19 / 317
第二章 ヘタレ冒険者
第三話 命名
しおりを挟む
リビングに戻ると、ガキんちょ共はとっくに昼飯を食い終わっており、眠っている赤ん坊に群がっている。
「お兄ちゃん、この子うちで受け入れるの?」
「ああ、正式な手続きはこれから婆さんがやるが、この孤児院の新しいメンバーだぞ」
「よかったー、この子すごく可愛いもんね」
「姉さま、この子の世話はいいんちょーの私がします」
「えークレアずるーい。カルルの食事係も取っちゃったじゃない」
「姉さまはそれ以外の面倒を見たでしょう?」
「そうだけどさー」
「姉さまはもう冒険者のお仕事をしてるじゃないですか。可愛がるのは良いですけど、お世話は私の仕事ですよ」
「クレアのけち」
「なんで六歳も年下のクレアの方がしっかりしてるんだよ......」
「お兄ちゃんこの子の名前はわかったの?」
「いや、どこにも書いてなかった」
「じゃあ名前を付けてあげようよ!」
「そうだなー、俺はしばらく新入りとか言いそうだけど」
「お兄ちゃんは人の名前を言わないきゃらを辞めなよ!」
「キャラって言葉を使いこなしてんじゃねーよ」
「兄さまは訳の分からない名前を付けますからね。いいんちょーとか意味わからないですし」
「お前さっき自分で委員長って言ってたじゃん」
「もうちゃんと名前つけてあげて! お兄ちゃんが最初に見つけたんでしょ!」
「うーん、女の子だろ? うーん。なんか無いかな、命名ねえ命名......そうだ、ミコトってどうだ? 漢字で書くと命」
「かんじ? でもミコトちゃんって可愛いと思う! お兄ちゃんやればできるじゃん!」
「ミコトちゃん......可愛い名前ですね兄さま」
「お、好評だな。一応他のガキんちょの案も聞いて決めようぜ。委員長ちょっと聞いて来て」
「わかりました!」
委員長のクレアが他のガキんちょにアンケートを取りに行く。
委員長キャラがバッチリ合ってるじゃねーか。
俺のネーミングセンス良いじゃん。
あいつすげぇしっかりしてるんだよな。
話し方も大人みたいだし。
ガキんちょの面倒見も良いどころか好んでやってるしな。
体つきもエリナの身長を追い越しそうなほど急成長してるし。
部分的にはすでに追い越している。
数年後には緩衝材が必要無くなりそうな感じ。
胸甲を着けるような危ない仕事をさせるつもりはないけど。
クレアの髪は、日本では見かけない青色でゆるふわウェーブの長い髪型だ。
両サイドの髪を軽く後ろに流して二本の黄色のリボンで纏めている。
将来は知的美人だな。妙に大人びてるし。
「お兄ちゃんついんてーるにして!」
クレアの仕事ぶりに感心していると、俺に背中を向けて言い放つエリナ。ガキかよ。
「ポニテのままだったなそういや」
エリナの髪型をツインテールにする。
他のガキんちょの髪のセットはエリナがやってるんだから自分でできるだろって言うとお兄ちゃんがやった方が可愛いからとか言いやがる。
完全にエリナの掌で踊らされてるな俺。
「できたぞ」
「ありがとうお兄ちゃん! 私可愛い?」
「可愛いぞエリナ」
「うーん、ちょっとはヘタレが治ってきてるのはわかるんだけど、気持ちが籠って無い気がする!」
「どうすりゃいいんだよ......」
理不尽な事を言われていると、アホ妹とは違ってテキパキと働く有能な委員長が帰ってくる。
「兄さま、皆の意見を聞き終わりましたよ」
「ミコト以外にどんな候補があった?」
「ラスクちゃんって言うのがありましたけど却下しました」
「ミリィだろ。どんだけ気に入ってるんだラスク」
「あとは全員一致でミコトちゃんですよ兄さま」
「お、じゃあ命名命だな。逆から読んでも命名命」
「? お兄ちゃん、逆から読んだらとこみいめいめでしょ?」
「漢字フォントがねーんだよなこの世界」
「兄さまはたまに変な事を言うきゃらを辞めた方が良いですよ。発作は諦めましたけれど」
「辛辣過ぎだよ九歳児」
