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夕食後、カークと一緒にあの部屋へ向かった。
「こっちに座って」
ソファーに向かい合って座ると、カークは手をひらひらさせた。
キン、って音がして、空気が変わる。
耳に水が入ったときみたいな閉塞感と耳鳴りに、自然と眉がよった。
カークは、そんな私の目の前に一枚の紙を差しだした。
金の蔦で縁取りされたその紙には、物凄く細かな文字で何かたくさん書いてあった。
よくこの紙の中にこんなに書いたよなってくらいの量だ。
「これ、読むの?」
目は悪い方じゃないと思うけど、あまりに文字が小さくてはっきり言って読めそうにない。虫眼鏡が必要だと思う。
「大丈夫だ、読まなくて」
「は?」
契約書でしょ?
普通読むでしょ?
「紙の端に触ってみて」
私が口を開く前に、カークがそう言った。
顔をしかめたまま言われた通り紙の端に触ると、魔力が抜かれた。
量は多くないけれど、少しずつ魔力が抜けて行くと同時に、紙の上の文字が私の触れた方から順に輝きだす。
広がるように全部の文字に光がともると、今度はその文字が空に浮かび上がった。
文字はスルスルと一本に連なって天井まで伸びて行き、新体操のリボンみたいにくるくると円を描きながら降りてきた。
そして私のちょうど目の前を、最初の文から通り過ぎていく。
読むと言うより見るって感じで、物凄いスピードで通り過ぎるのに、ごく自然にその文字は頭に入ってきた。
時間にして数分くらいだろうか。
最後の文字が終わると、空にあった文字はまた紙へと戻って行き、紙が最初の状態に戻ると、頭の中の文字が文章へと変換された。
文字が文章になるに従って、内容が分かってくる。
「どう?」
頭の中の処理が追いつかなくて目を瞬かせていると、カークが聞いてきた。
「どうと言われても」
「キーラにとって悪いことは書いていないだろう?」
「今のところは」
今見ているのは、王家との関係とか、当主の義務とか道徳的なことだ。
言い回しも難しくないし、特に変だと思うようなことは書かれていない。
「えーっと、契約って、これだけ?」
「今回の契約は、王家がキーラをオンリンナの当主として認めると言う基本の契約だ」
「基本ってことはまだあるの?」
「あぁ、たくさんある。本当は全部一気に契約したほうが楽だけど、キーラにはまだ無理だと思うから、彼らを追い出すために必要なものだけを入れておいた」
「この契約で追い出せるの?」
なんだか良く分からない。
「出て行ってもらうよ。あの家はオンリンナの物なのだから」
「そうだけど、そんなに簡単にあの人たち出て行くかな?」
絶対何かいいがかりをつけて居座りそう。
「キーラが出て行けと言えば、出て行かないわけにはいかないだろう?」
それが言えたら、こんなことになってないでしょ。
なんとも言えなくて顔をしかめる。
「キーラと何の関係もない者が、オンリンナを名乗るのは許されない」
「でも、名前だから、使おうと思えば使えるんじゃないの?」
「名乗ることは出来るかもしれないけど、キーラがサインをした時点で、彼らが書いたすべての契約書から“オンリンナ”の部分が消えることになる」
「へ?」
どう言うこと?
