないか? 昨日までは銀貨二枚だったと思ったが。
滞納額でも増えたんかね?
というか、なんでここにいる事務員総出で捕縛しないんだ?
などと考えていると
「あ、お兄ちゃん! この依頼なんてどうかな? 報酬凄いよ! 金貨百枚だって!」
エリナが指をさす一枚の依頼書を見る。
<緊急依頼 ドラゴン討伐(竜種「地竜」) 報酬 金貨百枚(状態によっては減額有) 詳しくは担当まで 注意:この依頼書は剥がさないでください>
「ドラゴン? エリナの業炎球でも無理だろ。ドラゴンって火に強いイメージがあるし。というかコレ冒険者駆除用の罠じゃないのか? 普通いないだろこんな所に」
「む! そこな娘!」
私? と魔王の方を見るエリナ。
しまった、絶対面倒な事になる。
さっさとエリナを連れて逃げるか?
「私ですか?」
「そうだ! 美しい娘よ! 魔王である余の后にしてやっても良いぞ!」
「お前殺すぞゴルァ!! なに人の嫁に粉かけてんだ!!」
「私はお兄ちゃんのお嫁さんです!!」
即座に抜刀した俺は、魔王と名乗るゴミクズに日本刀を向けて威嚇し、エリナがゴミクズの視線から逃れるように俺の後ろに隠れる。
「大人しく娘を差し出せば良いものを。魔王たる余に歯向かうとは愚か者め。この魔王の力をとくと見よ! <炎の矢>!」
ゴミクズがそう言うと、ボールペンのようなしょぼい炎の矢を、かざした手の上に浮かべる。
「<ウインドエッジ>!」
俺は日本刀に風の魔法を纏わせると同時にゴミクズに向かってダッシュし、炎の矢を斬り払って拡散させる。
やっぱしょぼいな、エリナの炎の矢なら俺の風魔法の方が拡散するぞ。
「何だと! 余の炎の矢が!」
驚愕しているゴミクズの鳩尾にケンカキックで蹴りをくれて、「うぼぉ」とか言いながらゲロを吐いてうずくまって下がったゴミクズの頭にもう一度蹴りを入れる。
俺の腕はエリナの指定席だからな。
最近はクレアもくっついてくるし。
こんな屑に触れる部分は靴の裏で十分だ。
怒りが収まらないので、ゲロに顔を突っ込んでるゴミクズの後頭部をゲシゲシと十回ほど蹴り
「<風縛>!」
吐しゃ物をまき散らしてダウンしたゲロ塗れの汚いゴミクズに触らないように風の玉で拘束した俺は、掲示板から徴税局の依頼書を剥がす。
今の怒り状態の俺なら暴れるダッシュエミューすら拘束できる気がする。
ブラックバッファローは流石に無理だろうけど。
「事務員! ちょっと徴税局行ってくるわ。エリナ、この依頼書の地図で徴税局の場所はわかるか?」
「徴税局ならわかるよ! それよりお兄ちゃんすごくかっこよかったよ!」
「一瞬殺そうかとも思ったが何とか踏みとどまれたわ。俺のエリナに粉をかけるとか殺されても文句言えないから、別に殺しても良かったんだが」
「お兄ちゃん! 愛してる!」
「俺も愛してるぞエリナ!」
「えへへ!」
「あのトーマさん」
「なんだよ事務員。ゲロは俺のじゃないぞ」
「いえ、ゴミの処理ありがとうございます」
「というかなんで捕縛しないで換金に応じてるんだよ」
「捕縛は事務員の仕事じゃないですからね」
「あっそ。でもせめて通報位しろよ。こんなゴミ放置するな」
「通報しても誰も来ないと思いますけどね。だからこそここに依頼が回ってきたのですし」
「危うく殺すところだったぞ。これ暴行とか傷害にならないよな? 今なら殺しても職業欄に殺人者って出ない自信があるぞ。人の嫁に手を出そうとする奴なんて殺して当然だからな」
「普通に捕縛してたように見えましたし大丈夫ですよ。もし死んでしまったとしても不可抗力ですね。魔法で抵抗してましたから」
「だよな、じゃあ行ってくる」
「ゴミの処分が終わって戻られる頃には査定も終わってると思いますよ」
「行って来まーす!」
ご機嫌なエリナと一緒に徴税局に行き、対応に出てきた職員にゴミクズと一緒に依頼書を渡す。
風縛を解除してゴミクズを床に落とした時に、ゴミクズの首が変な角度で曲がったが、俺もエリナも職員も気にしていない。
ゴミクズが首から下げてたゲロ塗れの登録証を、職員が嫌そうな顔をしながら確認すると、お疲れさまでしたと依頼書に完了証明のサインを貰ったので、冒険者ギルドに戻る。
ゴミが減って少しは治安が良くなればいいんだけどな。
安心してガキんちょ共が外で遊べるようにしないと。
「戻ったぞ」
「丁度査定が終わりましたよトーマさん」
ゲロは既に掃除されていた。
ここの事務員は優秀なんだよな、所属してる連中はゴミしか見た事無いけど。
ついでにサインを貰った依頼書も渡す。
「税金分は差し引いて、ブラックバッファローが金貨二枚と銀貨十五枚、魔石が金貨一枚と銀貨十枚で合計金貨三枚と銀貨二十五枚、追加のゴミの処理代が銀貨四枚ですね。あとこちら、リヤカーは洗浄して折りたたんでおきました」
「おーすごいねお兄ちゃん!」
「これ月一回狩ってれば十分生活できるな。その分孤児院改革を進めるか」
「出来れば毎日狩ってきて欲しいのですけどね」
「異常発生してる間は出来るだけ狩りたいけど、普段はどうなんだ?」
「レア種ですからね、百分の一も居ないと思いますよ。異常発生の期間も原因も不明ですし」
「通常時だと買取価格は上がるのか?」