「ミコトちゃーん、エリナお姉ちゃんだよー。ミコトちゃんは可愛いねー」
昼寝が終わったのだろう、手を伸ばしてだーだー言い出したミコトを素早く抱っこしたエリナが、早速決まったばかりの名前を呼んでいる。
「あっずるいです姉さま。お昼寝が終わったら教えてくださいって言ったじゃないですか」
「早い者勝ちだからね」
「まーま、まーま」
「ちょっと聞いたお兄ちゃん! ミコトちゃんが私の事ママだって! ママ!」
「俺という男が居ながら誰の子だよ!」
「そういうの良いからお兄ちゃんもミコトちゃんに話しかけてよ」
突発性反抗期のエリナがミコトを寄越してくる。
飯を食って昼寝して落ち着いたのか、先程よりもやたらと元気だ。
お、ヤバい可愛い。
愛嬌が凄いな。
一生懸命手を俺の方に伸ばしてくる。
「ミコトーお兄ちゃんだぞー」
「だー、だー、あうー」
「ヤバい、マジ可愛いなミコト!」
ばしばしと顔を叩かれるが非常に癒される。
なんだこの生き物。
滅茶苦茶可愛い。
「ぱーぱ、ぱーぱ」
「マジかよ」
「やったー!」
「エリナ、そこは私という女が居ながらどこの女とーって言うところじゃないの?」
「やっぱり兄さまと姉さまの子供なんじゃないんですか?」
「お兄ちゃんとの子供!」
「アホな長女は無視して、しっかり者の次女のお前も抱いてみろ。死ぬほど可愛いから」
先程からうずうずとミコトを見ていたクレアに抱かせてやる。
「うわぁ......一生懸命手を伸ばしてきて可愛いです......ミコトちゃーん、クレアお姉ちゃんですよー」
「だー、きゃっきゃ! きゃっ!」
「うわ、凄い喜んでる。可愛い過ぎます......。ミコトちゃんは凄く可愛いですねー」
「クレアにめっちゃ懐いてるな。さっき婆さんと飯食わせたからかな」
クレアが鼻の下を伸ばしまくって超絶可愛がってると、我慢できなくなったのか、さっきまで玩具やらで遊んでたガキんちょ共が、抱かせてー触らせてーと群がってくる。
「じゃあクレアは委員長として皆にミコトの紹介をしてやってくれ」
「わかりました兄さま! 任せてください!」
ふんす! と鼻息を荒くして、ガキんちょ共にミコトを紹介していくクレア。「ミコトちゃん、こちらはカルルお兄ちゃんですよー」とかノリノリだ。
「あー私たちの子がクレアに連れ去られちゃた!」
「まだやってんのそれ? たしかにちょっと寂しいけど、俺らで独占しちゃガキんちょ共が可哀そうだ。あと、たまたまかもしれないしママを強要するなよ」
「わかってるよお兄ちゃん」
そうだ、と思い付き、「ミリィ、ラスクちゃんじゃないですよ、ミコトちゃんですよ」とか言ってるクレアに声を掛ける。
というかミリィはいい加減に諦めろ。
刷り込むな。
「クレアー、おむつとか何か必要なものはあるかー?」
「おむつ用の布は有りますけど、ガラガラとかの玩具はここには無いんです。申し訳ありませんけれど兄さまお願いできますか?」
「任せろ。大量に買ってくる。ついでに晩飯の食材だな」
「限度というものがありますよ兄さま。姉さま、兄さまをお願いしますね」
「任せてクレア」
「えっ何? エリナは俺の保護者なの?」
「似たようなものですよ兄さま。発作を起こしたら姉さまが一番上手く対処できますから」
「お前本当に九歳か? 俺より年上なんじゃねーの?」
「お兄ちゃんはねー、いつものが始まったら私がぎゅって抱きしめてあげるとすぐ治っちゃうんだよ」
「恥ずかしいからやめて。それにカルルをぎゅってすれば治るし」
そう言ってカルルを見ると、初めて出来た妹に興味津々だ。
「エリナ、俺のカルルがミコトに取られちゃった」
「はいはい、良いから買い物に行くよお兄ちゃん。ミコトちゃんの玩具を買うんでしょ」
「そうだった、行くぞエリナ! ミコトが喜ぶものを大量に買ってこよう!」
「うん! じゃあクレア、ミコトちゃんをよろしくね!」
「ミコトちゃんは任せてください。姉さま気を付けてくださいね、兄さまはすぐ調子に乗って暴走しますから」
「わかってる! お兄ちゃんの対処は任せて!」
「妹達からの信用が皆無で泣きそう」
エリナに引っ張られて孤児院を出る。「はいお兄ちゃん」と背負い籠も背負わされた。
くそ、こうなったらミコトに最高の玩具を買ってきて、委員長に「兄さま! 最高の玩具をありがとうございます!」と言わせてやろう。
「お兄ちゃん、今日は私の料理当番なんだけど、ハンバーグで良いかな?」
「良いんじゃないか? あいつら基本何でも喜んで食うけど、特に肉が大好きだからな」
「じゃあ先にお肉屋さんで成形をお願いして、その間に玩具を買いに行こうよ」
「付け合わせは省略してスープをちょっと豪華にすれば時間短縮もできるな」
「じゃあチーズ入りハンバーグにしよう!」
「お、いいな。あとは明日の朝と昼用に食パンを大量に買っておけばいいか。そろそろミリィにラスクを食わせないと。刷り込みとか露骨にアピールしだしたからな」
「ミリィのお気に入りのお菓子だしね」
「あ、しまった買い物に一緒に行きたい奴聞くの忘れてた」
「みんなミコトちゃんに夢中だったし、誰も手を上げなかったと思うよ」
「そういやあいつら最近、寒いから外に出るの嫌とか言い出してるな」
「皆で町に行く日はみんな喜んでるんだけどねー」
「やはりお小遣い制を導入すべきか。そうすれば食材の買い出しの最中に自分の小遣いを使えるだろ」
「お兄ちゃんはほんとあの子たちに甘いねー」
「お金の大切さと、使い方を教えるには良いと思うんだけどな。年齢がバラバラだからどうにも難しい」
「皆で町に行く日に年中組以上には渡してるし、それで良いんじゃないかな? お釣りは回収しちゃうけど」
「あいつらお釣りをちょろまかさないでちゃんと全額返してくるからな。恐ろしい程善良だし心配しないでも良いか」
「そうだよお兄ちゃん! 心配し過ぎだよ!」
孤児院のガキんちょ共は、あまり町中へ出たりしない。
年長組は婆さんの手伝いや荷物持ちなどでたまに婆さんと一緒に外出したりするが、年少組は外出の機会がほとんどない。
それでは可哀そうだという事で、町中くらいは俺とエリナが連れ出してやろうという事になったのだが、流石にガキんちょ九人を連れてぞろぞろ歩くのを毎日行うのは厳しいので、普段の買い物の時には何人か順番に連れてっている。
月に二回は、全員で昼食も兼ねた屋台巡りなどをしているが、普段は良く言う事を聞くガキんちょ共が、はしゃいであちこち走り出したりして大変なのだ。
年中組にはお金の使い方を教えたりと、社会勉強にもなってるしな。
孤児院以外の人間に対する恐怖心みたいな物を持つ子もいるから、外の大人に慣れさせる意味でも必要だ。
服屋が冬服のサイズを測りに来た時なんか、見たことない大人にメジャーを体に当てられた途端泣き出しちゃう子もいたし。
小遣い制の是非について語りながらエリナと共に肉屋に行く。
ほぼ毎日通ってるな。
ちなみにごっこ遊びをしている子供は一度も見ていない。
「おじさーん、こんにちはー」
「おお、別嬪な嬢ちゃんとついでに兄さんいらっしゃい」
「まあこういう扱いだわな」
「今日はチーズ入りのハンバーグを成形して貰っていいですか? いつもの大きさで人数分お願いします。あとは明日の朝と昼用にハムと鶏胸肉を一キロずつと卵を二十個ください」
「わかった。デミグラスソースは足りているのかい?」
「今日の分で終わっちゃうと思うので、また明日くらいに入れ物を持ってくるので補充をお願いします」
「ああ、じゃあ成形しておくよ」
「お願いしますねおじさん。さあお兄ちゃんミコトちゃんの玩具を買いに行こう」
「わかった。じゃあ親父よろしくな」
「おう」
てくてくとエリナに腕を抱かれながら歩いていく。
俺と二人きりの時や孤児院以外だと歳相応にしっかりしてるんだよな。
