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第二章 ヘタレ冒険者
第五話 平原での活動
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「ダッシュエミューってそこそこ見かけるのな」
「平原で視界が良いから見つけやすいけど、凄く速く走ってるし遠いよね。あれじゃ魔法も届かないし」
翌日、俺とエリナは西の平原へと来ていた。
ちなみにクレアはミコトにごはんをあげることでご機嫌になってたから大丈夫だと思う。
目的のダッシュエミューは、十分に一度くらいのペースで見つける事が出来た。
視界が良いから目に入るというだけで、魔物の密度としたら南の森よりまばらかもしれない。
一キロから数キロ位離れた場所を、時速六十キロ位で走り回ってる。
国道を走る車って感じか。
サイズ的にはバイクくらいっぽいけど。
群れじゃなくて単独で移動してるんだな。
「どうすっかねー、餌でも仕掛けて食ってる所に風縛を使うか、攻撃魔法で仕留めるか」
「風刃で足を切っちゃうとかね。逃げられなくなるし」
「容赦ないな。とりあえず一度でも通った辺りまで行ってみるか。平原って言っても木とか背の高い草とかもそこそこあるし、そこで待ち伏せするぞ」
「そうだね!」
ダッシュエミューが走り去った辺りまで一キロ程歩いて、手頃な草の中に身を隠す。
「ちょっとここで様子見るか」
「はーい!」
「ダッシュエミューってどの部位が貴重なんだっけ」
「背中の皮だね! 高級素材なんだって」
「オーストリッチかよ。なら火魔法はあまり使いたくないな」
「じゃあやっぱ風魔法だね」
「風縛で動きを止めてから、背中を傷つけないように狩るか」
「うん!」
ひたすらダッシュエミューを待つ。
暇過ぎなのでエリナの髪を弄りまくる。
野外活動を本格的に始めた頃に、鞄の中にあった鼻毛チェック用ミラーをエリナにプレゼントしていた。
その鏡をエリナは凄く気に入り、肌身離さず持ち歩いている。
今エリナはその鏡をのぞき込み、俺が弄ってる髪を見ている。
もちろん鼻毛チェック用だったという事は内緒だ。
こいつの髪しっかりコシもあって弄りやすいんだよな。
整髪料も何もないからリボンで縛るかドライヤー魔法で固定する位しか出来ないんだけど。
「お兄ちゃん! 何か音がする!」
「ちょっと待て、今縦ロールを固定するのにドライヤー魔法使ってるから」
「お兄ちゃん! ダッシュエミューだよ! 私の髪を弄ってる場合じゃないよ!」
「えっマジで?」
「風縛が届く場所に来たら使うよ!」
「おう頼む。俺の風縛だと逃がす恐れがあるからな。というか届かん」
ドドドドと言う音が近づいてくる。
まっすぐこちらに向かってくる訳じゃないけどちょっと怖いな。
エリナの風縛が通用しなかった場合に備えて、風刃で足を切る準備をしておくか。
と言っても俺の射程距離は最大でも百メートルちょっと。
上手い事こちらに来てくれればいいが、臆病な魔物との事で馬車や人間には余り近づいてこないそうだ。
二百メートル程の前方を横切るように移動してくる。そろそろエリナの射程圏か。
「行くよお兄ちゃん!」
「よしやれ!」
「<風縛>!」
エリナの魔法にダッシュエミューが絡めとられる。
捕まえた! というか俺何もしてない!
「やったぞエリナ! とりあえず近づくぞ。そのまま維持できるよな?」
「任せてお兄ちゃん! 頭を下に向けるから首を切っちゃってね」
「わかった」
エリナと二人でダッシュエミューに近づいていく。
俺の風刃で斬ろうとしても、エリナの風縛の結界を突破できないんだよな。
ロングソードは透過するから、同属性魔法だと吸収されちゃうとかなんだろうか。
単純に俺の魔力が足りなくて弾かれるとか?
ただ風魔法でも剣に纏わせれば透過するから、理屈が良くわからん。
「<トラップホール>!」
まず血抜きで出る血を捨てる穴を土魔法で掘る。
「<ウインドエッジ>!」
おっさんから巻き上げたロングソードに風魔法を纏わせて切れ味を増す。
最近切れ味が無くなってきたからな。
一回で切れないとキモいしね。感触がヤバい。
ダッシュエミューの側まで来て、一撃で首を落とす。
火魔法や水魔法、雷魔法を剣に纏わせると、傷口を焼いたり凍らせたりで血抜きがしにくくなるんだよな。
「お兄ちゃん、血抜きをするからちょっと離れててね!」
「わかった」
「ぎゅー」
エリナがぎゅーと言うと、ダッシュエミューの体が細くなり、血がダバダバと勢いよく出てくる。
「お前何してんの?」
「絞ってるの!」
「レモンかよ」
「ぎゅー」
なんか中身が出てきたんだけど......。
エリナさん、絞り過ぎじゃないんですか?