「彼らがオンリンナを名乗れるのは、カーラとの契約がキーラによって継続されてしまったからだ。カーラが当主になった時、結婚についても新しく契約し直すべきところが抜けていて、宙ぶらりんになった契約を血によってキーラが受け継いだ。今キーラが当主になれば、その契約はまた宙ぶらりんになる。受け継ぐのはキーラだけだから、キーラの意思で契約は終わらせられる。今は、カーラの夫としてオンリンナを名乗っているけど、キーラがサインをした時点で、カーラの夫と言う立場ではもうオンリンナの名前は使えなくなる。契約が無くなれば彼らはオンリンナではなくなるってこと」
それがこの国の契約だよ。
とカークがにっこりと笑った。
「こっちに座って」
ソファーに向かい合って座ると、カークは手をひらひらさせた。
キン、って音がして、空気が変わる。
耳に水が入ったときみたいな閉塞感と耳鳴りに、自然と眉がよった。
カークは、そんな私の目の前に一枚の紙を差しだした。
金の蔦で縁取りされたその紙には、物凄く細かな文字で何かたくさん書いてあった。
よくこの紙の中にこんなに書いたよなってくらいの量だ。
「これ、読むの?」
目は悪い方じゃないと思うけど、あまりに文字が小さくてはっきり言って読めそうにない。虫眼鏡が必要だと思う。
「大丈夫だ、読まなくて」
「は?」
契約書でしょ?
普通読むでしょ?
「紙の端に触ってみて」
私が口を開く前に、カークがそう言った。
顔をしかめたまま言われた通り紙の端に触ると、魔力が抜かれた。
量は多くないけれど、少しずつ魔力が抜けて行くと同時に、紙の上の文字が私の触れた方から順に輝きだす。
広がるように全部の文字に光がともると、今度はその文字が空に浮かび上がった。
文字はスルスルと一本に連なって天井まで伸びて行き、新体操のリボンみたいにくるくると円を描きながら降りてきた。
そして私のちょうど目の前を、最初の文から通り過ぎていく。
読むと言うより見るって感じで、物凄いスピードで通り過ぎるのに、ごく自然にその文字は頭に入ってきた。
時間にして数分くらいだろうか。
最後の文字が終わると、空にあった文字はまた紙へと戻って行き、紙が最初の状態に戻ると、頭の中の文字が文章へと変換された。
文字が文章になるに従って、内容が分かってくる。
「どう?」
頭の中の処理が追いつかなくて目を瞬かせていると、カークが聞いてきた。
「どうと言われても」
「キーラにとって悪いことは書いていないだろう?」
「今のところは」
今見ているのは、王家との関係とか、当主の義務とか道徳的なことだ。
言い回しも難しくないし、特に変だと思うようなことは書かれていない。
「えーっと、契約って、これだけ?」
「今回の契約は、王家がキーラをオンリンナの当主として認めると言う基本の契約だ」
「基本ってことはまだあるの?」
「あぁ、たくさんある。本当は全部一気に契約したほうが楽だけど、キーラにはまだ無理だと思うから、彼らを追い出すために必要なものだけを入れておいた」
「この契約で追い出せるの?」
なんだか良く分からない。
「出て行ってもらうよ。あの家はオンリンナの物なのだから」
「そうだけど、そんなに簡単にあの人たち出て行くかな?」
絶対何かいいがかりをつけて居座りそう。
「キーラが出て行けと言えば、出て行かないわけにはいかないだろう?」
それが言えたら、こんなことになってないでしょ。
なんとも言えなくて顔をしかめる。
「キーラと何の関係もない者が、オンリンナを名乗るのは許されない」
「でも、名前だから、使おうと思えば使えるんじゃないの?」
「名乗ることは出来るかもしれないけど、キーラがサインをした時点で、彼らが書いたすべての契約書から“オンリンナ”の部分が消えることになる」
「へ?」
どう言うこと?
「彼らがオンリンナを名乗れるのは、カーラとの契約がキーラによって継続されてしまったからだ。カーラが当主になった時、結婚についても新しく契約し直すべきところが抜けていて、宙ぶらりんになった契約を血によってキーラが受け継いだ。今キーラが当主になれば、その契約はまた宙ぶらりんになる。受け継ぐのはキーラだけだから、キーラの意思で契約は終わらせられる。今は、カーラの夫としてオンリンナを名乗っているけど、キーラがサインをした時点で、カーラの夫と言う立場ではもうオンリンナの名前は使えなくなる。契約が無くなれば彼らはオンリンナではなくなるってこと」
それがこの国の契約だよ。
とカークがにっこりと笑った。
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