相変わらず腕の感触には変化がないけど。
「お兄ちゃん、この子うちで受け入れるの?」
「ああ、正式な手続きはこれから婆さんがやるが、この孤児院の新しいメンバーだぞ」
「よかったー、この子すごく可愛いもんね」
「姉さま、この子の世話はいいんちょーの私がします」
「えークレアずるーい。カルルの食事係も取っちゃったじゃない」
「姉さまはそれ以外の面倒を見たでしょう?」
「そうだけどさー」
「姉さまはもう冒険者のお仕事をしてるじゃないですか。可愛がるのは良いですけど、お世話は私の仕事ですよ」
「クレアのけち」
「なんで六歳も年下のクレアの方がしっかりしてるんだよ......」
「お兄ちゃんこの子の名前はわかったの?」
「いや、どこにも書いてなかった」
「じゃあ名前を付けてあげようよ!」
「そうだなー、俺はしばらく新入りとか言いそうだけど」
「お兄ちゃんは人の名前を言わないきゃらを辞めなよ!」
「キャラって言葉を使いこなしてんじゃねーよ」
「兄さまは訳の分からない名前を付けますからね。いいんちょーとか意味わからないですし」
「お前さっき自分で委員長って言ってたじゃん」
「もうちゃんと名前つけてあげて! お兄ちゃんが最初に見つけたんでしょ!」
「うーん、女の子だろ? うーん。なんか無いかな、命名ねえ命名......そうだ、ミコトってどうだ? 漢字で書くと命」
「かんじ? でもミコトちゃんって可愛いと思う! お兄ちゃんやればできるじゃん!」
「ミコトちゃん......可愛い名前ですね兄さま」
「お、好評だな。一応他のガキんちょの案も聞いて決めようぜ。委員長ちょっと聞いて来て」
「わかりました!」
委員長のクレアが他のガキんちょにアンケートを取りに行く。
委員長キャラがバッチリ合ってるじゃねーか。
俺のネーミングセンス良いじゃん。
あいつすげぇしっかりしてるんだよな。
話し方も大人みたいだし。
ガキんちょの面倒見も良いどころか好んでやってるしな。
体つきもエリナの身長を追い越しそうなほど急成長してるし。
部分的にはすでに追い越している。
数年後には緩衝材が必要無くなりそうな感じ。
胸甲を着けるような危ない仕事をさせるつもりはないけど。
クレアの髪は、日本では見かけない青色でゆるふわウェーブの長い髪型だ。
両サイドの髪を軽く後ろに流して二本の黄色のリボンで纏めている。
将来は知的美人だな。妙に大人びてるし。
「お兄ちゃんついんてーるにして!」
クレアの仕事ぶりに感心していると、俺に背中を向けて言い放つエリナ。ガキかよ。
「ポニテのままだったなそういや」
エリナの髪型をツインテールにする。
他のガキんちょの髪のセットはエリナがやってるんだから自分でできるだろって言うとお兄ちゃんがやった方が可愛いからとか言いやがる。
完全にエリナの掌で踊らされてるな俺。
「できたぞ」
「ありがとうお兄ちゃん! 私可愛い?」
「可愛いぞエリナ」
「うーん、ちょっとはヘタレが治ってきてるのはわかるんだけど、気持ちが籠って無い気がする!」
「どうすりゃいいんだよ......」
理不尽な事を言われていると、アホ妹とは違ってテキパキと働く有能な委員長が帰ってくる。
「兄さま、皆の意見を聞き終わりましたよ」
「ミコト以外にどんな候補があった?」
「ラスクちゃんって言うのがありましたけど却下しました」
「ミリィだろ。どんだけ気に入ってるんだラスク」
「あとは全員一致でミコトちゃんですよ兄さま」
「お、じゃあ命名命だな。逆から読んでも命名命」
「? お兄ちゃん、逆から読んだらとこみいめいめでしょ?」
「漢字フォントがねーんだよなこの世界」
「兄さまはたまに変な事を言うきゃらを辞めた方が良いですよ。発作は諦めましたけれど」
「辛辣過ぎだよ九歳児」
「ミコトちゃーん、エリナお姉ちゃんだよー。ミコトちゃんは可愛いねー」