「エリナ、中身がちょっと出て来てるから余り強く絞らないで。お兄ちゃん吐きそう」
「もー、お兄ちゃんはヘタレだなー」
そう言うとエリナは戒めを緩めたのか、ダッシュエミューの体が少し太くなる。
しばらくそのまま放置していると、血抜きが完了した。
「ダチョウサイズだったら入らなかったけど、このサイズなら背負い籠に入りそうだな」
「じゃあお兄ちゃん、穴の横に籠を置いて。そのまま入れちゃうから」
「首を上に戻して入れてくれよ。血が垂れてきちゃいそうだし」
「わかった!」
俺の新しい背追い籠は前世でのドラム缶より一回り小さいサイズだ。
竹のような素材で編まれた上に金属で補強されていて、軽量かつ頑丈に出来ている。
食材なんかも入れてたとは言え、これいっぱいに玩具を詰め込んでたんだな。
そりゃクレアも切れるわ。
食材等も入れる籠なので、魔物を入れる時には専用の革袋を籠に被せている。
冒険者ギルドにこのまま納品すれば、革袋も魔法で洗って返してくれるんで助かっている。
籠のセッティングが終わると、エリナはくるんとダッシュエミューを回転させて首を上に向ける。
そのまま風の玉ごと血抜きの終わったダッシュエミューをゆっくり籠に降ろしていく。
「あ、籠にちょっと引っかかってる。ぎゅー」
「やめてやめて、絞らないで。鳥モツ出ちゃう」
「籠に入ったよお兄ちゃん!」
「ご苦労エリナ。結局狩りはほとんどお前が終わらせて、俺はお前を縦ロールにしただけだったな」
「お兄ちゃん帰ろう!」
「穴埋めてからな<ストーンシャワー>!」
血を入れた穴を魔法で埋め戻して籠を背負う。
数ミリ程度の小石から握りこぶし大の石までを自由に出せる便利魔法だ。
一応小石のみを出そうと調整しているが、まだ熟練してないので大きめの石も混じって砂利状態だがまぁいいだろう。
罠の放置は禁止されてるんだよな。
きっちり穴を埋め戻してから籠を背負う。
「っと結構重いな」
「お兄ちゃんガンバ!」
ガンバ! と言いながらエリナはいつものように俺の腕に抱き着いてくる。
うーん、たまたま待ち伏せしてた付近を通りかかったから良かったけど、何か引き寄せる方法を考えないとな。
あと俺がどうすれば活躍できるか考えないと。
ダッシュエミューを入れた籠を背負って冒険者ギルドへ向かう。
もう慣れたもので、町中にも結構知り合いが出来た。
しかも腕を組んで歩いてるから冷やかされて仕方がない。
その度にエリナは笑顔で応対してるが、これもう完全に既成事実化されてるな。
まぁ断る気が全くないどころかエリナの事は好きだし問題無いんだけど。
問題と言えば収入なんだよな。
安定して稼げて孤児院を運営できる資金を、ミコトが成人するまで続けられるかどうか。
その間に新入りが入ってきたら更に稼ぎ続けなきゃいけない期間が延びるしな。
今の所高い収入を稼げてるし、これがこのまま続けばいいんだけど。
俺とエリナは魔法が使えるので、就職先はかなりある。
ただし、エリナは三属性で高い潜在能力を持つが、平民出身という事もあり、良い職場に採用され難い上に、仮に行けたとしても周囲が貴族だらけなので、色々やりづらいだろうという事だ。
俺は<転移者>なのでまだ差別的なものはマシだが、全属性持ちと言えど潜在力が低く、それほど良い職場には採用されないらしい。
などと色々考えてる間に冒険者ギルドに到着する。
「ういっすー」
「こんにちはー」
「トーマさん、エリナさん、こんにちは。あら? エリナさん珍しい髪型ですね」
「たてろーるって言うらしいですよ!」
「ボリュームが出て華やかな髪型ですね」
「えへへ! ありがとうございます!」
「それでご用件は何ですか?」
「今日はダッシュエミューを狩ってきた」
籠をその場に降ろし、いつもの事務員がカウンターから身を乗り出して中を覗く。
「ダッシュエミューとは珍しいですね。中々ここのクズどもは狩ってこない魔物なので」
「魔法が使えないと難しいしな。というか毒舌がすごいな」
「矢も中々通さない硬い羽毛を持っていますしね。では査定しちゃいますね。少々お待ちください」
流石に女性事務員一人だと運べないので、他の職員を応援に呼んで籠ごと奥へ運んでいく。
他の職員居たんだな。
まだ昼時より早いので誰もいないし、気兼ねしないで待てるのは良いな。
待ち時間の間暇なのでいつものルーティーンの依頼を張られた掲示板を眺める。
んー? なんだこれ。
<F、Eランク限定特別依頼 貨幣造幣ギルドから貨幣輸送馬車の護衛任務 隣町へ一泊二日の片道のみ、宿場町を通らないので野営の準備をお願いします。 報酬は銀貨四枚>
怪しすぎだなこれ。
こんなのに引っかかる馬鹿いるのかな?
