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「今更、これが出てくるとは思わなかった」
三人の敵が見守る中、大変な思いをして食べ終わったと言うのに、私は解放されないらしい。
アルコールの香りがする飲み物を前に、クラインがそんなことを言う。
そんなこと、はっきり言ってどうでもいい。
だけど、どうしても話したいという雰囲気で、なまじ口を出すのは危険な感じだ。
「それが森に落ちていたってことは、ヴァンはやっぱりもういないのね」
「そうだろうなぁ……追いかけてそのまま……って感じか」
「馬鹿よね。一言言ってくれればよかったのに」
「……巻き込まないつもりだったんだろ。クラインもまだ幼かったし……ここに残っていたのは役立たずばかりだ」
店主二人が深くため息をつき、
クラインは巾着袋をいじりながら、眉を寄せた。
「今更だけど、これで親父が魔法陣を使ってないことが証明された。本当に今更だけど」
「そうねえ」
「もう誰もいないから証明されても意味がない……」
「他人はどうでもいいじゃないか。クライン、お前の気持ちだ。ずっと信じてたんだろ?」
「それはそうだけど……」
ふと、三人がそろってこっちを見た。
「旅人さん、私たちの話を聞いて、何があったか気にならない?」
人が空気を読んで静かにしていると言うのに、何故そんなことを。
「……何があったんですか?」
全然気になりません……とは絶対言わせないと目力に、負けた。
「俺が生まれる前に王家の人たちが王都へ行ってしまった話はしただろ。でもその時はまだ魔法陣は使えたんだ」
クラインが嬉々として(?)話しだした。
クラインが生まれたころ町の人口は、全盛期の三分の一くらいになっていて、そのほとんどは老人と魔力が少ない人ばかりだった。魔力が多い人や若者はみな王家について王都へと行ってしまったから。
旅人も少なくなり町はどんどん寂れていっていた。
そんな時、王家の一人が町に帰ってきた。それは青の王家の中でも素行が悪く、良い噂のない人物だった。
それでも王家の人間だ。町の中では最高権力者、やりたい放題を誰も止めることが出来なかった。当然人々には不満が貯まり、ある日喧嘩になった。
それを止めたのがクラインの父、ヴァンだった。
その時はお互い納得して終わったが、数日後魔法陣が壊さているのが発見された。
魔法陣がなければこの街に物資が入ってこない。
犯人探しが始まった時、王家の男が「ヴァンが魔法陣を使って壊した」と言ったそうだ。
町の人たちはその言葉を信じたわけではなかったけど、結局王家の人間には逆らえなかった。
魔法陣が壊れたことで王都から捜査員が派遣されたけれど、ヴァンのせい……と言うことで、王家の男はお咎めなし。王家の男は町の人の殆どを連れて王都へ戻って行った。町に残った人には魔法陣を使えるだけの魔力を持つものもいなかったので、魔法陣は壊れたままになった。
クラインは父親がそんなことをする筈がないと訴えたけれど、どうしようもなかったらしい。父親が魔法陣を使っていないという証拠がないと言われたそうだ。
「どうして、その巾着袋が証拠になるんですか?」
「お嬢ちゃんは知らないのか。この巾着には魔法が掛かっている。何があっても本人の元へ戻るという魔法が。青の王家がこの街で商売することを許可した者に与えていたんだ。ヴァンがもし王都へ移動していたら、この巾着は王都にあるはずだ。森に落ちているってことは、ヴァンが森のこの巾着があった場所で……」
おじさんが言葉を止めた。
うーん。その言葉の続きはわかるけど、良く分からない。
「……魔法陣で森に行くことは出来ないんですか?」
「……あの魔法陣は王都にしかつながっていない。王家の緊急用だから」
「そう、ですか」
えーっと、どうしよう。
財布を拾って届けると言う行為は善行の筈なのに……これなんて罰ゲーム。
……余計なことはしてはいけないという、戒めなんだろうか。
そっと隣に立つフェイを見上げる。フェイは相変わらずにこにこしている。
「今更だけど、これでやっと親父の無実が証明される」
クラインがそう言って巾着袋を握り締めた。
「認められれば、やっと宿を閉めることが出来る」
「宿、やめるんですか?」
「あぁ、親父が罪人だから、俺は親父の代わりに宿を続けなければならなかったんだ。この巾着袋一つのせいでね」
