このやってられない世界で

みなせ

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 なんとなく誰かの気配を感じて、目が覚めた。
 まだ物凄く眠いのに、その何かが気になって、意識がたゆたう。
 重い瞼の片方を持ち上げて、その誰かへと視線を動かすと、薄暗い部屋に浮かび上がる見慣れたシルエット。

「……カーク?」

 勝手にこの部屋に入るのは、カークとアリーダさんくらいだ。
 一応、名を呼んでみる。
 身じろぐ影に、違和感を覚えて、少しだけ覚醒した。
 なんとかこじ開けた両目で良く見ると、なんとなくカークより輪郭が大きい気がする。

――――カークに良く似た人って、多分一人しかいないよね……

 起きればいいのか、このまま寝てしまった方がいいのか。
 考えているうちに、どんどん目が覚めてきた。
 一応確かめた方がいいんだよね。きっと。

「……明りを」

 私の言葉で部屋に明かりが点く。
 眩しくて目を閉じて、それでもゆっくりそちらを見ると、椅子に座っているのは、やっぱりカークじゃなくて。

 恨めしい気持ちで見つめていると、目があってしまった。
 極上のほほ笑みに、飛び上がってベッドを降り、その人の前に土下座する。

「なに、してるの?」

 カークに良く似た、でも少しだけ深い声。

「国王陛下におかれましては、このような場所においでいただき……」

 床に伏したまま慌てて、とりあえずそれらしい言葉を言ってみたんだけど、途中で大きな笑い声に止められた。

「はははっ! 本当に、オンリンナ家の人たちは面白いね!」

 声が動いて近づいてくるのが分かってさらに気持ちは焦るけど、動かない方が無難かと床にさらに頭をすりつける。

「そんなことしなくていいよ」

 言葉と共に腰辺りに手の感触。
 おうっと言うより先に体が浮いて、あっさりと抱きかかえられた。
 物凄く近い位置に、カークと同じ金髪碧眼の、カークが年をとったらそうなるだろうなって感じの、カークに良く似た綺麗な顔がある。
 何より、キーラの扱い方がカークと同じなのがなんとも言えない。
 陛下はくすくす笑いながら、そのまま椅子に腰かけた。

――――あれ、離してくれないの?

 疑問一杯の私は、当たり前だけど陛下の膝の上にいる。
 もう四捨五入すると二十歳になる女子を、みんなどうしてこんな扱いをするんだろうか。そりゃあキーラは世間一般の同じ年の女子より少し小さいけれど。
 こっちの身にもなってほしい。

「あの……」
「やっぱり、カーラに良く似ているね」

 私の顔をしばらく見てから、陛下はそう言ってほほ笑んだ。
 こっちは緊張してガチガチなのに、陛下はすごく楽しそう。

「家の子が、迷惑をかけているようだね」
「……いえ、そんなことは」
「無くないよね?」

 有無を言わせない眼力です。
 私は、社交辞令を諦めて小さく頷いた。
 満足したように、陛下も頷く。

「ごめんね、巻き込んでしまって」

 巻き込まれると言うか、私も当事者だと思うけど。

「ごちゃごちゃやってないで、根本をたってしまえば終わるのにね」

 と言われましても。根本って何でしょう?

「……陛下はどこまで知っているんですか?」

 ため息と共につぶやかれた言葉に、直球を投げてみる。
 陛下は、困ったように首を傾げる。

「まぁ、大体は知っているよ?」
「大体って、何を、どこまでですか?」
「ぐいぐい来るね。……まぁ、ほとんど、かな?」
「ほとんど?」
「この国で起こっていることは、すべて分かるよ。知ろうとすれば、だけどね」

 茶目っ気たっぷりに言うけど、怖いこと言ってるよね。
 今度は私が首を傾げる。
 陛下はまたくすくす笑った。

「国王だからね、君たちの世界ではチートって言うんだろう? カーラにも、マークにも言われた。その能力えげつないって」
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