「トーマさん、お待たせしました」
「あのさ、あの貨幣造幣ギルドの依頼って引っかかる馬鹿居るの? そもそもこの町に貨幣造幣ギルドは無いだろ」
「居るから定期的に間引いているんですが」
「間引くって......言い方考えろよ」
「毎回、大体十人位で徒党を組んで受注しますね。積んでいるのは貨幣の入った箱ではなく、中に腕利きの兵士が入った箱なんですけれどね。帰りには馬車襲撃犯の棺桶になるんですけれど。この依頼書を見つけると、依頼書を即剥がして仲間を集めてこっそり受注するので、手口が広まらないでずっと同じ方法で間引けるんですよね。わかってる連中もわざわざ教えたりしないですし。害虫の方がよっぽど賢いですよ、同じ殺虫剤を使ってると効かない害虫が出てきますから」
「野営中に輸送馬車を襲わない連中も居たりするの?」
「殆ど居ないですね、食い詰めた連中ばかり集まりますので。受注されますか?」
「するか馬鹿」
「そういえば半年程前にトーマさんに絡んだクズですが」
「まさか」
「前回のこれに引っかかってお掃除されました。そのロングソードは遺品という事になりますね」
「うわあ買い替えよう」
「で、ダッシュエミューですが、銀貨二十枚です。魔石はどうされますか?」
「そのままで買取で」
「かしこまりました。ではこちら銀貨二十枚になりますね」
その場でエリナに、エリナと孤児院分として銀貨十五枚を渡す。
俺の今日の取り分は銀貨五枚だ。
エリナも自分の分として五枚をそのままギルドに預ける。
「そういえばダッシュエミューって何を食うかわかるか?」
「雑食性なので何でも食べますよ。それこそ野菜屑でも」
「それは良い事聞いた。また来るわ」
「お待ちしておりますね」
冒険者ギルドから出て、先ずは武器屋に向かう。
剣を新調する為だ。縁起が悪すぎる。
でもあのおっさん居なくなったのか。
天寿を全うできなかったし<転生の間>へは行けないんだな。
一応祈っておいてやろうかと思ったけどやめた。
顔すら思い出せないからな。
「平原で視界が良いから見つけやすいけど、凄く速く走ってるし遠いよね。あれじゃ魔法も届かないし」
翌日、俺とエリナは西の平原へと来ていた。
ちなみにクレアはミコトにごはんをあげることでご機嫌になってたから大丈夫だと思う。
目的のダッシュエミューは、十分に一度くらいのペースで見つける事が出来た。
視界が良いから目に入るというだけで、魔物の密度としたら南の森よりまばらかもしれない。
一キロから数キロ位離れた場所を、時速六十キロ位で走り回ってる。
国道を走る車って感じか。
サイズ的にはバイクくらいっぽいけど。
群れじゃなくて単独で移動してるんだな。
「どうすっかねー、餌でも仕掛けて食ってる所に風縛を使うか、攻撃魔法で仕留めるか」
「風刃で足を切っちゃうとかね。逃げられなくなるし」
「容赦ないな。とりあえず一度でも通った辺りまで行ってみるか。平原って言っても木とか背の高い草とかもそこそこあるし、そこで待ち伏せするぞ」
「そうだね!」
ダッシュエミューが走り去った辺りまで一キロ程歩いて、手頃な草の中に身を隠す。
「ちょっとここで様子見るか」
「はーい!」
「ダッシュエミューってどの部位が貴重なんだっけ」
「背中の皮だね! 高級素材なんだって」
「オーストリッチかよ。なら火魔法はあまり使いたくないな」
「じゃあやっぱ風魔法だね」
「風縛で動きを止めてから、背中を傷つけないように狩るか」
「うん!」
ひたすらダッシュエミューを待つ。
暇過ぎなのでエリナの髪を弄りまくる。
野外活動を本格的に始めた頃に、鞄の中にあった鼻毛チェック用ミラーをエリナにプレゼントしていた。
その鏡をエリナは凄く気に入り、肌身離さず持ち歩いている。
今エリナはその鏡をのぞき込み、俺が弄ってる髪を見ている。
もちろん鼻毛チェック用だったという事は内緒だ。
こいつの髪しっかりコシもあって弄りやすいんだよな。
整髪料も何もないからリボンで縛るかドライヤー魔法で固定する位しか出来ないんだけど。
「お兄ちゃん! 何か音がする!」
「ちょっと待て、今縦ロールを固定するのにドライヤー魔法使ってるから」
「お兄ちゃん! ダッシュエミューだよ! 私の髪を弄ってる場合じゃないよ!」
「えっマジで?」
「風縛が届く場所に来たら使うよ!」
「おう頼む。俺の風縛だと逃がす恐れがあるからな。というか届かん」
ドドドドと言う音が近づいてくる。
まっすぐこちらに向かってくる訳じゃないけどちょっと怖いな。
エリナの風縛が通用しなかった場合に備えて、風刃で足を切る準備をしておくか。
と言っても俺の射程距離は最大でも百メートルちょっと。