「異常発生しても狩れる人間がほとんどいませんから今とあまり変わりません。罠などを使って狩る頭も無いのが冒険者ですし」
「ここのクズ以外でも狩る連中はいるんじゃないのか?」
「王都を根拠地にしてる高ランク冒険者でも、ブラックバッファローは美味しい魔物ですけど、異常発生の情報が入ってここに来るまでに異常発生が終わってる場合もありますしね、無駄足になるリスクを背負ってまで来るかというと中々難しいでしょう。せいぜいこの町付近の猟師達が協力して狩るくらいでしょうか」
「なら異常発生中は午前中いっぱいきっちり使って、リヤカーに乗せられなくても魔石だけでも回収した方がいいかな」
「午後は頑なに仕事しないんですね」
「忙しいんだよ飯の準備もあるし。というか狩りより本来は世話の方がメインだしな。ただ色々やるには金が必要なのも確かだし、まあなんとか異常発生中は積極的に狩ってくるよ」
「よろしくおねがいしますね。ブラックバッファローを狩れば冒険者ランクも上がりやすくなりますから」
「ブラックバッファローの血抜きで切る場所だけど、あの位置で価格は下がるのか?」
「ブラックバッファローはタンはそれほど美味しくなく人気が無いので、角さえ確保できれば頭部は無くてもほとんど変わりませんよ。ですのであの位置の切り込みなら減額は全く無い状態で問題無いです」
「わかった。なんとか狩ってくるよ」
「よろしくお願いしますね。異常発生してるブラックバッファローの入荷がほとんど無いというのは流石に問題になってしまうので」
「今の俺達に受けられる美味しい依頼とかあるのか? ブラックバッファローのついでに受けられるようなのがあれば良いんだが」
「今は無いですね。Cランク以上限定依頼でもブラックバッファローを超える効率のいい依頼は、数日掛けて移動するようなものしか無いですし。あ、ランクが関係無いドラゴン討伐ならドラゴンの死体持ち帰りで金貨百枚ですよ。素材が貴重なので魔石だけだと金貨十枚以下になりますが、竜種なのでドラゴンスレイヤーの称号も登録証に表示されますしお勧めですよ」
「罠依頼を勧めるのはやめろ」
「あながち罠でも無いのですけどね。東の荒野をここから半日程歩いた場所にある比較的浅いダンジョンに住み着いているのが最近見つかったんですよ」
「ダンジョンなんか危なすぎて行けるか。怖いし」
「お兄ちゃんのヘタレは治る気配が無いねー」
「お前、ダンジョンなんかで火魔法使ったら酸素消費して死ぬんだぞ。いや魔力で燃えているから酸素は使わないのかな? どっちにしてもわざわざ虎穴に入る必要はない。虎児要らないし、君子危うきに近寄らずだ」
「竜種の中では比較的討伐しやすい地竜なんですよ。もしブラックバッファローの狩りの最中に遭遇したら狩って来てくださいね」
「ダンジョンから出てくるのかよ......怖いこと言うなよ」
「お腹が減ったら出てきますよ。ブラックバッファローが異常発生してますし、ブラックバッファロー目当てに遭遇する可能性はありますね」
「業炎球で倒せるのか?」
「ダメージは与えられると思いますが、飛竜種でもなく亜竜種でもない本物の竜種ですし、上級魔法でも一撃で倒すというのは難しいと思います。地竜は竜種の中でも鱗が硬い種類ですので、強力な魔法剣か業物でもない限り刃を通しませんが、魔法を主戦力にしているトーマさん達なら狩れますよ。多分」
「多分とかやめろ。俺達も他の冒険者連中と同じ駆除対象なのかよ」
「お兄ちゃん。業炎球が効かなかったら風魔法の疾風で逃げちゃえばいいよ!」
「お前ほんとにアホなのな、わざわざドラゴンなんかに喧嘩を売る必要なんて無いだろ」
「ぶー」
「地竜の足は馬程度の速度なので、馬よりも高速移動できる魔法が使えれば安全だと思いますよ。ブレスも吐かないですし、もし見かけたら狩ってきてくださいね。近づいたら死ぬと思いますが」
「ようやくまともな情報が出てきた。無論地竜には喧嘩を売らないで、見かけたら疾風使って逃げるだけだけどな」
「お兄ちゃんのヘタレー」
「お前怖いもの知らずもいい加減にした方が良いぞ、金貨百枚って一億円相当だからな、それだけヤバいって事だ。無理だ無理」
「地竜討伐は今日依頼が出たばかりですからね、王都にもまだ情報は行ってませんし早い者勝ちですよ。王都の有力な冒険者やハンターが来るまでにブラックバッファローの異常発生が続いていればこちらも助かるんですけど。軍が討伐に出る可能性もありますが、ダンジョンから動かないようだとある程度戦力を揃えるまでは手を出さないでしょうね。正規兵と言えども、魔法を使える貴族の子弟のみで構成された騎士団は常に定員を割っているほどですから」
「ドラゴンはそいつらに任せるよ、騎士団とやらが居るのならなんとかなるだろ。俺達は東門からあまり離れずにブラックバッファローを狩るだけだ」
「人が増えるかもしれませんので罠の設置には十分気を付けてくださいね」
「わかった、また来るわ」
「はい、お待ちしてますね」
エリナと冒険者ギルドから出る。
ドラゴンねー。
嫌な予感しかしないから、東の荒野で狩りする時は探査魔法で常に警戒せねば。
逃げるだけなら問題なさそうだしな。
1
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる