このやってられない世界で

みなせ

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 カークから連絡が来たのは、夜ご飯の少し前だった。
 思ったより早くチカチカ光ったブレスレットに、ちょっと慌てる。
 忙しそうで、けれどもずいぶん楽しそうな雰囲気でカークはつながると同時に、

【フォルナトルを出発するのは明日の夕方だ。翌日のお昼前にはルテルに到着する。明々後日には会えるよ】

 って言った。

「明々後日……」
【そう、明々後日には会える。ちゃんと駅まで迎えに行くから】

 そんなこと心配してない。フォルナトルに帰ったら、家に帰る。
 オンリンナの邸に、だから。
 どっちかって言うと来なくていいって言おうとしたら、

【ごめんキーラ。まだやることがあるからもう切る。詳しいことはルキッシュ王に伝えてあるから】

 と、プチリと通信を切られてしまった。

「お父さんに伝えるならわざわざ私に連絡しなくてもよかったじゃん」

 ブレスレットに無闇に触れないから、その側を離れることもできずにずっと待っていたというのに、完全な業務連絡。
 

「もう光っても出ないからね」

 切るのも繋げるのも自由自在な感じが地味にいらついて、ブレスレットはバッグの中に放り込んでやった。


 それからすぐ、夜ご飯の時間になったけど、お父さんは来なかった。
 エマさんからは、私がフォルナトルに帰ることになってその準備が忙しいから、と聞いた。

 でも、次の日の朝も来なかった。

 エマさんは、お父さんと私の雰囲気が“本当”におかしいって思ったんだろう。
 そのことには一切触れなかった。

 それでも、明日帰ることは変わらない。

「姫様、フォルナトルには何をお持ちになりますか?」

 食事が終わったところでエマさんにそう聞かれて、私の持ち物はと今一度考える。
 カークにも言われたから、ピーちゃんは絶対連れて行くでしょ。
 それからあのバッグと、ブレスレットと……後は。

「エマさん、私がここに来た時着てた服ってどうなってるの?」
「お手入れして、保管してありますよ」
「あれ、着て帰れるかな?」
「うーん、姫様、身長が伸びましたから、少し丈が心配です」
「丈だけならお直し出来ない?」

 エマさんたち、いつも私の服をお直ししてくれてるって言うから、一応そう聞いてみる。
 あれって私が着てきたけど一応借りものだから返したいし、もしかしたら返せなくなるかもしれないから、こっちの服を借りたくない。

「うーん。出来なくはないですが……姫様が着ていらした服は、ちょっと特殊なんですよ。なので多分こちらでは難しいかと」
「特殊?」
「生地はブルザル産、縫製はデルフィー式で、バランス的に私たちではお直しが難しいんです」

 ん? バランスって何だ。
 なみぬいしてるかまつりぬいしてるかの違いとか?
 よく分からないけど、エマさんの表情を見れば、また難しい話になりそうな予感。

 よし、ここはスルーしよう。

「……そうなんだ。なら、着て来た服に近いものを貸してもらえれば」

 なんて言ったのが大間違い。エマさんの何かに火をつけちゃった。

「貸すだなんて、姫様のために用意したものばかりなんですから、遠慮せずにお好きなものを選んでお持ちください」

 何て言われて、いつかの助っ人二人も乱入。お昼ご飯とおやつの時間以外全部使って、着せ替え大会。
 いつのまにこんなに服が用意されていたのかって程の量にまず驚いた。

 ようやく、フォルナトルに着て行く服が決まったのは夜ご飯に近い時間で、私もエマさんも助っ人さんたちもすっかり疲れ切っていた。

「そろそろ夕ご飯ですね。準備しますね」

 ってエマさんたちは、部屋を片付けていなくなった。
 騒がしかった部屋がシンとなって、その時になってお父さんがお昼御飯の時も、おやつの時も来なかったことに気が付いた。





 そうなるようにしたのは自分だって分かってる。
 それでも、明日にはフォルナトルに帰るから。





 夜ご飯を食べ終わって、寝る準備をして。
 けど、お父さんは、来ない。




 カークは詳しいことはお父さんに聞けって言った。
 ルキッシュ側からの業務連絡もないのに。


 それでも、お父さんは、来なかった。





 あまり会いたくないけれど、会えないとこんなにも不安だった。






「もしかして、このまま、もう、会わないのかな」






 そうつぶやいて、自分の自分勝手さに、また落ち込んだ。

























  ※※※※※

あと一話、ルキッシュです。
その次から、帰路。


エール、ありがとうございました。
ラストまでお付き合い頂けると幸いです。
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