上手い事こちらに来てくれればいいが、臆病な魔物との事で馬車や人間には余り近づいてこないそうだ。
二百メートル程の前方を横切るように移動してくる。そろそろエリナの射程圏か。
「行くよお兄ちゃん!」
「よしやれ!」
「<風縛>!」
エリナの魔法にダッシュエミューが絡めとられる。
捕まえた! というか俺何もしてない!
「やったぞエリナ! とりあえず近づくぞ。そのまま維持できるよな?」
「任せてお兄ちゃん! 頭を下に向けるから首を切っちゃってね」
「わかった」
エリナと二人でダッシュエミューに近づいていく。
俺の風刃で斬ろうとしても、エリナの風縛の結界を突破できないんだよな。
ロングソードは透過するから、同属性魔法だと吸収されちゃうとかなんだろうか。
単純に俺の魔力が足りなくて弾かれるとか?
ただ風魔法でも剣に纏わせれば透過するから、理屈が良くわからん。
「<トラップホール>!」
まず血抜きで出る血を捨てる穴を土魔法で掘る。
「<ウインドエッジ>!」
おっさんから巻き上げたロングソードに風魔法を纏わせて切れ味を増す。
最近切れ味が無くなってきたからな。
一回で切れないとキモいしね。感触がヤバい。
ダッシュエミューの側まで来て、一撃で首を落とす。
火魔法や水魔法、雷魔法を剣に纏わせると、傷口を焼いたり凍らせたりで血抜きがしにくくなるんだよな。
「お兄ちゃん、血抜きをするからちょっと離れててね!」
「わかった」
「ぎゅー」
エリナがぎゅーと言うと、ダッシュエミューの体が細くなり、血がダバダバと勢いよく出てくる。
「お前何してんの?」
「絞ってるの!」
「レモンかよ」
「ぎゅー」
なんか中身が出てきたんだけど......。
エリナさん、絞り過ぎじゃないんですか?
「エリナ、中身がちょっと出て来てるから余り強く絞らないで。お兄ちゃん吐きそう」
「もー、お兄ちゃんはヘタレだなー」
そう言うとエリナは戒めを緩めたのか、ダッシュエミューの体が少し太くなる。
しばらくそのまま放置していると、血抜きが完了した。
「ダチョウサイズだったら入らなかったけど、このサイズなら背負い籠に入りそうだな」
「じゃあお兄ちゃん、穴の横に籠を置いて。そのまま入れちゃうから」
「首を上に戻して入れてくれよ。血が垂れてきちゃいそうだし」
「わかった!」
俺の新しい背追い籠は前世でのドラム缶より一回り小さいサイズだ。
竹のような素材で編まれた上に金属で補強されていて、軽量かつ頑丈に出来ている。
食材なんかも入れてたとは言え、これいっぱいに玩具を詰め込んでたんだな。
そりゃクレアも切れるわ。
食材等も入れる籠なので、魔物を入れる時には専用の革袋を籠に被せている。
冒険者ギルドにこのまま納品すれば、革袋も魔法で洗って返してくれるんで助かっている。
籠のセッティングが終わると、エリナはくるんとダッシュエミューを回転させて首を上に向ける。
そのまま風の玉ごと血抜きの終わったダッシュエミューをゆっくり籠に降ろしていく。
「あ、籠にちょっと引っかかってる。ぎゅー」
「やめてやめて、絞らないで。鳥モツ出ちゃう」
「籠に入ったよお兄ちゃん!」
「ご苦労エリナ。結局狩りはほとんどお前が終わらせて、俺はお前を縦ロールにしただけだったな」
「お兄ちゃん帰ろう!」
「穴埋めてからな<ストーンシャワー>!」
血を入れた穴を魔法で埋め戻して籠を背負う。
数ミリ程度の小石から握りこぶし大の石までを自由に出せる便利魔法だ。
一応小石のみを出そうと調整しているが、まだ熟練してないので大きめの石も混じって砂利状態だがまぁいいだろう。
罠の放置は禁止されてるんだよな。
きっちり穴を埋め戻してから籠を背負う。
「っと結構重いな」
「お兄ちゃんガンバ!」
ガンバ! と言いながらエリナはいつものように俺の腕に抱き着いてくる。
うーん、たまたま待ち伏せしてた付近を通りかかったから良かったけど、何か引き寄せる方法を考えないとな。
あと俺がどうすれば活躍できるか考えないと。
ダッシュエミューを入れた籠を背負って冒険者ギルドへ向かう。
もう慣れたもので、町中にも結構知り合いが出来た。
しかも腕を組んで歩いてるから冷やかされて仕方がない。
その度にエリナは笑顔で応対してるが、これもう完全に既成事実化されてるな。
まぁ断る気が全くないどころかエリナの事は好きだし問題無いんだけど。
問題と言えば収入なんだよな。
安定して稼げて孤児院を運営できる資金を、ミコトが成人するまで続けられるかどうか。
その間に新入りが入ってきたら更に稼ぎ続けなきゃいけない期間が延びるしな。
