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お父さんが私の額に額を押し付けた。
「ほら、目をつぶって」
「目? う、うん」
びっくりしたけど慌てて目を閉じれば、いつかお父さんに触った時みたいに目の前に映像が浮かんできた。
最初は緑……オンリンナの庭と違って良く手入れされた……物凄く広い庭園だ。
何処までも続く芝生に綺麗に整えられた生垣、それを縫うように小川が流れ、あちこちにほど良くガゼボが配置され。その周りの花壇にはいろんな色がの花が咲き乱れてる。
お父さんの視界は高いところからゆっくりと下降して、川の近くの人影を映した。
「キーラ!?」
思わず叫んで、身を引いた。
目を開ければお父さんがびっくりしたように目を瞬かせ、少し笑った。
「うん、キーラ……君だ。ほら、続きを見せてあげるから、もう一度目をつぶって」
ぐいっと引き寄せられて額がくっつく。
慌てて目を閉じれば、さっきと同じ光景が浮かぶ。
まだ小さなキーラが川のほとりをふらふらと歩いている。
近付けばその前を蝶々が飛んでいるのが見えた。
捕まえようと手を伸ばし、逃げられては追いかけるのをくりかえしているようだ。
蝶々に気を取られていて、お父さんには全く気が付かない。
お父さんはそんなキーラを目を細めたり、見開いたりしながら眺めてる。
見てるだけなのに楽しそうだ。
暫くして、不意に蝶々が高く飛んだ。
キーラは立ち止まり、蝶々を追いかけて顔を上げた。
そしてすぐに不思議そうな顔になる。
どこか遠くを見つめて動かなくなった。
お父さんがキーラの視線を追って同じようにそちらを見れば、少し離れた場所に白いお邸があって、そのベランダにお母様と金髪の子供がいた。
あれって、
「カーク?」
今のカークをただ小さくしたような男の子に、目はつぶったまま声を上げる。
「そう、カーク君だ」
「これって」
「キーラが初めてカーク君に会った日だよ」
カークはお母様に向かって何か一生懸命話していて、こちらを見ていない。
キーラは身動き一つしないで、そんなカークを見つめている。
お父さんが近付いて間に割りこむと、少し驚いてから笑顔になった。
そこに蝶々が戻って来て、キーラはまたその後を追い始める。
お父さんはそれを見送って、邸を振り返った。
ちょうどお母様が椅子から立ち上がったところで、同じ視界にカークが首を横に振っているのが見えた。
二人は庭を見るためになのかこちらへ近づいてくる。
お母様が何かを指差した。
カークはのらりくらりと近付いてきて、お母様が指差した方を見た。
そして、びっくりしたように目を見開いて、ゆっくりと顔が横に動いてく。
お父さんがそんなカークに気が付いた。
慌てたようにその視線の先を見ると、当然、その先にはキーラがいる。
視界が急に広くなって、凄い勢いでカークの方へ向かった。
「お、おとうさんっ!」
「大丈夫だ、何もできないから」
確かにそうなんだろう。
カークも、お母様もお父さんには気が付かないみたいだから。
カークはしばらくキーラを見ていた。
そして、ふと視線が上に上がった。
お父さんを見ているようでも無いから、お父さんも不思議に思ったんだろう、振り返ってキーラの頭の上の方を見て、何もないことを確認してまたカークを見た。
カークはやっぱりまだキーラの少し上の部分を見ている。
何もない空間を見つめて、それから多分キーラを見て、またその上の方を見て、そしてとてつもなくいい笑顔になった。
怖いくらい嬉しそうで、楽しそうな笑顔。
「……お父さん、カーク、なに見て笑ってるのかな?」
なんだかちょっと怖くなって私はそう聞いた。
お父さんは、何故か嬉しそうに、
「さあ? 何だろうね。私にも分からないよ」
と額を離した。
「ほら、目をつぶって」
「目? う、うん」
びっくりしたけど慌てて目を閉じれば、いつかお父さんに触った時みたいに目の前に映像が浮かんできた。
最初は緑……オンリンナの庭と違って良く手入れされた……物凄く広い庭園だ。
何処までも続く芝生に綺麗に整えられた生垣、それを縫うように小川が流れ、あちこちにほど良くガゼボが配置され。その周りの花壇にはいろんな色がの花が咲き乱れてる。
お父さんの視界は高いところからゆっくりと下降して、川の近くの人影を映した。
「キーラ!?」
思わず叫んで、身を引いた。
目を開ければお父さんがびっくりしたように目を瞬かせ、少し笑った。
「うん、キーラ……君だ。ほら、続きを見せてあげるから、もう一度目をつぶって」
ぐいっと引き寄せられて額がくっつく。
慌てて目を閉じれば、さっきと同じ光景が浮かぶ。
まだ小さなキーラが川のほとりをふらふらと歩いている。
近付けばその前を蝶々が飛んでいるのが見えた。
捕まえようと手を伸ばし、逃げられては追いかけるのをくりかえしているようだ。
蝶々に気を取られていて、お父さんには全く気が付かない。
お父さんはそんなキーラを目を細めたり、見開いたりしながら眺めてる。
見てるだけなのに楽しそうだ。
暫くして、不意に蝶々が高く飛んだ。
キーラは立ち止まり、蝶々を追いかけて顔を上げた。
そしてすぐに不思議そうな顔になる。
どこか遠くを見つめて動かなくなった。
お父さんがキーラの視線を追って同じようにそちらを見れば、少し離れた場所に白いお邸があって、そのベランダにお母様と金髪の子供がいた。
あれって、
「カーク?」
今のカークをただ小さくしたような男の子に、目はつぶったまま声を上げる。
「そう、カーク君だ」
「これって」
「キーラが初めてカーク君に会った日だよ」
カークはお母様に向かって何か一生懸命話していて、こちらを見ていない。
キーラは身動き一つしないで、そんなカークを見つめている。
お父さんが近付いて間に割りこむと、少し驚いてから笑顔になった。
そこに蝶々が戻って来て、キーラはまたその後を追い始める。
お父さんはそれを見送って、邸を振り返った。
ちょうどお母様が椅子から立ち上がったところで、同じ視界にカークが首を横に振っているのが見えた。
二人は庭を見るためになのかこちらへ近づいてくる。
お母様が何かを指差した。
カークはのらりくらりと近付いてきて、お母様が指差した方を見た。
そして、びっくりしたように目を見開いて、ゆっくりと顔が横に動いてく。
お父さんがそんなカークに気が付いた。
慌てたようにその視線の先を見ると、当然、その先にはキーラがいる。
視界が急に広くなって、凄い勢いでカークの方へ向かった。
「お、おとうさんっ!」
「大丈夫だ、何もできないから」
確かにそうなんだろう。
カークも、お母様もお父さんには気が付かないみたいだから。
カークはしばらくキーラを見ていた。
そして、ふと視線が上に上がった。
お父さんを見ているようでも無いから、お父さんも不思議に思ったんだろう、振り返ってキーラの頭の上の方を見て、何もないことを確認してまたカークを見た。
カークはやっぱりまだキーラの少し上の部分を見ている。
何もない空間を見つめて、それから多分キーラを見て、またその上の方を見て、そしてとてつもなくいい笑顔になった。
怖いくらい嬉しそうで、楽しそうな笑顔。
「……お父さん、カーク、なに見て笑ってるのかな?」
なんだかちょっと怖くなって私はそう聞いた。
お父さんは、何故か嬉しそうに、
「さあ? 何だろうね。私にも分からないよ」
と額を離した。
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