三人の敵が見守る中、大変な思いをして食べ終わったと言うのに、私は解放されないらしい。
アルコールの香りがする飲み物を前に、クラインがそんなことを言う。
そんなこと、はっきり言ってどうでもいい。
だけど、どうしても話したいという雰囲気で、なまじ口を出すのは危険な感じだ。
「それが森に落ちていたってことは、ヴァンはやっぱりもういないのね」
「そうだろうなぁ……追いかけてそのまま……って感じか」
「馬鹿よね。一言言ってくれればよかったのに」
「……巻き込まないつもりだったんだろ。クラインもまだ幼かったし……ここに残っていたのは役立たずばかりだ」
店主二人が深くため息をつき、
クラインは巾着袋をいじりながら、眉を寄せた。
「今更だけど、これで親父が魔法陣を使ってないことが証明された。本当に今更だけど」
「そうねえ」
「もう誰もいないから証明されても意味がない……」
「他人はどうでもいいじゃないか。クライン、お前の気持ちだ。ずっと信じてたんだろ?」
「それはそうだけど……」
ふと、三人がそろってこっちを見た。
「旅人さん、私たちの話を聞いて、何があったか気にならない?」
人が空気を読んで静かにしていると言うのに、何故そんなことを。
「……何があったんですか?」
全然気になりません……とは絶対言わせないと目力に、負けた。
「俺が生まれる前に王家の人たちが王都へ行ってしまった話はしただろ。でもその時はまだ魔法陣は使えたんだ」
クラインが嬉々として(?)話しだした。
クラインが生まれたころ町の人口は、全盛期の三分の一くらいになっていて、そのほとんどは老人と魔力が少ない人ばかりだった。魔力が多い人や若者はみな王家について王都へと行ってしまったから。
旅人も少なくなり町はどんどん寂れていっていた。
そんな時、王家の一人が町に帰ってきた。それは青の王家の中でも素行が悪く、良い噂のない人物だった。
それでも王家の人間だ。町の中では最高権力者、やりたい放題を誰も止めることが出来なかった。当然人々には不満が貯まり、ある日喧嘩になった。
それを止めたのがクラインの父、ヴァンだった。
その時はお互い納得して終わったが、数日後魔法陣が壊さているのが発見された。
魔法陣がなければこの街に物資が入ってこない。
犯人探しが始まった時、王家の男が「ヴァンが魔法陣を使って壊した」と言ったそうだ。
町の人たちはその言葉を信じたわけではなかったけど、結局王家の人間には逆らえなかった。
魔法陣が壊れたことで王都から捜査員が派遣されたけれど、ヴァンのせい……と言うことで、王家の男はお咎めなし。王家の男は町の人の殆どを連れて王都へ戻って行った。町に残った人には魔法陣を使えるだけの魔力を持つものもいなかったので、魔法陣は壊れたままになった。
クラインは父親がそんなことをする筈がないと訴えたけれど、どうしようもなかったらしい。父親が魔法陣を使っていないという証拠がないと言われたそうだ。
「どうして、その巾着袋が証拠になるんですか?」
「お嬢ちゃんは知らないのか。この巾着には魔法が掛かっている。何があっても本人の元へ戻るという魔法が。青の王家がこの街で商売することを許可した者に与えていたんだ。ヴァンがもし王都へ移動していたら、この巾着は王都にあるはずだ。森に落ちているってことは、ヴァンが森のこの巾着があった場所で……」
おじさんが言葉を止めた。
うーん。その言葉の続きはわかるけど、良く分からない。
「……魔法陣で森に行くことは出来ないんですか?」
「……あの魔法陣は王都にしかつながっていない。王家の緊急用だから」
「そう、ですか」
えーっと、どうしよう。
財布を拾って届けると言う行為は善行の筈なのに……これなんて罰ゲーム。
……余計なことはしてはいけないという、戒めなんだろうか。
そっと隣に立つフェイを見上げる。フェイは相変わらずにこにこしている。
「今更だけど、これでやっと親父の無実が証明される」
クラインがそう言って巾着袋を握り締めた。
「認められれば、やっと宿を閉めることが出来る」
「宿、やめるんですか?」
「あぁ、親父が罪人だから、俺は親父の代わりに宿を続けなければならなかったんだ。この巾着袋一つのせいでね」
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