今の所高い収入を稼げてるし、これがこのまま続けばいいんだけど。
俺とエリナは魔法が使えるので、就職先はかなりある。
ただし、エリナは三属性で高い潜在能力を持つが、平民出身という事もあり、良い職場に採用され難い上に、仮に行けたとしても周囲が貴族だらけなので、色々やりづらいだろうという事だ。
俺は<転移者>なのでまだ差別的なものはマシだが、全属性持ちと言えど潜在力が低く、それほど良い職場には採用されないらしい。
などと色々考えてる間に冒険者ギルドに到着する。
「ういっすー」
「こんにちはー」
「トーマさん、エリナさん、こんにちは。あら? エリナさん珍しい髪型ですね」
「たてろーるって言うらしいですよ!」
「ボリュームが出て華やかな髪型ですね」
「えへへ! ありがとうございます!」
「それでご用件は何ですか?」
「今日はダッシュエミューを狩ってきた」
籠をその場に降ろし、いつもの事務員がカウンターから身を乗り出して中を覗く。
「ダッシュエミューとは珍しいですね。中々ここのクズどもは狩ってこない魔物なので」
「魔法が使えないと難しいしな。というか毒舌がすごいな」
「矢も中々通さない硬い羽毛を持っていますしね。では査定しちゃいますね。少々お待ちください」
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他の職員居たんだな。
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んー? なんだこれ。
<F、Eランク限定特別依頼 貨幣造幣ギルドから貨幣輸送馬車の護衛任務 隣町へ一泊二日の片道のみ、宿場町を通らないので野営の準備をお願いします。 報酬は銀貨四枚>
怪しすぎだなこれ。
こんなのに引っかかる馬鹿いるのかな?
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「あのさ、あの貨幣造幣ギルドの依頼って引っかかる馬鹿居るの? そもそもこの町に貨幣造幣ギルドは無いだろ」
「居るから定期的に間引いているんですが」
「間引くって......言い方考えろよ」
「毎回、大体十人位で徒党を組んで受注しますね。積んでいるのは貨幣の入った箱ではなく、中に腕利きの兵士が入った箱なんですけれどね。帰りには馬車襲撃犯の棺桶になるんですけれど。この依頼書を見つけると、依頼書を即剥がして仲間を集めてこっそり受注するので、手口が広まらないでずっと同じ方法で間引けるんですよね。わかってる連中もわざわざ教えたりしないですし。害虫の方がよっぽど賢いですよ、同じ殺虫剤を使ってると効かない害虫が出てきますから」
「野営中に輸送馬車を襲わない連中も居たりするの?」
「殆ど居ないですね、食い詰めた連中ばかり集まりますので。受注されますか?」
「するか馬鹿」
「そういえば半年程前にトーマさんに絡んだクズですが」
「まさか」
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「うわあ買い替えよう」
「で、ダッシュエミューですが、銀貨二十枚です。魔石はどうされますか?」
「そのままで買取で」
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※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
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孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
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主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
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14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
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勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
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