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しおりを挟む―――――だって、今は、私がキーラなんだもん。
「―――ッ!! ――ラッ!! キーラッってばっ!!」
ペシンッ!!
「痛いっ!」
耳元で名前を叫ばれ、顔を何かで叩かれて、私は目を開けた。
目の前に犬の姿のフェイの白い顔。
どうやら、伏せをしたフェイの前足の間にもたれ眠ってしまったらしい。フェイの耳は私の頬をまだペシペシと叩いてる。
「キーラ、大丈夫?」
「フェイ……私、寝ちゃったんだ」
「うん、でもすごく苦しそうだったから、起こしちゃった」
「苦しそう?」
「うん、すごい声で唸ってたよ」
唸る……そんな夢でもなかった気がするけど……
―――――だって、今は、私がキーラなんだもん。
もうぼんやりした夢の内容を思い出そうとして浮かんだ言葉に、思わず眉を寄せると、覗きこんでたフェイが今度は耳じゃなく鼻で私の顔をつついた。
「キーラ、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
多分……大丈夫。
言いながら、夢の事を頭の中から追い出して、フェイの胸に顔を埋める。
フェイの毛はつやつやでふかふかで、手触りがとてもいい。それに思い切り息を吸っても少しも匂いがしない。でも、それがちょっと物足りない。
ダックスフントの姿だけど、ぴったりくっつけば鼓動も聞こえるけど、動物ではないんだろう。
まぁ、守護者って言うくらいだから、そうだよね。
ぐりぐりと、フェイの毛に顔をすりつけながら、夢以外の事を考える。
ちょっと気を抜くと、あの自分の声が聞こえそうで、嫌だった。
フェイは窓のそとが暗くなるまで私の無言のぐりぐりに耐えてくれたけど、流石にそろそろ夕食って辺りで、
「キーラ、そろそろ僕帰るね。でもまた来るから」
と、帰って行ってしまった。
すぐにエマさんが夕食を持ってきて、それを食べてしまえば問題な時間になる。
夕食もお菓子のカラも片付けられて、テーブルの上にはチカチカ光るブレスレット。
それを見ると、また夢のことを思い出す。
頭を振っても、違うことを考えようとしても、もう駄目だ。
―――――だって、今は、私がキーラなんだもん。
って声が頭の中に何度も響く。
夢の中で、確かに私はそう思ったんだ。
――――今は、キーラだって。
私の知らないキーラの記憶がたくさんある。
私では思い出せない、私じゃないキーラの記憶。
――――私じゃない小さなキーラが、小さなカークを見てた。
どんなに思いだそうとしても、思い出せない記憶。
「お父さんが、あんなもの見せるから……」
どうしてだろう。
もしかしたら、しなくても、私はキーラじゃないかもしれないのに。
もし本当のキーラが現れたら、どうしようもないのに。
でも、どうしてキーラじゃなかったらって、考えるんだろう。
どうして、キーラじゃない事がこんなに怖いんだろう。
夢って、確か、その人の願望でもあるんだよね。
なら、私はキーラになりたいのかな?
キーラじゃないかもしれない、と思っているけど、キーラでありたいと思ってる……?
でも、どうして、
ドウシテ、ワタシハ、キーラニ、ナリタインダロウ。
分かってる。
分かってるけど、認めたら、認めて、違ったら怖い。
どうしよう。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
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