昼寝が終わったのだろう、手を伸ばしてだーだー言い出したミコトを素早く抱っこしたエリナが、早速決まったばかりの名前を呼んでいる。
「あっずるいです姉さま。お昼寝が終わったら教えてくださいって言ったじゃないですか」
「早い者勝ちだからね」
「まーま、まーま」
「ちょっと聞いたお兄ちゃん! ミコトちゃんが私の事ママだって! ママ!」
「俺という男が居ながら誰の子だよ!」
「そういうの良いからお兄ちゃんもミコトちゃんに話しかけてよ」
突発性反抗期のエリナがミコトを寄越してくる。
飯を食って昼寝して落ち着いたのか、先程よりもやたらと元気だ。
お、ヤバい可愛い。
愛嬌が凄いな。
一生懸命手を俺の方に伸ばしてくる。
「ミコトーお兄ちゃんだぞー」
「だー、だー、あうー」
「ヤバい、マジ可愛いなミコト!」
ばしばしと顔を叩かれるが非常に癒される。
なんだこの生き物。
滅茶苦茶可愛い。
「ぱーぱ、ぱーぱ」
「マジかよ」
「やったー!」
「エリナ、そこは私という女が居ながらどこの女とーって言うところじゃないの?」
「やっぱり兄さまと姉さまの子供なんじゃないんですか?」
「お兄ちゃんとの子供!」
「アホな長女は無視して、しっかり者の次女のお前も抱いてみろ。死ぬほど可愛いから」
先程からうずうずとミコトを見ていたクレアに抱かせてやる。
「うわぁ......一生懸命手を伸ばしてきて可愛いです......ミコトちゃーん、クレアお姉ちゃんですよー」
「だー、きゃっきゃ! きゃっ!」
「うわ、凄い喜んでる。可愛い過ぎます......。ミコトちゃんは凄く可愛いですねー」
「クレアにめっちゃ懐いてるな。さっき婆さんと飯食わせたからかな」
クレアが鼻の下を伸ばしまくって超絶可愛がってると、我慢できなくなったのか、さっきまで玩具やらで遊んでたガキんちょ共が、抱かせてー触らせてーと群がってくる。
「じゃあクレアは委員長として皆にミコトの紹介をしてやってくれ」
「わかりました兄さま! 任せてください!」
ふんす! と鼻息を荒くして、ガキんちょ共にミコトを紹介していくクレア。「ミコトちゃん、こちらはカルルお兄ちゃんですよー」とかノリノリだ。
「あー私たちの子がクレアに連れ去られちゃた!」
「まだやってんのそれ? たしかにちょっと寂しいけど、俺らで独占しちゃガキんちょ共が可哀そうだ。あと、たまたまかもしれないしママを強要するなよ」
「わかってるよお兄ちゃん」
そうだ、と思い付き、「ミリィ、ラスクちゃんじゃないですよ、ミコトちゃんですよ」とか言ってるクレアに声を掛ける。
というかミリィはいい加減に諦めろ。
刷り込むな。
「クレアー、おむつとか何か必要なものはあるかー?」
「おむつ用の布は有りますけど、ガラガラとかの玩具はここには無いんです。申し訳ありませんけれど兄さまお願いできますか?」
「任せろ。大量に買ってくる。ついでに晩飯の食材だな」
「限度というものがありますよ兄さま。姉さま、兄さまをお願いしますね」
「任せてクレア」
「えっ何? エリナは俺の保護者なの?」
「似たようなものですよ兄さま。発作を起こしたら姉さまが一番上手く対処できますから」
「お前本当に九歳か? 俺より年上なんじゃねーの?」
「お兄ちゃんはねー、いつものが始まったら私がぎゅって抱きしめてあげるとすぐ治っちゃうんだよ」
「恥ずかしいからやめて。それにカルルをぎゅってすれば治るし」
そう言ってカルルを見ると、初めて出来た妹に興味津々だ。
「エリナ、俺のカルルがミコトに取られちゃった」
「はいはい、良いから買い物に行くよお兄ちゃん。ミコトちゃんの玩具を買うんでしょ」
「そうだった、行くぞエリナ! ミコトが喜ぶものを大量に買ってこよう!」
「うん! じゃあクレア、ミコトちゃんをよろしくね!」
「ミコトちゃんは任せてください。姉さま気を付けてくださいね、兄さまはすぐ調子に乗って暴走しますから」
「わかってる! お兄ちゃんの対処は任せて!」
