このやってられない世界で

みなせ

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 カークが出て行くのと入れ替わりに、ケビンが朝食を持って現れた。
 私の分が一なら、ケビンの分が十くらいの差があるけど、自分で持ってきたんだから正しい量なのだろう。

「そう言えば、ピーちゃん、ケビンのところにいるの?」

 少し落ち着いたところで、私はそう聞いた。

「あー、ピーちゃんは……家に連れて行ったら親父が興味を持って、分析させろって言うんだ。だから……」
「で置いてきたの?」
「あぁ、肉と引き換えって言ったら、もう親父にべったりで……捕まえることも出来なかった」

 決まり悪そうに言うけど、飼い主の許可は?

「悪いようにはしないって、親父はいってたから心配するな」
「そういう問題じゃないでしょう」

 呆れてため息しか出ない。

「悪かったよ。時間がある時迎えに行ってくるから」
「ううん、いいよ。どうせここでも厨房にいるだろうから、もういい」
「ははは、そうだな。じゃあ……食べ終わったら始めようか」







 食事を終えて、ケビンが私を庭へと促した。

「着替えたほうがいい?」

 ケビンは白いシャツに黒いズボンだった。私はワンピースだから、運動するには不向きだろう。靴だってそうだ。長く歩いたりするには向かないものしかない。

「いや、今日はとりあえず歩いてみるってことで。どのくらい歩けるか確かめよう」
「歩く?」
「そう、昨日の感じだと、体力だけじゃないような気がするから、そっちも調べてみようと思うんだ。で、その結果でデリック達に補助をしてもらうようにする」
「へぇ。あれ、今日はデリック達はいないの?」
「家に一度帰ってる。デリックはずっと帰っていなかったし、これからのことを報告してくるって言っていた」

 そっか、デリックの父は騎士団長だっけ。

「ほら、手を出せ」

 ケビンがそう振り返って、手を出してきた。
 あれ、ウォーキングじゃないんだ。
 ポンとその手に手を重ねると、ケビンは少し早歩きで昨日カークと歩いた小道を進み始めた。

「ケビンとカークっていつからの付き合いなの?」

 無言で歩いているのも辛かったので、歩くのに慣れたころそう聞いてみた。

「結構長いよ。養子になってすぐくらいだな」
「……養子」
「知らないか」

 いや、知っていたけど、本当にそうなんだと思って。

「俺は孤児で、魔力が強かったから養子になったんだ。カークと会ったのは七歳くらいかな。キーラはどうなんだ?」
「どうって?」
「カークと長いのか?」
「えっと、義妹のこともあって知ってはいたけど、ちゃんと話したのは、フランク、さ、んの事件の時が初めてだよ」
「カークは知ってたんだろう?」
「そうみたい。でも私は知らなかった」
「そうか。その割に……」
「その割に、何?」
「仲いいよな」
「……」

 足が止まる。
 急に止まったので、ケビンがつんのめった。

「そう見える?」

 振り返ったケビンに聞く。

「あぁ、結構いちゃいちゃしてるだろ?」
「いちゃいちゃ……」
「だって嫌がってないだろ?」
「嫌がってるよ。でも、嫌だって言っても止めてくれない」

 ぼそぼそと言ってみる。

「キーラはカークのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、まだ分からない。だって、ここにきてからずっと寝てたんだよ。会うのはカークとアリーダさんだけだったし、本当に何が何だか」

 あれ、私、何でこんなこと話しているんだろう?

「……そっか。そうだよな。キーラもいろいろ大変だな」
「大変じゃなくもないけど……今は良く分からない」

 そう首を振る。ケビンがため息をついた。

「あいつ、学園に入ってからずっとおかしかったんだ。デリックがキーラを殴った後からはひどいポンコツになって、最近はそれに拍車がかかっている。俺はそれがキーラのせいだと思っていた。俺の知らない間に、キーラに何かされたって思っていたんだ」
「それは」
「分かってる。この間話した時、分かった。これはカークの問題だって。それで、俺は親父に聞いたんだ」

 え、なんでそこでお父さんなの?
 と思ってケビンを見たけど、ケビンは気がつかないまま続ける。

「そしたら親父はこう言ったんだ。落ち着かせたければ相手に受け入れさせろって」
「受け入れる?」
「そう、カークはキーラを好きだ。これは間違いない」
「はぁ」
「婚約するんだよね?」

 だから、あれは(仮)で……とは言えないので、眉を寄せ、無言で抗議する。

「だからこの際だから、カークに好きだって言ってみて。そうすれば落ち着くかどうか分かるから」



―――――あれ。この人も、馬鹿なのかな?
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