このやってられない世界で

みなせ

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 眼下の森は王都を離れるほど深くなり、次第に白い靄も濃くなっていった。
 フェイはふよふよと漂うように、だけど迷うことなく、見渡す限りの靄と森の上を進んでいく。
 窓から見ていた時は遅いなって思っていたけど、意外と速かった。
 どんどんと流れて行く景色に、目が追いつかないくらいだ。

『キーラ、大丈夫? 疲れてない?』

 膝をかかえたまま座り続けていると、フェイの声が聞こえた。
 地理が分からないし、目立つ目印もないので、どのくらい進んだのかは分からない。
 でも、かなりの時間そうしていたと思う。

「まだ、大丈夫だよ」
『そう、もう少しで町があるから、一度そこに降りるね』
「町?」
『うん。おいしいご飯食べたいでしょ?』
「……食べたいけど、私お金とか持ってないよ」
『お金……うーん。お金。あ、そうだ、あれ使えるかな』

 フェイはそう言うと、急に右に曲がって降下し、木々の間を縫うようにしながら、やがて一本の巨木へとたどり着いた。
 周囲の木々とは明らかに品種もサイズも違う、その木のもさもさした葉っぱの中にフェイは飛び込み、その奥にあった穴の中へと入っていく。
 樹自体が大きいから、当然うろも大きい。
 フェイがそのまま入ってもまったく問題なかった。
 入口も天井も奥行きも……ルキッシュの私がいる部屋の四・五倍はありそうだ。

『キーラ、一回降りて』

 フェイはそう言って私を降ろすと、大人の姿に変わった。

「フェイ、ここは?」
「ここはね、ここら辺の森で拾った物を集めておく場所。みんな狩りとかで森に入ってくるんだけど、忘れ物も多いんだよ。そのままにしておくと危ないでしょ。だからここに集めてるの」

 白い犬の姿で森の中をただふらふらしているだけだと思ったら、ちゃんと守護者らしい仕事もしているんだ。

「こっちこっち」

 穴の奥の方からフェイが呼ぶ。
 近付いて行くと、いろんなものが積み重なった物の中かから、布のようなものを渡された。
 広げてみるとフード付きのマントだ。

「それから、これかな? これもいいな」

 と、ショルダーバックにベルト、ちゃりちゃりと音がするものが入った巾着袋が出てくる。

「どうするの? これ」
「旅人ってこんな感じだから、違うの?」

 いや、私もこっちの旅人のことは分からないけど……まぁ多分合ってる……気がする。

「それにキーラはちょっと目立つから」

 って、髪を見られた。
 長くて量は多いけど軽いからあまり気にならない。でも確かにこの三つ編みの真っ白な髪は目立つよね。
 私はベルトで髪を腰にくくりつけ、マントを着てみた。

「これで、どう?」
「うん。よくみる旅人さんになったよ」
「こっちは?」

 ショルダーバックを肩にかけ、巾着袋を開けてみる。
 きんちゃくには金色、銀色、銅色の同じ大きさのコインと、小さく折りたたまれた紙が入っていた。

「これ、お金?」
「だと、思う。僕使ったことないから分からないけど……使えると思うよ」
「結構入ってるけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。もう何年も前のものだから」

 フェイはそう言うけど、なんとなく気が咎める。
 とりあえず紙を開いてみると、どうやら手紙のようだった。
 子供の文字だろう大きくてひしゃげた字が並んでいる。
 本文は読みとれないが、宛名と差出人の名前は分かった。

「町って大きいの?」
「どうだろう? 良く分からない」
「そっか……ねぇ、フェイ、袋に入ってないお金だけは拾わないの?」
「あるよ」
「じゃあ、そっちを少しちょうだい」
「うん」

 フェイは頷いて、また山をかきわける。

―――― 一応持ち主を探してみて、駄目なら使おう。

 そう決意して、手紙を巾着袋に戻しショルダーバックへと入れる。
 山から十枚ほどの硬貨を探し出したフェイは、何も入っていない巾着袋と共に私にくれた。そして、言った。

「じゃあ、街に行こう……あ、その前に少しお菓子食べよう!」
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