このやってられない世界で

みなせ

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 ピアスは、結局つけることにした。
 ケビンとカークの様子を見て、つけてもつけなくても、きっと同じだと諦めた。
 まぁ、つけておいた方が何かと安心な筈……ということで。


 夜はミリアさんのおかげで、ちゃんと自分の部屋に戻ることが出来た。
 女の子には寝るにもいろいろ準備が必要だと、わざわざ呼びに来てくれたのだ。
 カークは何か言いたげにしてたけど、ミリアさんの一睨みで口を閉じた。流石に一緒には寝たくないから、本当に助かった。
 ありがたし。



 食事前にも結構寝たのに、ベッドに入ったらすぐ眠って、ミリアさんが起こしてくれるまで爆睡だった。
 けれど、すっごく良く寝て、頭はすきっリしてるんだけど、何故か動けなかった。
 昨日と同じ、首は動くけど体の方は力が入らない。
 髪はさらに短くなってるし、色もかなり元の色に近くなっているから、エマさんの言う通りもっと眠ればきっと治るんだろうけど……今、この状況はとてもヤバイ。

 動けないってカークにばれたら、なんて言われるか。
 とりあえずミリアさんには、もう少し眠りたいって言って誤魔化したけど。

 けれど、朝ご飯までに何とかなるとは思えないし、


 ―――ちっとも誤魔化せてなかったようだ。



「やっぱり動けなくなっただろう」

 なんて、すぐにカークが嬉しそうに部屋に入ってきた。

「……勝手に人の部屋に入ってこないで。それに動けなくない。まだ眠いだけ」
「ふうん。じゃあ、逃げてみて」

 カークはそう言うと、布団をはぎとって私を抱き上げ、ベッドに腰掛けた。

「ちょ、ちょっとっ!」
「ほら、やっぱり動けない」

 暴れようと思っても、動けないんだからしょうがない。
 悔しくて、でもどうすることもできなくて、カークの肩に顔を埋めた。

「キーラ?」
「なんで、なんでいつもいつも私ばっかりこんな風になるの? エマさんは眠たくなるだけって言ってた。こんな風に動けなくなるなんて言わなかったのに」
「それは……」
「こんな風に抱かれるのも、キスされるのも、ヤダ」

 私を抱くカークの手にほんの少し力が入る。

「そんなに嫌なのか?」
「……今は、嫌」
「今は? じゃあ、今じゃなければ、いい?」
「そういう問題じゃない」

 そう言えば前もこんな話をした気がする。

「なら何が問題なんだ? キーラが動けるようになるには必要な事だ」
「でも、本当にキスしかないの? なんて言うか他の場所……ううん、えいって感じでなんとかならないの?」
「……出来るかもしれないけど、私はキスがいい」

 何、その理論。意味が分からない。

「私は……ヤダ」
「そうか。でも、せっかく領地に来たんだから、私に運ばれるより、一人で歩きたくないか? まあ、私はキーラを抱いて歩くのも嬉しいけど」

 確かに領地は見てみたい。でも、だ、別にそこまで見てみたいわけでもない。

「なら、領地を見るのは我慢する。このまま寝て治す」
「……キーラ」

 カークがため息をつく。そして私の顔に手をかけて、いつかのように自分の方を向かせた。

「私はキーラと一緒に領地を見たい。だから、ほらキスするよ」
「だからって何? 嫌だよ」
「すぐ終わる」

 必死で顔をそむけようとしたけど、いともあっさりキスされた。
 唇がくっついた瞬間、魔力が外に向かって走りぬけ、全身に力が戻ってくるのが分かる。

 私はすぐにカークの胸に手をついて体を離した。

「キスは嫌だって言ったのに」
「でもすぐに治っただろう?」
「そうだけどっ!」

 カークは笑顔のまま、私を抱きしめる。

「これで一緒に領地を回れる」
「何でそんなに領地を見せたいの?」
「せっかくだから?」

 なにそれ。
 文句をつけようと口を開いたところで、ベルが鳴った。

「ああ、ミリアが来たみたいだ。この話はまた後で」
「この話?」
「どうして今キスしたくなかったのか、後でゆっくり話し合おう」
「話し合うほどのことじゃないよ。嫌ってだけなんだから」
「そうかな? 私にはとても重要だけど」

 カークはそう言って、ようやく私を解放した。そして、

「動きやすい服と靴を用意してある。着替えたら朝食にしよう。朝食後にはオンリンナの領地に着く……さあ、準備して」

 なんて明るく部屋を出て行った。
 私は、カークと入れ替わりに入ってきたミリアさんと、首を傾げあった。













※※※ ※※※ ※※※

いつもお読み下さりありがとうございます。
あいかわらず進んでませんが、

ファンタジー大賞、
「だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)」とともに記念エントリー。

不定期投稿ですが
これからもよろしくお願いします。
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感想 12

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