「妹達からの信用が皆無で泣きそう」
エリナに引っ張られて孤児院を出る。「はいお兄ちゃん」と背負い籠も背負わされた。
くそ、こうなったらミコトに最高の玩具を買ってきて、委員長に「兄さま! 最高の玩具をありがとうございます!」と言わせてやろう。
「お兄ちゃん、今日は私の料理当番なんだけど、ハンバーグで良いかな?」
「良いんじゃないか? あいつら基本何でも喜んで食うけど、特に肉が大好きだからな」
「じゃあ先にお肉屋さんで成形をお願いして、その間に玩具を買いに行こうよ」
「付け合わせは省略してスープをちょっと豪華にすれば時間短縮もできるな」
「じゃあチーズ入りハンバーグにしよう!」
「お、いいな。あとは明日の朝と昼用に食パンを大量に買っておけばいいか。そろそろミリィにラスクを食わせないと。刷り込みとか露骨にアピールしだしたからな」
「ミリィのお気に入りのお菓子だしね」
「あ、しまった買い物に一緒に行きたい奴聞くの忘れてた」
「みんなミコトちゃんに夢中だったし、誰も手を上げなかったと思うよ」
「そういやあいつら最近、寒いから外に出るの嫌とか言い出してるな」
「皆で町に行く日はみんな喜んでるんだけどねー」
「やはりお小遣い制を導入すべきか。そうすれば食材の買い出しの最中に自分の小遣いを使えるだろ」
「お兄ちゃんはほんとあの子たちに甘いねー」
「お金の大切さと、使い方を教えるには良いと思うんだけどな。年齢がバラバラだからどうにも難しい」
「皆で町に行く日に年中組以上には渡してるし、それで良いんじゃないかな? お釣りは回収しちゃうけど」
「あいつらお釣りをちょろまかさないでちゃんと全額返してくるからな。恐ろしい程善良だし心配しないでも良いか」
「そうだよお兄ちゃん! 心配し過ぎだよ!」
孤児院のガキんちょ共は、あまり町中へ出たりしない。
年長組は婆さんの手伝いや荷物持ちなどでたまに婆さんと一緒に外出したりするが、年少組は外出の機会がほとんどない。
それでは可哀そうだという事で、町中くらいは俺とエリナが連れ出してやろうという事になったのだが、流石にガキんちょ九人を連れてぞろぞろ歩くのを毎日行うのは厳しいので、普段の買い物の時には何人か順番に連れてっている。
月に二回は、全員で昼食も兼ねた屋台巡りなどをしているが、普段は良く言う事を聞くガキんちょ共が、はしゃいであちこち走り出したりして大変なのだ。
年中組にはお金の使い方を教えたりと、社会勉強にもなってるしな。
孤児院以外の人間に対する恐怖心みたいな物を持つ子もいるから、外の大人に慣れさせる意味でも必要だ。
服屋が冬服のサイズを測りに来た時なんか、見たことない大人にメジャーを体に当てられた途端泣き出しちゃう子もいたし。
小遣い制の是非について語りながらエリナと共に肉屋に行く。
ほぼ毎日通ってるな。
ちなみにごっこ遊びをしている子供は一度も見ていない。
「おじさーん、こんにちはー」
「おお、別嬪な嬢ちゃんとついでに兄さんいらっしゃい」
「まあこういう扱いだわな」
「今日はチーズ入りのハンバーグを成形して貰っていいですか? いつもの大きさで人数分お願いします。あとは明日の朝と昼用にハムと鶏胸肉を一キロずつと卵を二十個ください」
「わかった。デミグラスソースは足りているのかい?」
「今日の分で終わっちゃうと思うので、また明日くらいに入れ物を持ってくるので補充をお願いします」
「ああ、じゃあ成形しておくよ」
「お願いしますねおじさん。さあお兄ちゃんミコトちゃんの玩具を買いに行こう」
「わかった。じゃあ親父よろしくな」
「おう」
てくてくとエリナに腕を抱かれながら歩いていく。
俺と二人きりの時や孤児院以外だと歳相応にしっかりしてるんだよな。
相変わらず腕の感触には変化がないけど。
1
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる